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訪問の意図

朝が来た。


俺はお嬢様や旦那様と一緒に、門にて学長を待っている。

お嬢様は自分の自分の進路がもうすぐで決まるかもしれないと、じっとしてはいられないようだ。

さっきから門の前をぐるぐると歩いている。



「お嬢様、落ち着いてください。お嬢様ならきっと、大丈夫ですから。」

「えぇ…えぇ…もちろん、分かってるわ。そうよ…私なら……」

「そうだよ、ルナ。今から焦ったって仕方ない。君なら何とかなるさ。」

「そうよ…きっと、何とかなる…」



お嬢様は止まらない。

今はそっとしておいた方が良さそうだ。



「ふむ、緊張しているルナも実に愛らしいね。ずっと見ていたい気持ちだが…どうやら、そうもいかないみたいだ。」



すると、カラカラという音と共に、一台の馬車が現れた。


偉い方が乗っているにしたは、とても質素な馬車だが…


お嬢様は俺の影に隠れ、恐る恐る見ている。

なんて可愛い生き物だろう。

ずっとこの時間を味わっていたい。


そんな気持ちが顔に出ていたのか、シャキッとしろという目線がマイナから浴びせられる。


その馬車は旦那様の前で止まる。

そして、その扉は開いた。



「ミステリア卿、お久しぶりです。」

「おぉ、これはこれはナナ殿ではないか。」



馬車から出てきたのは俺と同じくらいの背丈の人間。

黒髪メガネで、胸の高さまである杖を握っている。



「三人とも紹介しよう。この方はサンセール・ナナ。エイレーネ自由学園の先生だ。」

「初めまして。私はサンセール・ナナ。ナナちゃんって呼んでくれると嬉しいわ。」

「初めまして、私はミステリア・ルナって言います。こっちの男の子がクルーガで、こっちの女の子がマイナです。」



軽く会釈する。



「ナナ殿、本日はお一人で?」

「あぁ、それがですね…ウィズちゃんが急に連れて行きたい人がいるって言い出して…もうすぐ来ると思うんですが……」

「もう一人連れて行きたい…それは一体…」

「それなんですが……あの…あ、来た。」

「……何だあれ…。」



その視線の方に目を向けると、思わず声が出てしまった。


視線の先。

そこには、屋敷とほぼ同じ大きさのドラゴンがいた。


そのドラゴンに身はなく、その体は骨だけで構成されている。


めっちゃかっこいい。

名前をつけるなら骸骨龍になるのかな…?

見ているだけで、この世界に来てよかったとそう思う。



「ウィズちゃーん!!ここでーす!!」



メガネの教師はドラゴンに向かって叫ぶ。

その声に導かれ、ドラゴンは地上へ降り立つ。



「ウィズちゃん!遅いですよ!!どこまで行ってたんですか!」

「まぁ、そう怒るな。思いの外、ローズの逃げ足が速かったんじゃもん。文句ならローズに言ってくれ。」




メガネの教師はドラゴンの上にいる何かと会話する。

その何かをみんなで見ようとしていると、ドラゴンが頭を下げ、その何かは明らかになる。



「やぁやぁ、ミステリアの。昨日ぶりじゃな。主の話していた三人とは…そこの者達かの?」



ドラゴンの頭から降りてきたのは二人。

一人は旦那様に語りかけてくる俺の胸ほどの背丈のエルフ。

もう一人は俺より背の高いスレンダーな赤髪の女性。



「学長…またド派手な登場ですね…。」

「ウィズちゃんと呼べ、ミステリアの。何度言ったら分かる?昨日の記憶も無くなったのか?」

「これは手厳しい…娘の前でして…その…」

「恥ずかしがるな。その娘も直にそう呼ぶ…お主が手本を見せんか。」



困っている…。

旦那様が押されているのを見るのは初めてだ。

旦那様も身分の高い方のはずだが…こんなに対等以上に話している。

あのガキンチョエルフは相当偉いんだろう。



「それでウィズちゃん…何で騎士団長までいるんですか?」

「ふむ、お主が嘘をついておったらとっ捕まえてもらおうと思っての。」

「嘘…」

「さて、そこの三人。初めましてじゃの。我の名はウィズダム・パートリー。ウィズちゃんと呼んでくれ。エイレーネ自由学園の学長を務めておる。ほら、ローズ。お主も挨拶せんか。」

「何で私まで……私はドロアテ・ローズ。王都では騎士団長を務めている。」

「初めまして、私の名前はミステリア・ルナ。こっちがクルーガで、こっちがマイナです。よろしくお願いします。」

「ルナに、クルーガ、マイナ…うむ、よろしく。」



ガキンチョエルフはまじまじと俺達三人を見る。



「それで、がく…んん“っ…ウィズちゃんは何をしに来たんですか?」

「もちろん、主の話に嘘偽りないか確かめに来た。まずは場所を移そう。どこか広いところに案内せよ。」



ガキンチョエルフは図々しかった。

旦那様は三人を招き、中庭へ案内する。



「ふむ、なかなか良いところに住んでいるではないか。ここで良い。」



ガキンチョエルフは足を止め、自身の持つ杖で地面を叩く。

すると、地面から椅子が形成された。

二つの椅子は向かい合うように、残りはその椅子を見守るように。


これは…土属性魔法の応用か…?



「さぁ、座るが良い。我とルナはこっちで、残りはそっちじゃ。」



向かい合う椅子に、ガキンチョエルフとお嬢様が座る。

俺とマイナはお嬢様の座る椅子の後ろに立つ。



「ん?どうした?主らも座るがよい。」

「私達は奴隷のため、お嬢様の横に座るなどできません。」

「んおー、そうかそうか…奴隷…しかもその紋章…なかなか重いのを課したではないか、ミステリアの?」

「彼らが望んだことですので。」

「ふむ…そうか。まぁ良い。話をしたいのは主じゃ、ルナよ。」



ガキンチョエルフはお嬢様を見る。



「話をしよう。我は、主らの生活の一部を…主の父から聞いておる。我はその話に興味があってな。それを聞きにここへはるばる来たんじゃ。いくつか質問しても良いかの?」

「…はい。私でよければ…。」

「それは良かった。なに、そう怯えるな。身の潔白を証明する機会だと思えば良い。堂々としておれ。」



身の潔白…

その不穏なワードにお嬢様は少し眉をひそめる。



「ルナの日常を教えておくれ。特に…魔法に関してのな?」

「私の日常の…」



お嬢様は話し始めた。

目を覚ましてから学校に行くまでに、俺が見せる魔法のこと。

学校にて、学友やマイナと学ぶ魔法のこと。

帰ってきてから、三人で試す魔法のこと。


最初こそ緊張していた様子のお嬢様だったが、時間が経つにつれ調子を取り戻したようだ。

とても楽しそうに話している。


まぁ、お嬢様の緊張をほぐせたのはあのガキンチョエルフのおかげだろう。

お嬢様の話をとても楽しそうに聞いてくれている。

相槌がうまいと言うか…聞く姿勢が前のめりというか…

話しやすい雰囲気を作るのがうまい。


誰しも、自身の話を楽しそうに聞いてくれたら嬉しいものだろう。

もし俺が話していたら恋しちゃう。



「ふむ、なかなかに面白い!その年で魔法の応用もするとは…思った以上に優秀なようじゃな!」

「ありがとうございます!そう言ってくださると嬉しいです。でも私はまだまだです。この二人がすごいだけで…」

「ナハっ!謙遜はよい!お主の話は王都でもちょくちょく聞いておる。まぁ、お主の父がばら撒いておるのだろうが、来年の受験者の中では稀に見る逸材ともされておるぞ?自信を持つがいい。」



お嬢様が逸材か…そりゃそうでしょう。

他の人がどうかは知らんが、お嬢様が頑張っている姿は誰より知っている。

そんなお嬢様がそこら辺の人と一緒なわけがない。

奴隷として鼻が高い。



「よし、お主のことは何となく分かった。そこの二人のこともな。お主の父は…主が我が学園を志望していると言っていたが、それは本当か?」

「はい!その通りです!」

「お主は魔法が好きか?」

「もちろん!魔法は何度も私を救ってくれました。今じゃ立派な心の支えです!」

「そうか、そうか…魔法が好きな者は誰でも大歓迎じゃ。しかしじゃな…」



ガキンチョエルフは声色を変える。



「口先だけならいくらでも言える。」



さっきまでの明るい表情からは、全くもって考えられない鋭い言葉が飛び出した。



「今、王都では二つ。主に関する噂が流れておる。一つは、主が魔法の天才であるというもの。もう一つは主のことが可愛いがために、主の父が吐いたでまかせであるというものじゃ。まぁ、この噂は我にとっては心底どうでもいいんじゃがのぅ…実際、主のことは気になっていた。じゃから我が来たんじゃ。」

「それはつまり…」

「うむ、主の魔法を見せてほしい。主の実力が如何ほどかを見てみたい。結果次第では、この先にある試験…免除してやってもよいぞ?」

「ちょ、ウィズちゃん…」

「良いではないか。実際こやつらがどれだけ魔法に長けているのか気になるだろう?それに、話を聞いている限りでは一般の学生のレベルをとっくに超えている。その時点で合格は確実じゃ。当日まで待つ必要もない。ならば、今すぐにでもそれが見たい。そう我の心が叫んどる。天才だとする噂が嘘ならそれでも良い。主の印象が悪くなるのは当然じゃがな。主が今までどれだけの努力をしたか…主が我の庭に相応しいかどうか、我が直々に見定めようではないか。」



メガネ教師の言葉を聞かず、ガキンチョエルフはまっすぐにお嬢様を見る。

その目は懐疑の目ではなく、期待に満ち溢れていた。



「さぁどうする、ルナよ?」

「わ…私は…」



突然の擬似試験…

印象の悪化が招くこと…それは、学長のお嬢様への眼差しが消えるということ。

そうなれば、きっとこの先の将来でも、期待以上ではないというレッテルが貼られる。

それは避けたいことだな。

期待に応えることができれば、得られるメリットはとても大きい。

逆に、応えれなければ得られるデメリットの方が大きい。

お嬢様は大層迷っていることだろう。


でもね…


俺はお嬢様の肩に手を置く。

お嬢様は、肩に置かれた手を見つめる。



「……大丈夫。」



俺は一言付け足した。

お嬢様はしばらく考え込み、口を開ける。




「私…やります。」

「ナハハ!そうこなくては!」



お嬢様の目に迷いはなかった。

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