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生徒会、帰宅す

寄り道もせず、俺とミコトは二人並んで生徒寮へ歩みを進める。

会話は特になかった。

ただ、風と足音だけが続いていた。


10分か15分くらい歩き続けた頃、寮の姿が見えてきた。

通い慣れた道でも、この時間に歩くことは余りない。少し新鮮だ。


5階建ての、マンションのような建築物。

電灯の光に照らされて白っぽい壁面にマーブル模様が浮かんでいる。


既に時刻は門限の十数分前。

結構ギリギリだった。


玄関口で管理人さんと管理AIのダブルチェックを受け、中へと入る。

このチェックの一環に『校章バッチ』が活用されているとのことだ。

詳しい仕組みは理解していない。

ただこのバッチをつけていなければ、玄関口は開かない。

そういう仕掛けになっているとのことだ。

昨年の入学オリエンテーションの際に口酸っぱく説明された。



建物の中に入ってまず目にするのが、広々としたエントランスホールだ。

上等なホテルのような作りになっている。


床は磨き上げられた石材が敷き詰められている。

踏み入れれば足に返ってくるひんやりとした感触が気持ちいい。


天井からは、飾りが付いたシャンデリア風の照明がいくつか下がっている。

ホテルっぽさを醸し出している1番の要因だと個人的に思っている。


壁は一面が落ち着いた色合いのパネルで覆われている。

間接照明が仕込まれているらしく、暖かな光を放っている。


壁のところどころには、大小さまざまな絵画がかけられている。

正直なところイマイチ価値は分からない。

良いものなのだとは思う。


一部の壁には、デジタル時計が投影されている。

投影されている部分の壁は見やすいように別の色でデザインされている。


エントランスホールの中央には背の高い観葉植物が置かれている。

待ち合わせをする際に第一候補となる場所だ。


角にあるスペースには、少々奇抜なデザインのオブジェが飾られている。

有名な彫刻家となった卒業生の作品とのことだ。




どうしてこんな内装になったのか、詳しい経緯は分からない。

数代前の校長の趣味であるらしい、というのが有力な噂の一つとして広まっている。本当かは知らない。真相は闇の中だ。


エントランスの左奥側には食堂が、右奥側には共有エリアがある。

どちらのエリアにもぽつぽつと人影がある程度で、ピークはとうに過ぎているようだった。


ミコトとはエントランスホールで別れを告げた。


理由は明白だ。

2階以上の区画は東棟の【男子寮】と西棟の【女子寮】に分かれているからだ。


当然のこと、それぞれの棟への異性の立ち入りは禁止されている。

教育機関の施設としては当然のことであろう。


この学校では数少ない『不』『自由』なところだが、文句を言う生徒は多くない。

連絡を取るくらいならスマホ一つでも簡単にできる。

なによりVR空間にさえログインしてしまえば、大抵の問題は解決できるからだ。



なんだかんだで男子寮の自室に戻った俺は、ベッドの上に仰向けになり、天井を見上げる。天井のシミが顔に見える。


「……ツッコミで寿命縮んだ気がする」


そうボヤきながら、身体を無理矢理動かす。

椅子に座り直し、タブレットの電源を入れる。

明日の会議資料を作成しないといけない。

少し憂鬱だ。


そう思いながらも、袋の中からガサゴソと例のおにぎりを取り出した。

ゆっくりと包みを開ける。

夜の静寂の中、海苔のパリッとした音がやけに響いた。


口に運んだ瞬間、思わず目を細めた。


「うめぇ……。これは供物じゃなくて、癒しだったな」


その時、スマホにメッセージが届く。


《さっきの供物、ちゃんと召喚成功しましたか?》

《それとも、まだ魔界の儀式中ですか?》


タイムリーなそれに吹き出しそうになりながらも、真面目な顔で返信する。


《召喚は成功。供物の加護でHP全快》

《明日はバカを封印しといてくれ》


即座に返ってくるメッセージ。


《了解。封印方法は今日から考えておきます》

《明日、ちゃんと会議に戻りましょうね。おやすみなさい》


画面を閉じ、深く息を吐く。

原因の1割くらい、お前なんだけどなあ。


まあいいや。


……ああ。ちゃんと戻ろう。

明日は、ボケ地獄じゃなくて。

ちゃんと、会議に。


「……まあ、たまには踊る会議も、悪くないか」


思いがけず、声に出ていたようだ。

カーテンが揺れて、夜風が静かに吹き込んだ。

その瞬間、どこかから誰かの声が響く。


「俺、明日には地球に戻るから安心しろーー!!」


……知らないトヨヒコ()だな。

そういうことにしておこう。

もうそろそろ消灯だぞ?大丈夫か?


とにかく今は作業に戻ろう。

何とか今日中には終わらせたい。






そう思っていた時期が、俺にもあった。

気がついたら外が明るくなってきた。


「……終わって、ねえ」


机の上には、開いたままのタブレットと、空になったスポーツドリンクのペットボトル。睡眠時間ゼロのコンボでHPはミリ残しだ。


供物の加護は、だいたい深夜一時を回ったあたりで切れた。

資料は、半分程度しか仕上がっていない。完成度も低い。


泣きたい。いや、泣いた。


バキバキになった身体を無理矢理動かす。

とりあえず顔を洗って、制服っぽい私服を羽織る。

しかも今日はVRじゃなくてリアル登校。

睡眠不足のままの生身での出陣とか、わりと地獄。

というか、間に合うのか、これ……?


ダッシュで登校し、教室に飛び込むと同時にチャイムが鳴る。

どうにか間に合った。


セナはいつも通りVRゴーグル姿で無言。

ミコトはトラバサミを片手に持ちながら俺を見て「お疲れですか?」と心配そうに首を傾げた。

トヨヒコは呑気にフルーツポンチを吸っていた。今日の格好は海賊風だ。


理解も説明も追いつかない。

悲しいことだが、これが俺の日常なのだった。


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