1日の始まり
「お嬢様、朝食の準備が整いました。中に入ってもよろしいですか?」
「………ん…」
小さな声が反応する。
まだ眠たいようだ。
「失礼します。」
大きな扉を開けて、今日のお仕事が始まる。
「クルーガぁ……もうちょっとぉ……」
この白髪の御髪を持つ女の子はミステリア・ルナ。
この国の公爵であるミステリア家の娘。
僕のご主人であり、僕にとっての天使でもある。
何よりかわいい僕の推しだ。
「お嬢様、旦那様方はすでにお待ちでございます。まぁどうしても…とおっしゃるならば、あと30分程度お待たせしても…」
「だめですよ、お嬢様。旦那様はお嬢様と朝食を食べたいと仰っているのです。どうかその思いを無下にされないよう…」
この黒髪で、もふもふの毛を持つのはマイナ。
僕と同じ、ルナお嬢様のお世話係。
尻尾と耳を持つ獣人であり、ミステリア家の奴隷。
少し堅いやつだ。
「…眠いよぉ……」
「そうですよ、マイナ。お嬢様は眠たい、と仰っています。少しは自重しなさい。」
「自重せねばならないのはあなたです。旦那様を待たせるつもりですか?」
「30分ぐらいいいじゃないですか。わがままを聞くのが大人の役目でしょう。」
「またそれですか……お嬢様もこいつの言うことに甘えないでくださいっ!」
そう言いながら、お嬢様の寝るベッドのシーツを剥がす。
剥がした勢いで宙に舞ったお嬢様を、僕が受け取る。
「大体、マイナは仕事が雑なんです。もっと優しくシーツを剥がしなさい。ケガでもしたらどうするんですか?」
お嬢様を椅子に座らせ、御髪をとく。
本当にキレイな髪だこと。
食べちゃいたい。
「ふぁーあ……ねぇ、クルーガ?」
「はい、なんでしょう?」
「……楽しいねぇ…」
「……そうですね。楽しすぎて胸が張り裂けそうです。」
いやほんとに……なんだこの天使は。
満面の笑みで言いやがった。
天使超えて女神じゃん。そんなの反則だろ。
「その仕事…私の……」
なんかブツブツ言ってるが、無視無視。
お嬢様エキスは全て僕が享受するんだもん。
渡すわけないない。
「お父様!お母様!お兄様!おはようございます!ルナ、起きた!」
御髪を整え、服を着替えたお嬢様を朝食の場に連れていく。
「あぁ、おはよう。今日は早かったね。」
「おはよう、今日も元気ね。」
「おはよう、ルナ。早く食べよう。」
この方々はルナお嬢様のご家族であり、僕の雇用主。
ミステリア家当主のミステリア・ミロ様。
その奥様のミステリア・ミレ様。
そして、ご子息のミステリア・ペル様。
当主である旦那様は公爵の位をもらっているだけあって、とても偉い方。
そのため多くの使用人を雇っており、僕もそのうちの1人。
「旦那様、報告です。またこいつが業務をサボろうとしていました。」
「ふーむ?クルーガ、何か言いたいことはあるかい?」
「何もございません、旦那様。全ては私の不手際でございます。」
「そっかぁ…でもなぁ…またどうせ……」
「お父様!ルナが眠たいって言ったの!クルーガはなんにも悪くないよ!!」
おぉ、女神よ。
その言葉だけで僕は幸せです。
「やっぱりかぁ…何回目だろ、これ。クルーガは優秀なんだけどなぁ…」
「クルーガは悪くない!」
おぉ、女神よ。
もう何も悔いはありません。
いかなる処罰も受けましょう。
「そうは言ってもねぇ…君たち…お互いがお互いを好きすぎるんだよなぁ。ルナは…まぁいいとして、クルーガにはいい加減アメとムチを使い分けて欲しいなぁ…」
「アメならばいくらでも用意できますよ。」
「アメ!!」
確かに、自分はお嬢様のことが大好きだ。
でもしょうがないじゃん。
やっと見つけた心の拠り所だもん。