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身の安全

体が……痛い……



あの大男は目の前の状況に理解できていないようだ。

いや…無理もない。

お嬢様とマイナが急に姿を消したのだから。


あの大男は戸惑っている。



「はっ……ざまぁねぇ……」



一泡吹かせたことに気持ちが晴れ、二人を逃がせたことに安堵する。


二人が急に消えた理由…それは、ついさっきこの身に備わった能力に関係する。

その能力を使って、お嬢様とマイナを逃したのだ。


俺が能力を使って逃す前に、マイナも何かしらの能力を使っていた。

俺の身に起きたことを考えれば……マイナにも同じようなことが起こったのだろう。


二人とも無事だといいが、マイナは最後の最後にひどい傷を負っていた…

誰か、助けが来ることを祈ろう。


二人はどこか遠くに逃すことができた…

あとは……俺だなぁ…この状況でどう逃げよう……



その場に残るのは、大男、魔獣、そして俺。

魔獣の標的は俺に向けられる。


ワーウルフが距離を詰める。

もう触れるほどに近い。



こりゃあ……終わったか…?



ワーウルフの爪が迫る。

俺は覚悟を決めた。



「待て」



ワーウルフの動きが止まる。

あの大男が止めたようだ。



「おい、貴様。これは一体どういうことだ?」



大男が問い詰める。



「どういうことってのは…?」

「とぼけるな。貴様がやったのだろう?こんな魔法…聞いたこともない…。あの獣人もそうだ…地中に沈んだと思えば、目の前に飛び出してきて……まぁ、いい。察するに、貴様ら…先の中で覚醒したな?でなければ、説明がつかん。」

「覚醒……。」

「あの白髪の子をどこへやった?」

「……答えると思うのか?」

「答えぬのなら甚振るまでだ。ワーウルフ、やれ。」



大男は指示を出す。


ワーウルフの爪が襲う。



「がぁっ!!」

「さぁ、早く吐け。そうすれば、貴様は助けてやる。」

「はぁ…はぁ……残念だな…俺からは何もでない…ぐっ!!」



ワーウルフは一定の間隔で切りつけてくる。

刻まれる傷は次第に大きく、深くなっていく。



「とっとと吐け。あの子はどこだ?」

「……うぐっ!!はぁ…言うわけ…いっ!…ねぇだろ……がっ!」



大男の問いは終わらない。

というか、終わらせる気はない。


俺がここにきて二人の居場所を言う訳ないし、お嬢様を助けれたんだ…俺は仕事を全うした。

この拷問が終わらずに、俺が死ぬまで続いても、二人を守れるなら…まぁ、いい。


また三人で遊ぶことが叶わないのが……残念で仕方ないが、マイナはあんだけぶっちゃけたんだ……俺の分まで働いてくれるだろ…。

マイナがあそこまで俺に不満を抱いていたのは初めて知ったが…確かに、思い返せば自分勝手だったのかもな…。

もっと話を聞いときゃ良かった。

マイナも言っていた通り、お嬢様を育てていくのは俺みたいなのじゃダメだ…その辺マイナは分かってるし、あいつはしっかりしてる…。

あいつなら…お嬢様を立派な淑女にできる……。


……俺もお嬢様の成長…見届けたかったなぁ……。



これからのことを考えると、まだまだ楽しみは多いようで、少しの後悔が頭をよぎる。



「無言を貫くか……しょうがない。獣人の方は大怪我を負わせた…すぐには動けまい。魔獣には鼻の利く奴もいる。離れていてもいずれ見つかるだろう。その前に貴様だ。我らの崇高な目的を阻みおって……ワーウルフ、右腕だ。」



すると、ワーウルフは俺の右腕を持ち上げる。

そして、その鋭い爪で俺の右腕を断ち切った。


俺はそのまま地面に落ちる。


思いの外痛みはなかった。

とても綺麗に切れたようだ。

元々、意識は朦朧としていたため、あ、切れたとしか思わなかった。


しかし、しばらく放置されると……



「う…ぐぅ…あ“……あ”あ“!!」



時間で経つにつれ、痛みが増す。

痛みがひどくなり、朦朧としていた意識も戻ってきた。



「あ”あ“…あ”あ“あ”!!!」



意識は戻り、その身に痛みが刻まれる。


痛い以外に言葉が思いつかない。

腕の痛みが脳を占拠した。



「苦しかろう……それは貴様が望んだ結果だ。我らを阻んだ罰……とくと受けるが良い。お前を助けるものはどこにもいない。一人、苦しみながら死んでゆけ。」

「う“う”う“ぐぅ……がぁ”ぁ“ぁ”!!」



静かな森に叫び声が木霊する。

そのSOSを聞き入れるものはどこにもいなかった。


大男は眺める。

その哀れな姿を。


同様に、魔獣は眺める。

嘲笑うかのように。



痛みが治らず、悶絶している中で、死んでしまった方がいいのではないかと思い始める。

そっちの方が楽ではないのか…と。


残りわずかな魔力で、自分を撃ち抜く水弾を作ろうとする。

その時……



「必要ないぞ、小僧。」



声が聞こえた。

それはとても優しい声だった。



「相変わらず、子供相手に酷いことをするではないか。そなたの組織は。」

「次から次へと……貴様はなんなんだ?」

「名乗る気はないし、そなたの名にも興味がない。神託があったから来てみれば…またそなたらだ。我もそろそろうんざりだ。」

「であるなら帰れ。貴様には関係のないことだ。」

「それはできない。この状況を見てしまった以上、気分が悪い。見たところ、魔獣を従えていると思われる。魔獣の力なんぞに頼らず、正々堂々平等に戦えんのか?」

「これが平等である。このガキが俺の邪魔をした。その対価はこの数による暴力に匹敵する。我の邪魔をするなら貴様も…」

「否、それは釣り合っていない。平等の戦いとは言えぬ。真の平等とはこういうことを言うのだ。」



突如現れた男は目を閉じる。

そして、男が目を開けた。


そよ風が吹いた。

気持ちのいいそよ風だ。


だが、他の者にとってこれはそよ風ではなかったらしい。

次の瞬間、大男を残し、その他全ての魔獣が倒れた。



「うむ、これが平等だ。」

「貴様…一体何をした!一体何者なんだ!!」


大男が声を荒げる。

さっきまでの余裕が一瞬で消えた。



「そんなこと、そなたが知る必要はない。そこに転がる魔獣と同様、すぐに殺してやる。」

「貴様……っ!なんだこれは……体が…動かない!」



何を言ってるんだ?

大男は何もされてないはず…。



「さぁ、行くぞ。」



男は一歩一歩と歩き出す。

それと同時に、大男が同じ速さで動き出す。


両者は距離を近づける。

その距離は、すでに目と鼻の先。



両者は見つめ合い、しばらく硬直する。



「さらばだ。」



大男の頭が吹っ飛んだ。

その頭はあの男が持っている。


見えなかった……あの大男を一瞬で…

何が起こったのかが、まるで分からない



痛みにも慣れてきた……今度こそ意識が飛びそうだ。



「おい、小僧。そなた、疲れただろう?後始末は我がやる。そなたは大人しく寝るが良いぞ。」



意識がぼやける中、話しかけられる。

悪い人ではないのか……?



「あぁ、それとそうだ。言い忘れていた。」



男は改まってそう言う。



「この世界へようこそ、転生者。また、会える日を楽しみにしているぞ。」




男の言った言葉について考える暇はなかった。


なんとか繋がっていた意識が、途切れてしまったから。

『お願い!』

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