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門出

時は流れて4月。

頬をかすめる優しい風は、爽快な匂いと共に過ぎていく。


今日は待ちに待ったエイレーネ自由学園の入学式。

俺、お嬢様、マイナの寮への引っ越しの日である。


お嬢様にとっては、初の独り立ち。

文通をするにしても、今後は頻繁に顔を合わせることができなくなる。

そして今まさに、その最後の瞬間まで話せることを話し尽くしている最中。


俺は先に馬車を走らせ、正面玄関で待機している。


しっかし、わざわざ王都まで馬車で行かなくてもなぁ…せっかくウィズちゃんが作った転移陣があるんだから、どうせなら使っていけばいいのに…


というのも、俺たちが合格と決まったあの日から、学長はほぼ毎日のように屋敷に来ていた。

偉い立場なら忙しいと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

そして、最初こそ骸骨竜に乗って遊びに来ていたウィズちゃんは、回数を重ねるごとに「空を飛ぶと時間がかかるんじゃ。」と文句が増えていった。

地上を馬車で走るよりはるかに速いだろ、と思ったのは内緒にし、学長のあーだこーだを聞いていると、なんと学園にある学長室と俺たちの魔法の練習場である西の魔の森を、転移の魔法陣で繋ぎたいと言ってきた。

流石に俺たちの判断で決めることはできなかったので、旦那様に相談の上、転移陣を設けることになった。


これの使い方はとても簡単で、学長の描いた円の中に入り、ある特定の合言葉を言うと転移するというもの。

この合言葉は俺が設定した。

合言葉と言えばあれしかないよね。


そういうわけで、現在西の魔の森と学園は繋がっている。

ただ合言葉を言うだけで、一瞬で王都、学園に着いてしまうのだ。

俺は早く着くならそっちのがいいと思うのだが、他の方は違うようで。

お嬢様、マイナ、旦那様の言葉に折れました。



「クルーガさん、馬車ありがとうございますっす!お嬢様方はまだ中で話しているようですが…ご一緒しなくても大丈夫っすか?もし行きたいのであれば、俺が馬の様子見ておきますっすよ!」



この人は、今回王都まで馬車を走らせてくれる御者のマーラブさん。

地理に詳しく、動物が大好き。



「私はあまり湿っぽい場に慣れていないので…それに、家族水入らずの方が、今はいいでしょう?」

「はぁー、確かにそれもそうっすね!さすがクルーガさんっす!配慮できるいい男!」

「からかわないでくださいよ。それに、ほら…心の準備ができたようです。」



目線の先には、ミステリア家の方々と一歩引いた位置にマイナがいた。

全員ゾロゾロと屋敷から姿を現す。

よく見ると、先頭のお嬢様の目が少し赤く腫れていた。

俺は馬車の扉を開け、お嬢様を待つ。



「クルーガ、お待たせ。少し…長引いちゃったわ…。」

「これっぽっちも待っていませんよ。もう…よろしいのですか?」

「……うん。今生の別れでもないし…大丈夫よ。」

「…それもそうですね。では、お手を。」



お嬢様は馬車に乗り込む。

その後をマイナが続く。

俺も続いて乗り込もうとすると、旦那様に呼び止められる。



「クルーガ、待っておくれ。」

「いかがなさいましたか?」

「簡単な別れの言葉さ。我々は君とマイナを信じている。これからくるどんな場面でも、君たちならなんとかしていけるだろう。しかしだね、王都にはウィズちゃんや騎士団長のような猛者共が各地から集う。学園で言えば、力の扱い方を履き違えた多感な生徒たちも多いだろう。もし、そんな者達とぶつかった時、君はどうする?」

「もちろん、命を賭して守り抜きます。」

「…うん。その言葉、信じているよ。とは言っても、私たちの名前は伊達じゃない。我々に喧嘩を売るなんて余程のバカさ。だからね…もしだ、もしルナに喧嘩を売るような者がいたら、その時は力の差を見せてやれ。我らに盾突くことがどれほど愚かか…思い知らせてあげるがいいさ。なぁ、ミレ?」

「ええそうよ!思いっきりやってしまいなさい?その後は私たちがなんとかしておくから!」

「えぇ、もちろんです。お任せください。」

「それに…盾突く者達だけではいけないよ?ルナに言い寄るような輩も…同じくだ。」

「ちょっと、あなた。それはルナが決めることよ。」

「いや、しかしだな…学園という場には必ず獣どもが…」

「いやもだってもありません!クルーガ、ルナを頼みましたよ。」

「はっ!」



この人たちはいつになっても変わらない。

そう考えながら、馬車に乗り込む。


気づけば周りは使用人だらけ。

みんなお嬢様のお見送りか。



「……う…うぅ…」

「あなた…ぐずらないでよ…最後くらい笑ってちょうだい!」

「だってぇ……ルナぁ…行かないでぇ…」

「お父様ぁ!お母様ぁ!お兄様ぁ!使用人のみんなも…全員大好きよ!!みんなぁぁ!!行ってきます!!!」



勢いのあまり、馬車から落ちそうなお嬢様を抑える。

お嬢様の言葉を最後に、馬車が走り出す。

見慣れたこの景色ともお別れだ。

少し寂しい気持ちを残しつつ、新天地への期待を高まらせる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



お屋敷を出てから、しばらく経った。

お嬢様の様子は落ち着き、王都まで残り半分くらいの距離まで来た。


屋敷からここまで来るのにいろんな町や村を通ったが、そのどこででもお嬢様への歓声は鳴り止まない。

これも全て旦那様の執政のおかげなのかなと思うと、やはりすごい方なんだなと再認識する。


そして、今の俺はというと馬車の屋根の上でくつろいでいる。

長時間座っているのに耐えられなかったからだ。


馬車での旅路ではマーラブさんが色々な話をしてくれるため、会話には困らない。

俺はここで、警戒がてら景色を楽しんでいるのだ。


木製の車輪が回る音に、気持ちのいい程度の揺れ…これは寝てくれって言っているようなもんじゃないか。ちょうど眠くなってきたし…お言葉に甘えて…



「クルーガ、前方で金属音です。誰かが交戦中かもしれません。」

「……んもー、どれどれ…あぁ、ほんとだ。」



重たいまぶたを無理矢理持ち上げ、マイナの言う危険を見つける。

マイナは獣人で耳がいい。

そのため、目で見つけるより早く察知できる。

もうすぐ寝そうで、警戒を怠りそうになっていたことは内緒にしておこう。



「お嬢様、前方にて冒険者と魔獣が交戦中のようです。付近に馬車は1台…冒険者は負傷者多数。魔獣は…ワーウルフが数体に、その他にもいますね。結構います。見た感じ、大分苦戦しているようですよ。どうします?」

「助けるに決まってるでしょう。私も行った方がいい?」

「いやいや、あれなら俺だけで十分ですよ。すぐに終わります。……分裂水性銃弾(ブレイク・ショット)。」



最近作り上げた新たな創作魔法(オリジナル・マジック)

従来の水性銃弾(ショット)と似たようなものだが、唯一違う点は分裂すること。

今までは水性銃弾(ショット)を5回打っていたことが、この魔法では1回打つだけで済む。

一度打ってしまえば、分裂後の水弾をコントロールして……ほら、終わった。



「お嬢様、終わりましたよ。魔獣は全て倒しました。それに、あの馬車にはお嬢様のご学友が乗っているみたいです。」

「あら、そうなの?一体誰かしら…?負傷した冒険者もいるようだし、様子を見に行ってみましょうか。マーラブさん、お願いできますか?」

「えぇ、もちろんっす!」



交戦していた馬車に近づく。

冒険者は肩で息をしており、馬車を引いていた馬は逃げてしまったようだ。



「あれ、ナコちゃん!大丈夫!?」

「あ…ルナちゃん…!もしかして、さっきの魔法はルナちゃんの…?」

「上にいるクルーガのよ。それより…大丈夫ではなさそうね…。何があったの?」

「もう…本当に酷い話だよ!私たちがこの道を通っていたら魔獣に襲われてる馬車があってね?私たちがそれを助けに行ったの!そしたらあの馬車…一目散に逃げていったのよ!そのせいで標的が変わってこの有様…馬もいないし怪我人もいるし…どうすればいいのよ…。」



一目散に逃げていったか…助けてもらっといて酷い話だ。しかし、戦いに慣れているはずの冒険者でもこのやられよう…やはりワーウルフって強い部類なんだな…



「とりあえず、馬車はロープで私の馬車に繋げて引っ張りましょう。何人か歩くことになるけど…怪我人だけでも馬車の中で休ませてあげて。ナコちゃん、ここからは私たちと一緒に行きましょ?」

「う…うぅ…ありがとぉ!ルナちゃぁぁぁん!!」



馬車が襲われるというハプニング。

マーラブさん曰く、この辺で魔獣を見るのは珍しいとのこと。

山からこんなところまで降りてきたのか、それとも…



疑う頭は止まらない。

ハプニングを乗り越え、おしゃべり好きな学友を仲間に加えたお嬢様一行は、王都へ向けて着々と足を進める。

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