生徒会、集合す
『中部セクター第二宝ヶ峯高等学校』
俺たち生徒会含め全生徒が所属している組織だ。
長ったらしいとか、意味がわからないとかいろいろ言いたいことはあると思う。
だが、詳しい話は主題じゃないから割愛する。
そもそもあまり詳しく知らない。
高校生如きが何でも知ってると思うなよ。
元々は少子高齢化やら何やらで各地の高等学校が統廃合された結果、数十年前に作られたらしい。
じいちゃんたちの世代には中部地方と呼ばれていたらしいエリアに建てられている。
セクター内には他にも私立校が何校かあるが、ウチが唯一の公立高校。
しかも全寮制だ。
『自由』と『生徒の探究心』の2本柱の元で、生徒の自主性を重んじる校風をしている。それが一番のウリなんだそうだ。
制服に関しても、『自由』だ。と言うのも、正式な制服も用意されているにはいる。しかし身につけている人はそう多くないのだ。
それもそのはず『校章バッチ』さえ身につけていれば、どんな服装をしていても構わないからだ。
こんな校則が施行されているのも『自由』だからという以外に理由や根拠はない。無論のこと、法に触れない限りは、だが。
今はそう思ってくれていれば、それでいい。
さて、それはそれとして。
VRカフェが開設されてから約一月が経った。
今日はいつものVR生徒会室にはログインしない。
現実の生徒会室で定例会議を行う日、のはずなのだ。
会議が始まる予定の時刻まで、あと5分程度。
……誰一人として集まっていないのは、まがいなりにも公的組織としては、どうなんだろうか?
いや、俺自身も5分前にしか来れていないのだから責めるべきではないか。
なお、ここでみんなを呼びに行くという選択は敢えて取らない。かつて探しに行ってる間に揃われていて、遅刻だ何だと煽られたことがあるからな。俺は学ぶ男なのだ。
「おはよう。アユム。」
声のした方へ振り返る。そこにいたのは生徒会副会長のセナだった。
扉は音もなく、静かに開かれていた。
「セナ。おはよ。」
背筋をピンと伸ばし、夏用の制服を身に纏っている。
襟元にはキラリと輝く『校章バッチ』。
今日はズボンスタイルのようだ。
一歩踏み出す度に、肩まで伸ばした黒い髪が揺れる。
そのままスタスタスタと、定位置でもある副会長席に収まっていった。
顔には仮想空間と全く同じVRゴーグルをつけている。
何度見てもそれだけ慣れない。
そして意味がわからない。
あれで現実世界が見えているのだろうか?
セナとの付き合いも長いが、初めて顔を合わせた時からこのスタイルだった。
ポリシーなのか性癖なのかは聞きたくもないし、聞く気もない。
このまま、知らないままでいたい。
ただ付き合いが長いといっても昨年からだ。
確か入学時の席が隣だった、というのが関係の始まりだったと思う。
……知り合ってからまだ一年しか経っていないのか。
なんか五年くらいは関わってる気がする。
おそらくここ一年間が濃かったのが理由だろう。
遠くの方からドタバタと廊下を走るような音が聞こえる。
気のせいと思いたいが、音はだんだんとこちらに近づいてきている。
目的地はここのようだ。
扉が勢い良く開け放たれた。
若干猫背気味で、アロハシャツとステテコの上から白衣をまとった男。
宇宙人のようなピンク色の触覚が、短い茶髪の頭から一対生えている。
創作物の中の誕生日会でしか見ない星型フレームのサングラスが、これでもかと自己主張してくる。
どこからどう見ても不審者だ。
しかし、胸元に輝く『校章バッチ』が、その所属がウチの生徒だと叫んでいる。
相当急いできたのか、肩で息をしている。
そのままヨロヨロと自分の席に収まっていき、机に突っ伏した。
……悲しいかな知り合いだ。
そして、言いにくいが、俺の幼馴染でもある。
なあ、生徒会会計のトヨヒコ君。
ある意味では腐れ縁だな。
だが、彼の存在がなければ、俺はこういったまとめ役のポジションに収まることはなかっただろう。
そう思うと少し感慨深い。落ち着きを取り戻して欲しいとは思うが。
とにかく、この年中ハロウィン野郎ほど、この学校の『自由』を貫き、体現し続けている者はいない。そう俺は思っている。
他の誰よりも、セーフとアウトのラインを見極める能力に定評があるのだ。
それもあって幸か不幸か、大事になったことは少ない。片手で収まるほどはある。
今の格好は……
アウフというやつだろう。
ちなみに先週はニンジャ。少し羨ましいと思えた自分が憎かった。
さて。今、チャイムが鳴ってしまった。
ひとーり。ふたーり。さーんにーん。
おかしいなぁ。一人足りないなぁ。
「……ミコト、また寝坊か?」
トヨヒコが顔を上げて言った。
息は整ったらしい。早いな。
そして口調だけは真面目だ。
見た目と前科のせいで説得力が無いのが残念だ。
「いや。VR生徒会室の方にいた。場所を間違えてたみたい。」
セナがVRゴーグルの奥からぼそりと答えた。
そうか、なら仕方ないな。
朝の段階でリマインドすればよかった。
疑ってごめん。ミコト。
「お待たせしました。すんません。間違えました。」
焦りを多分に含んだ声が、少しの風を連れて部屋に入ってきた。
書記のミコトだった。
長い髪を一本結びにして、手にタブレットを抱えている。
白シャツに黒のジャケット、動きやすそうなジーンズのシンプルな服装。
トヨヒコと並ぶと現実感がバグりそうになる。
胸元にはもちろん『校章バッチ』がキラリと光を放っている。
VR空間のうるさい見た目とは異なり、ちんまりとしていて、おとなしい。
真面目が服を着て歩いてるかのようだ。
いつの間にかついていたらしい『ギャップの王』という二つ名も納得である。
クイーンではないのかというツッコミはあえてしない。
本人が気に入っているから、これでいいのだ。
全員が揃った。
ミコトも席に着いた。
なら、言うことは一つだな。
「じゃ、会議、始めます。」