日常
俺は前世の記憶を持っている。
よく言う転生者ってやつがこの俺だ。
前の世界では高校生で、名前は……まあ、それはいいや。
俺は学校で授業を受けていたはずなんだが、目を覚ますと赤ちゃんになっていた。
まさか、あの黒服に薬を飲まされて体が縮んだのか?と思ったが、ここは遊園地でもないし、一緒に遊びに来た女の子もいない。
妄想は空の彼方へ飛んでいった。
ただ、ちょっと驚いたことがある。
それは俺の身分が奴隷だということ。
前の世界にはない制度に、名前からして受け入れ難いことだった。
しばらくは……いろんなことがあったけど、今はなんとかなっている。
それもこれも全部、お嬢様…ルナ様のおかげ。
ルナ様が俺を救ってくれた。
おそらく、マイナも俺と同じような境遇なのだろう。
俺には遠く及ばないが、彼女のルナ様への眼差しは一般の主従関係の域を超えている…と思う。
まあ、彼女の過去に踏み込むつもりはない。
気にはなるけど。
ただ、マイナは俺より古株で、信頼がある。
いつか話を聞けたら嬉しいね。
そんなこんなで、俺はこの世界に生まれた。
生まれてしばらくは混乱していた俺だったが、今はこの世界に胸を踊らせている。
この世界には魔法がある。
夢にまで見ていたあの魔法がだ。
だが魔法は誰にでも扱えるものではないらしく、扱えるのはわずかな選ばれた者のみ…なんだってさ。
本に書いてあった。
そしてなんと、俺には魔法の才能があるらしい。
それがあってミステリア家に買われたらしいしね。
これはこの世界を楽しめって、神様の思し召しでは⁉︎
なんて勝手に考えている。
才能があるなら使うしかないよね。
ってな訳で、俺は魔法と、ルナ様と、この世界を楽しむことにした。
暇があれば、街へ探検に。
暇があれば、魔法の知識を蓄えて。
暇がないなら、ルナ様のお世話をすることを口実にルナ様とマイナと遊びに行く。
そうやって俺の日常はできている。
「お嬢様ー!魔法の勉強しま…あれ?」
この日も同じ日常を繰り返すはず…そのはずだった。