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日常は急に動く

鳥の鳴き声。

気持ちの良い陽の光。

それらに包まれながら、学校の門にて待つ。


そろそろお嬢様が学校から出てくる頃だ。



俺がお嬢様の奴隷になったあの日から5年。

俺とマイナは18歳になり、お嬢様は15歳になった。


お嬢様は現在学校に通っており、学友たちと切磋琢磨しているらしい。

マイナはお嬢様の従者として、ともに学校まで付き従っている。

では、俺はここで何をしているのかって?

それはもちろんお迎えに決まっているじゃないか。


…ん?なんで一緒にいないのかって?

一緒に行けるなら俺だって行っているさ。

でも行けないんだ。


お嬢様が通う学校は、日本でいう女子校のようなもの。

男子禁制で、たとえ俺みたいな従者であっても男であれば立ち入り禁止なんだ。

それを知らず、あの学校に足を踏み入れた時はまぁ、恐ろしかった。

周囲の目線は嵐のようで、まるで北極にいるのかと錯覚するくらいには冷たかった。

そりゃあ、俺も年頃の男だし…少しでも話せたらいいななんて思っていたが、その夢はいとも簡単に打ち砕かれた。

俺はお嬢様一筋なんでいいんですけどね!


あの学校の雰囲気を見ていれば、旦那様が何を考えてこの学校にお嬢様を進学させたのか…よく分かる。

旦那様も大概に、お嬢様が大好きなようだ。

それがブレていないようで逆に安心した。



そんなわけで、学校に通えるのはお嬢様とマイナのみ。

学校ではマイナが側に付き、俺は送り迎えが中心だ。



そのため、俺はとても暇である。

朝と夕方の送り迎えさえしてしまえば、その間はフリータイムだからだ。

初めは街の散策やら、市民交流やら色々していたが、それも飽きてしまった。



そこで俺は考えた。

魔法で遊ぼうって。


5年前の悪魔の輪(デビルリング)によるお嬢様誘拐事件で、俺は思い知った。

俺はもっと強くならないといけない。

奴ら以上の相手が現れた時、互角以上に戦えるよう鍛錬しなければならない…と。


それからはお嬢様やマイナを送った後に、西の森の魔獣を相手にして戦えるようにしていた。

こうやって、身体能力的に強くなるのはお嬢様にも、俺のためにもなる。

しかし、ただ強くなるだけでは物足りない。

どうせなら、色々遊びながら魔法の扱い方を学んでいきたい。

それが魔法のあるこの世界の魅力であり、俺の前世からの遊び心だ。



魔法には様々な可能性が眠っている。

魔獣との戦闘に使うような危険な魔法に、日常生活に使える便利な魔法。

いつもと同じような生活に色を彩る魔法に、非日常感を味わえる美しい魔法などなど。

その可能性はまさに無限。

本書いてある魔法から応用、派生なんかもできちゃう。

こんな遊びがいのあることを、遊ばないわけがない。



魔獣の他にも、お嬢様やマイナに協力してもらい、色々な工夫、試行錯誤をして遊んできた。



「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「クルーガ、お待たせ。帰りましょう。」



お嬢様とマイナを馬車に乗せ、俺は馬を走らせる。



「お嬢様、どうでした?少し改良したクッションは?」

「んー、相変わらず気持ちいいわ…。昨日よりも水に近くなって、柔らかい。それに…これは染色したの?昨日と色が違うわ。」



馬車の中でお嬢様が持つのはスライムのようなクッション。

中には花弁が漂っている。


このクッションは俺が魔法を工夫して作成したもの。

薄く伸ばし、強度を増し、膜状にした水で水の玉を包んだものである。

触れても濡れない強度に、触って水の感触が残る薄さを実現した。

加えて、沸騰させた水に花弁の色を滲ませている。

昨日は無色透明だったが、今日は黄色だ。



「そうなんですよ。一度沸騰させた水に花弁を入れて、滲んだら冷やして包みました。今回は工程が大分大変でしたよ。」



そんないつもの会話をしながら屋敷に帰る。





「ただいま、お父様。話って何?」



屋敷に帰ってきた我々は、今旦那様の執務室にいる。

お嬢様が学校に行く前に、旦那様から話があると言伝があったからだ。



「おかえり、マイナ。今日の学校はどうだったかい?」

「いつも通り楽しかったわ。でも、クルーガがいないのもいつも通りもったいないって思っちゃう。」

「はは、それはそうかもな。私から見てもクルーガから学ぶ点は多い。しかしだな、私の気持ちも分かって…」

「分かってるってば。それで、話ってのは?」

「ふむ…これが思春期というものなのだろうか…私はもっと娘と話したいだけなの…」

「お父様。私たちは予定がありますので、これ以上引き留めるようなら…」



旦那様は相変わらずだ。

毎日のようにこのやりとりをしている。

そして、旦那様のお嬢様と話したいという気持ちがわかる分、俺の胸にもくるものがある。



「分かった分かった。そう急がないでくれ。話ってのは来年のエイレーネ自由学園の受験に関してだ。」



おぉ、その話だとは思わなかった。


エイレーネ自由学園とは、俺たちのいる国、エイレーネ王国の王都にある高等部の学校である。

この学校のシステムは日本でいうと大学のようなもので、選択授業であり、クラスという概念はない。

ただ、このエイレーネ自由学園は王国の中でもトップ並みの難関校で、入学者は確実にエリートと言える。

エイレーネ自由学園は騎士課と魔法課にコースが分かれており、お嬢様は魔法課に応募する予定。



「それがどうかしたの?」

「三人は、あの学園の学長がどんな方か知っているかい?」



学長…いや全く知らない。


この世界にはネットやスマホもないため調べられない。

誰かに教えてもらうしかないのだ。



「知らないわ。」「知らないですね。」「同じく、知らないです。」


「そうか。いい機会だ話しておこう。学長の名はウィズダム・パートリー。エルフだ。これは私も聞いた話になるが、彼女は学園創設以来ずっと学長の座を担っているらしい。私なんかよりずっと偉い方だ。私もあの学園出身だからね…学長と話したことがあるが、あの方はとにかく放任主義だ。私たちに何の指図もしない。あのやり方は私にとても合っていた。今の君たちにも言えるかもね。しかし、もう一個が問題だ。あの方は超がつくほどわがままで、バカがつくほど魔法が好きなんだ…。」

「今のところとても印象のいい方に聞こえるわよ?」

「ふっ…そうだね。あの方の人柄は実際に接してみた方が分かるだろう。本題は別にある。」

「別…?」

「あぁ、さっきも言った通り…あの方は魔法が大好きだ。魔法課の入学希望者の全てに目を通すくらい魔法が好きなんだ。それは君達も同じことだろ?だからな、趣味が合うと思ったんだ。普段君たちが魔法を使ってどんなことをしているか。どんな風に使っているのか…私が君達から見たものをあの方に話したんだ。そしたらね…」

「そしたら…?」

「興味持っちゃった。」



持っちゃった…?

話がよく見えない。

それはいいことだと思うが…



「それは…よかったですね。」

「あぁ、そこまではよかったんだ。そこまでは…ね。」

「そこまでは…って?」


「明日……来るんだって。」

「………来る?」

「うん……ここに。」

「………ここに?」



ここに…来る?

そんな偉い方が?

何のために……?



「何のために…でしょうか?」

「それが私にも分からんのだ。ただ君達の魔法を見に来るのか、それを見て学園の合否を決めるのか…。あの方の考えることは全く分からん。明日足を運ぶことだけが分かっている。」

「そんな…急に…」

「これがあの方なんだ。申し訳ないが三人とも…明日は頼むよ。」



頼むって…急に試験が始まる可能性があるってことか?

まだ準備している途中なのに…



「あの方は見るだけだと言っていた。本当にそうならいいが、あの方は意外と冷たい。そのままその結果につながる可能性もあるからね…油断はしないように。三人とも…私も予想外のことだが…全力でことに当たってくれ。」



そうして、目を逸らしながら言葉を締める。

受験校のトップが直々に…俺たちの魔法を見に来る…


確かに油断はできないが…俺にとっては好都合だ。

学長なら魔法にも詳しいはず。

色々ためになる話もあるだろう。



唖然とするお嬢様をよそに、俺は密かに心を躍らせていた。

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