入学試験(仮)
「ふむ…まだ余裕か。次じゃ!レッツ、ファイティン!!」
そこらじゅうに岩が転がる。
俺たちの視線の先には、ひたすらゴーレムと戦うお嬢様がいた。
お嬢様がガキンチョエルフの要求を飲むと決まってから、俺たちは西の森に移動した。
それからすぐに、お嬢様の試練が始まる。
お嬢様に課された試練の内容はこう。
「ルールは簡単!我が生み出したゴーレムを破壊せよ!しかし、お主はそれでは物足りん!今回はお主の限界を試したい!そのため、一体一体に異なる強さを設ける!まぁ、一体破壊するごとに新たなゴーレムが生まれると思え!お主は全力でゴーレムを破壊し、我に可能性を示して見せよ!」
とのこと。
武器はなし。
使えるのは魔法だけ。
ただ、魔法なら何でもオッケー。
自身の魔法を駆使して目前の壁を突破する。
お嬢様は次々生まれるゴーレムを破壊する。
ただそれだけの簡単な試練。
お嬢様は未だ呼吸を乱さない。
お嬢様が放った氷の槍が、ゴーレムの心臓を貫く。
「ゴーレムの弱点も知っている…どうやら権力に溺れるバカではないようじゃな…ナハッ、ではこれはどうする!レッツ、ファイティン!!」
ガキンチョエルフは次のゴーレムを生み出す。
そのゴーレムは太っていた。
ゴーレムの肌上からさらに岩をコーティングし、心臓を隠しているのか。
なかなか器用なことをする。
太ったゴーレムはお嬢様に向かって走る。
果たしてお嬢様はどうするんだろう。
先ほどの魔法ではおそらく貫けない。
さっきよりも分厚くなった分、心臓まで届かないだろうし。
俺はお嬢様を気にかける。
すると、お嬢様はゴーレムと距離を取り、再び同じ魔法を作り出した。
また氷の槍…
同じようにぶつけるのかな?
少し不安がよぎるが、お嬢様ならなんとかするかと考えるのを放棄する。
ゴーレムは距離を縮め、お嬢様は何かを呟く。
「……ほう!」
「………へぇ…!」
ガキンチョエルフは感嘆の声を上げる。
その声と同時に、俺も同じことに気づく。
俺らの視点の先にある氷の槍…
お嬢様の作り出した氷の槍が、回転していたのだ。
ただでさえ鋭い氷の槍を回転させ、まるでドリルのように掘り抜く…。
お嬢様はお嬢様なりの対策を考えていた。
案の定、お嬢様の放った回転する氷の槍は、ゴーレムの心臓を貫いた。
「考えたな…!魔法を変えずとも、やり方を変え突破するか…面白い!次じゃ!!」
お嬢様の試練は続く。
ガキンチョエルフは次々と新たなゴーレムを生み出していく。
それも、全て同じとは言えないゴーレムを。
心臓を分からなくするために、人の形を留めないアメーバのようなゴーレム。
氷属性魔法を防ぐために、近づきたくもない熱さの炎を纏ったゴーレム。
お嬢様の魔法自体に対抗するために、自身が魔法を使うゴーレムなどなど。
そういった様々なゴーレムをお嬢様は攻略していった。
その中には、鳥型のゴーレムを蹴り落とすという豪快なお嬢様も見れた。
余は満足じゃ。
こんなに癖のあるゴーレムに対して、お嬢様は一瞬でその対策を編み出している。
やはり、お嬢様はとんでもないお方のようだ。
その場その場における、ゴーレムに対するお嬢様の対応力は見ていてもすごい。
それと共に、ガキンチョエルフのゴーレムという魔法の繊細さも際立っている。
お嬢様はゴーレムの弱点を看破する。
ガキンチョエルフはそれを踏まえ、お嬢様に突かれた弱点をカバーするゴーレムを生み出している。
つまり、お嬢様に同じ手を使わせないように魔法を使っているのだ。
ゴーレムが破壊されてから次のゴーレムを出すのが速い。
それは、ゴーレムの問題と解決策を編み出すの速いということ。
それに加え、その問題を無かったことにする魔法の技術。
国内トップ校の学長……さすがというべきか。
「ナッハハ!良いではないか、良いではないか!!その工夫と対応力…王都で噂になるだけある!」
ガキンチョエルフは興奮している。
お嬢様の虜になったようだ。
実際、この時間はとても面白い。
俺なら力技で押し切りそうなところを、お嬢様は少ない消耗で何とかしている。
参考になる箇所が多くて困る。
また一つ、ゴーレムが破壊される。
「うむうむ…そなたの可能性、見えてきたぞ。しかし、惜しいかな。この時間がもうすぐ終わろうとしておる…。」
お嬢様の方に目線をやると、肩で息をしているお嬢様がいた。
流石の対応を見せるお嬢様だが、魔力と体力の消耗には勝てないらしい。
魔法の精度が、それを証明していた。
「いやはや…久々に良いものを見た。褒美じゃ。次で終わりにしてやる。終わりのないマラソンほど辛いものはないからの。じゃが、覚悟せよ。今から出すゴーレムは、我が学園の教員でも破壊できぬ者がおる。これを破壊できれば、主は特別待遇じゃ。」
そう言い、ガキンチョエルフは地面を突く。
すると、地面はそのまま盛り上がり、小さな丘のようなゴーレムが現れた。
もちろん、そこにゴーレムの心臓は見えない。
あの巨大なゴーレムを相手に、お嬢様はどう対応するのか。
お嬢様の一手に期待が高まる。
「……是れが、白き星であるならば……」
「…?……まさかっ…!!」
ガキンチョエルフは驚きを隠せない。
お嬢様は迫る攻撃を避けながら、唱え始めた。
「積み重なるは…愛の結晶…!!」
「ナハッ!そんなとこまで…!」
ガキンチョエルフはその場を離れる。
「重なる思い…それを愛と知るがいい…!!」
お嬢様は地面に手を添え、叫び、放つ。
『激動の氷山!!』
次の瞬間、お嬢様の足場を起点に、氷の針山が姿を現す。
その針山は、ゴーレムを押し潰し、飲み込んだ。
その大きさは、そこら辺の木の比ではなく、この森の山と間違えてしまうくらいだ。
氷だから間違いようがないけど。
この魔法は、お嬢様の考えた創作魔法。
この世界に元より存在する属性魔法を、自分なりの魔法式に当てはめ発現させる。
しかし、この創作魔法を発現させるには、相当な練度が必要。
欲しい魔法を発現させるために、様々な効果を組み合わせるからだ。
いきなり魔法がポンっと出るわけではなく、色々な効果を組み合わせることにより、一つの魔法が出来上がる。
創作魔法では、この組み合わせる作業、つまり答えを導くための途中式が重要である。
この途中式をいかに簡潔にするかが、魔法の出来栄えに関わってくる。
そして、この途中式のことを“詠唱”と呼ぶ。
慣れればこの詠唱は破棄できるらしいが、現状俺らには不可能。
詠唱しなければ、発現させたい魔法が出ない。
まぁ簡単に言えば、小学一年生に算数に関して暗算しろって言ってるようなもん。
今の俺らはピカピカの一年生ってこと。
今は答えを出すことが大事なのだ。
「ナッハハ!すごい!すごいぞ!!まさか創作魔法まで習得しておるとは…これは嬉しい誤算じゃ!!」
ガキンチョエルフは大興奮。
そりゃあ、こんなの見たらそうもなる。
俺でさえ、この大きさのものは初めて見た。
以前見せてくれたのは、もっと小さく、片手に乗るほどの大きさだった。
お嬢様の今の創作魔法はそれの何十倍…いや、何百倍。
そうなれば、魔力の消費も激しいはず。
これはもしかして使い果たしたな?
今のゴーレムが最後と聞いて、全ての魔力でぶっ放したのか…。
氷山の麓にいるお嬢様を見ると、地面にへたり込み、動けないでいるようだ。
どうやら、予想は当たったらしい。
とんだ無茶をするもんだ。
「おい、クルーガ、マイナ!試験は終わりじゃ!早うルナを介抱してやれ!」
ガキンチョエルフは遠くからニコニコでそう叫ぶ。
俺とマイナはお嬢様の元へ急ぐ。
マイナは、お嬢様の影へ瞬間移動。
そのままお嬢様を支える。
俺は急いで走る。
俺もお嬢様を支えたいから!
試練は終わり、走りながら今回の結果を考える。
お嬢様の対応力に判断力、そして最後の創作魔法で、ガキンチョエルフに与えたインパクトはとても大きいと言っていいだろう。
最後のガキンチョエルフの様子から、今回の結果はいいものであることは間違いない。
まぁ、当たり前だよね!
あのお嬢様だもん!
お嬢様のすごさに気づいたエルフが増えて、俺は嬉しい!
お嬢様はもっと、脚光を浴びるべき人なんだ!
早く抱きしめたい気持ちを抑えて、踊る心で体を動かす。
「おじょうさ…」
「待て!ローズ!!」
お嬢様に声をかけようとした瞬間、背後で二つの音が聞こえた。
一つは、ガキンチョエルフの叫ぶ声。
もう一つは、聞いたこともないほど巨大な爆発音。
俺は不思議に思ったが、すぐにそれがとあることの合図であることに気づく。
爆発音の直後、一瞬にして移動する人物がいた。
その赤髪は、武器を手に持ち、そこに行き着く。
「マイナ!!危ない!!!」
赤髪の剣先は、マイナに向かっていた。




