異世界転送装置‼︎
[えっあれ、インコ?]
不可能とは、覆すことができないこと。
不可能とは、成し遂げられないこと。
深夜。満月がてっぺんに昇り、とある研究室を照らしている。
そのボロい小さな畳の部屋には大きなゴツい機械の前、不気味に笑う黒髪に黒縁瓶底眼鏡の彼女が立っていた。
今時こんなダサい格好の奴がいるのかぐらい正直言ってダサい。
おしゃれに趣味がない女でももう少しマシな格好している。
「ふふふふっ」
と不気味に笑う様は変態に近しい物を感じる。いや変態なのかもしれない。
月明かりに照らされていることもあって、この地に降臨してばっかの魔王にも遠目で見たら見てるかもしれない。
僕は成し遂げたのだ。この弥永 空が不可能と呼ばれていた事を。みんなが諦めた事を!
そうみんなの夢にして、願い。
そう、それは……、
〈二次元に行く〉
という事だ。アニメが好きなら小説が好きなら漫画が好きなら一度は思ったことがあるだろう。
その願いを叶えられる装置を僕は開発したのだ。
ボロアパートに住んでまで、食事を少なくして死にそうになってまでこれまで頑張ったんだ。節約した金を全部かけてやっと夢を叶えたんだ。
夢、希望に溢れた創作の世界。
ツラがいい人間ばかりが集まる創作の世界。
理想が集まった創作の世界。
推しに会いたいと。
推しと同じ空気を吸いたいと、推しを一目見たいと思ったことはあるだろう!
だから壁になりたいとか、観葉植物になりたいとか言うんだろ?
その夢を叶えられる時が来たのだ。
そんな夢のような世界にいける権利を僕は手にしたのだ。
みんなは手に入れることができない権利を手に入れた。
僕は神に選ばれたのだ!
異世界漫画恒例の死ななければいけないこともない。僕は開発したんだ。二次元に転移できる装置を。
ゲームなのではない。身体ごと二次元に飛ばし、設定した世界に飛ぶことのできる装置を。素晴らしい装置を!
名付けて『異世界転送装置』←ダサい
だがこれは先着一名しか使うことのできない装置。
誰かに見つかる前に僕は必ず二次元に飛んでみせる。ふふふふ、あはははっ。
おっと思わず笑いが溢れてしまった。肩が笑ってしまった。
まぁ、もう十二時だ。お月様もてっぺんまで昇っている。
だけら僕は寝る時間だから寝るけどね。夜ふかしはいけない事だ……。
明日が楽しみだ。あぁどんな世界にしようかな。
バトル? 恋愛? 青春? それとも、異世界? 今夜は眠れないかもな。
そんな彼女は薄くなった敷布団に入り十秒で夢の中へと落ちていった。
次の日
日の昇り具合を見る感じ七時。
ビー玉のような空には大きな入道雲が漂っている。
ミンミンと鳴く蝉に意識を取られ夢から覚めた不審な男。
目が完全に開いておらず、眠気と戦っている。
僕は完全に目を覚ますと、とあることに気がついた。二次元移送装置がなくなっていた。いや実際はあるのだが、送転できなくなっている。何者かが転移したとしか考えられないこの状況下。
背筋が凍る感覚はミスがバレて上司に怒られた時以来の実に三年ぶりの感覚だ。
クソダサ眼鏡をかけるのも忘れ、掛け布団を踏みつけにし、急いで装置に向かう。
普段運動なんてしないから少し躓きそうになりながら装置に向かい、画面を目を凝らし視界をクリアにする。
そこには、なんとも綺麗な黄色い毛並みの鳥……そう飼っていたインコが転送されたと表示されていた。
いんこ……イン?コ、インコ!
昨日檻から抜けだしたのか、閉め忘れたのか? 多分後者だろう。あぁ……。
体の力が一気に抜ける。
「そ、そうかインコか……。」
絶望と疲れが乗った声は、誰にも聞かれることなく、ただ風と共に流れていった。
神に選ばれたのは何も知らないような、そんな夢なんて見たことないようなインコだったのだ。
風鈴の音がリンと鳴り終わりを告げた。
「これが物欲センサーというものか……」
それは多分違うのではないだろうか?
彼女はこれまでと変わら……少し贅沢できる生活をすることになった。
カランと鳴る氷。
よく冷えたそうめんを啜りながら、彼女はこう呟いた。
「インコ……、どうしてるかな?」
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