vs騎士団長②
「くっ!!」
周囲の柱をへし折りながら赤髪の体は遠く離れる。
死角からのマイナの拳。
想像しただけでも体が震える。
「クルーガ、大丈夫?」
「あぁ、助かったよ。あと一歩遅ければ首と胴がサヨナラだった。」
助かった。今のは本当に危なかった。マイナが来ていなければ、俺は確実に終わっていた。だが、運は俺に付いている。ここでマイナが来てくれたのならまだ戦える。ここからがやっと…俺の本番だ。
「マイナ、いつも通りでいい。あいつの機動力は人間じゃないが、この地形なら多少なりとも動きにくいはずだ。この地形に入ってきたら…二人でやるぞ。」
「…分かった。」
「消えたり、出たり…これだからアーティストは嫌なんだ。貴様らの力が民に向くと考えるだけで…背筋が凍る…!」
作戦を立て、二人で構える。
吹き飛んだ赤髪は何事もなかったかの様に立ち上がり、ボソボソと何かを呟いている。
「やはり…貴様らはここで捕える!!」
「来るぞ!」
戦闘が始まる。
例の如く、赤髪は爆風に乗り距離を詰める。
俺はその場を離れ、姿を隠す。
少しだが赤髪と接近戦をした感じ…あれは武闘派のマイナでも正面から迎え撃つのは不可能だ。速すぎてこっちが攻勢に出る余裕がない。だから、正面からは…戦わない!
「ぐっ!」
マイナの渾身の一撃が赤髪を襲う。
今度は決まったと思ったが、ギリギリでガードしたようだ。
俺があの日手に入れた新しい魔法…この能力は、お嬢様とマイナの場所を自由に移動させるというもの。俺の見える場所という制限はあるが、その範囲ならどこへでも可能。点から点への瞬間移動も、点から点への線移動も可能である。この魔法を手に入れた時から色々と実験はしてみたが、移動させることができるのはお嬢様とマイナの二人だけだった。何か物を移動させれたら楽なのにとか考えていたが、今はこれでいいと思っている。実際、この魔法のおかげで今赤髪と戦えているのだから。赤髪の攻撃が当たる直前に、俺がマイナを移動させる。俺がマイナを移動させるから、マイナは攻撃に専念できる。この魔法のおかげで、俺がやられない限りマイナは安全。この魔法で、お嬢様とマイナの安全を確保できるわけだ。本当に有用な魔法だよ。
赤髪は狙った対象が姿を消し、死角から現れることにまだ慣れていない。
これは俺の切り札だ…すぐ順応されてたまるかよ!本当ならマイナも困惑することだろうけど、三人で特訓したんだ…今その成果が出ている!これは現状俺らが取れる最後で、最強の作戦だ!マイナは攻撃を何発か食らわせている!このままなら押し切れる!まだ赤髪が攻略の糸口を見つけられない内に…ぶっ倒す!!
姿を隠しながらマイナを動かし、並行して他の魔法で赤髪を追い込む。
マイナと拮抗している今なら、俺の魔法に対応できない…そうだろ!?
「くっ……」
魔法とマイナの猛攻に耐えきれず、赤髪は空へ飛ぶ。
この状況を打開するために考える時間が必要なようだ。
けど…空が安全だと思ってんだったら大間違い…!そこも俺の…射程範囲だ!!
「……なにっ!?」
赤髪は背後をとるかのように現れたマイナに、地面へと叩きつけられる。
その攻撃は完全に不意を突き、ガードされることもなく決まった。
チャンス…!!心苦しいが…先に命を狙ったのはそっちだ!ここで決める!!
「原初の母よ、今ここに…」
俺は詠唱を始める。
すると、晴れ渡っていた空が次第に黒く暗くなっていった。
「渦巻く波は、あなたの心を映し出す…」
その詠唱は雨雲を呼び、ここら一帯に雨を降らせる。
「無知な子よ!底なしの愛を知るがいい!!」
空は豹変し、森中の魔素が移り変わるのを感じる。
そして、雨雲からその片鱗があらわになる。
「母の涙!!」
雨雲から、渦潮のようなものが姿を現す。
それは渦を巻きながら徐々に現れ、その大きさは大きくなっていく。
その渦はまるで台風。
周囲の空気を巻き込み、俺でさえ気を抜けば吹き飛びそうだ。
人間が巻き込まれればひとたまりもないことが、見れば分かる。
渦巻きの狙いは赤髪。
渦巻きの猛威が赤髪に迫る。
これで終わりだ…!
そう思った瞬間…
「もうやめてぇーーー!!!」
突如渦潮の制御が不可能になり、目の前に立ちはだかっていた大きな渦が霧散する。
発動した魔法が消え去り、困惑が頭を占領する。
「は…なんで………い“っだ!!」
混乱する頭へ追い打ちをかけるように、ゲンコツを食らったような痛みが頭に響く。
いってぇ!!なんだ…この痛み…!?う…ぐぅ…頭が割れる!!
想定外の痛みに頭を抱えてうずくまる。
その痛みは一向に治らない。
そして、終わらない痛みに苦しむ俺に話しかける方がいた。
「クルーガ!マイナ!こんなこともうやめて!やりすぎよ!!」
「お嬢…様…?」
遠くから叫ぶお嬢様。
手首にある鷲の紋章が青く光っている。
この痛みは…お嬢様からの罰か…?
「なん…で……」
「なんでじゃないわよ!その魔法は危なすぎるから使うなって言ったでしょ!?それは人の命を簡単に奪う!!それだけは絶対にだめ!!」
「わ…たしは…」
「魔法は人殺しの道具じゃない!!人を喜ばせるのが魔法でしょ!?力を持つ者は力の振り方を考えなきゃいけない!!!全部あなたが言ったことよ!?」
「……」
「冷静になりなさい!あなたが防衛本能で彼女を排除しようとする気持ちは分かる!でも…彼女の理由も訳も聞いてないじゃない!!平和的解決の道を諦めないでよ!!手が出るのが早すぎるわ!!あなたたちの悪い癖よ!!」
お嬢様の怒鳴り声が響き渡る。
奴隷契約の効果なのか知らないが、お嬢様の感情の昂りを肌が感じる。
お嬢様がここまで怒っているのは見たことがなかった。
故に、自身がしでかしたことの重大さに気づく。
確かに、ここまでやる必要はない。赤髪と会話するチャンスは何度もあった。なのに…それをしなかった。攻撃してきたから殺すって…やりすぎだ。魔獣を相手にしすぎて、殺すということに抵抗がなくなってる…
体の痛みが薄れていく。
痛みはもうないはずだが、顔を上げることができない。
近くにいるマイナも、きっと同じ気持ちだろう。
罪悪感が心を蝕む。
言葉は出ず、ただじっとうずくまる。
そうしていると…
「やはり…貴様らは危険な存在だ…。その理不尽な力……生かしてはおけん…!」
言葉と同時に、周囲一体を巻き込む大規模な爆発が発生する。
これまでとは比べ物にならないスケールの爆発。
それは俺の立てた岩の柱、設置した水の玉などここら一帯のものを全て吹き飛ばす。
危うく俺も飛ばされそうになるが、なんとか耐える。
爆発の中心にいる赤髪はゆっくりと立ち上がる。
そして、先ほどとは明らかに様子が違うことを見せつけられる。
髪を結んでいたゴムを外し、赤く燃える髪が揺れる。
その姿はまさに獅子のようで、何人も近づけさせないオーラがあった。
しかしそれを否定するように、彼女から目を離すことができない。
それに加え、赤髪には吸い込まれるような何かがあった。
赤髪はゆっくり歩く。
未だ爆発は止まない。
目の前の赤髪に見入っていると、さっきまでなかったはずの“ティアラ”が頭にあることに気づく。
「……貴様らを脅威であると認めよう。捕えるつもりだったがそうもいかん。貴様らは決して看過できない……敵である。」
言葉が重りとなってのしかかる。
筋肉が強張り、上手く呼吸ができない。
今まで感じたことのない尋常じゃない重圧。
こいつ…まだ力を……!!
赤髪は一歩、一歩と距離を詰める。
彼女の足音が、死へのカウントダウンを意味しているようだった。
体は自由に動かない。
もはやその時を待つしかないと、そう思い始めた頃だった。
「主もそこまでじゃ。」
体を襲う重圧と止まらない爆発。
その声は、これらを一瞬で消し去った。




