資源が有ることで 予算も増えたし
海上護衛隊は当初、大小旧式艦を寄せ集めて編成する予定だった。
それが第二次ロンドン軍縮条約の余波で新造艦が充てられることとなった。
要求された最低要項は
基準排水量 1200トンから1800トン
速力 18ノット
航続距離 4000海里程度
備砲 10センチ砲4門
機銃 13ミリ連装4丁
水雷兵装 爆雷30個
水中聴音機 1基
水中探針儀 1基
備考
備砲は高角砲が望ましい。
魚雷装備は考慮に入れる必要無し。
洋上行動能力を高めるために無補給行動期間を長くすること。
安定性を第一とする。
量産性良好なこと。
安ければなお良し。
以上を満たしていれば備砲は3門でも可。
機銃は将来的に増備する可能性もあり。
速力は公称18ノットとすること。
旗艦設備は戦隊旗艦程度を持たせること。
建造予定数 4個護衛隊+予備艦で18隻。
内密であるが、有事の際に小型艦艇を量産する事態への予行演習と考えてもらいたい。
艦政本部はこの要求に頭を抱えた。備考の方が多いじゃないか。しかも量産性の研究か。
戦隊旗艦程度でいいのかと聞くと「5500トン級を特務艦水準にまで落として旗艦に充てる予定」との返答が来た。
新設の組織であり「戦隊は4隻と思われるが統率する司令部の人数を教えられたい」と聞くと「司令としての少佐1名。参謀として中尉が2名。曹士級従兵2名の5名を予定している」との返答。
これで個室1部屋と二人部屋2部屋の確保をしなければいけなくなった。
艦政本部では新設艦種とあって関心は高いが、対艦戦闘力は無いに等しく艦型も小型であるために譲らない人の関心が向くことは無かった。
開発陣は若手にベテランを付けて、要求水準を満たした上で量産性の向上を目指させることとした。
「諸君、新設艦種であり部内から関心も高い。しかし、対艦戦闘を主任務としていないために砲術と水雷に世間から注目を浴びることも無い。落ち着いてやってもらいたい」
「造船中佐。質問ですがよろしいでしょうか」
「うむ。質問があればするように。設計が進んでからでは対応出来ないこともある」
「備砲が高角砲を望むとありますが、現在10センチ級の高角砲がありません。新設計するのでしょうか」
「良い質問だ。現在10センチ高角砲が開発中であるが、この艦種に載せるには全てがオーバースペックでな。性能を落として軽量化したものを搭載出来ればすると聞いた」
「成功するのでしょうか」
「成功しなければ、三年式8センチ高角砲か十年式12センチ高角砲を積むことになる」
「アレですか」
「残念ながらアレだ。高速機には照準どころか追尾もままならん。10センチをものにして欲しいものだ」
「次の質問、よろしいでしょうか」
「おう。どんどんしろ。答えられる事柄なら答える」
「主機ですが、公称18ノットですとレシプロはつらいですね」
「出ないことは無いぞ。タービン以前は出していたし。まあ、機関区はでかくなるわな」
「そうするとタービンかディーゼルになりますが、従来機からの選択でしょうか」
「そうだな。タービンは従来機からの選択。ディーゼルは進歩が有るので新型を選びたい。まああれだ。最初から決まっているのだが両方作れ」
「決まっていたのですか」
「おまえ達は最初から決められているのと自由に決めることが出来るのとどちらがいい」
「自由に決められる方が良いです」
「この計画はおまえ達の成長を期待している部分も多大にある。だから、こちらが許す限り自由にやれ」
「「「「ありがとうございます」」」」
設計は進んだ。
基準排水量を1200トンとし、燃料庫や清水庫を大きく取って満載排水量は1600トン近い。
船体は駆逐艦や水雷艇のように細長くせずに幅広とし安定性の向上を図った。全長は90メートル無い。幅は11メートルと広い。
艦首形状は1号機雷を考慮せずクリッパー型である。
タービン主機は千鳥型水雷艇と同じ主機を使い缶は千鳥型の缶を小型化し1缶1機の構成とした。
機関出力は6000馬力を計画しており、満載状態で公称18ノット最大20ノットを越える予定。
航続距離は燃料庫を大きく取ったので5000海里が予定されている。ディーゼル主機の場合はさらに延びて6000海里程度が予定されている。最新の22号をシフト配置で前後に搭載。2基で4400馬力を予定。速力はタービン艦よりも2ノット程度遅いと予想される。
機関配置は抗甚性を考慮して日本艦艇として初めての缶機缶機のシフト配置を採用した。中央隔壁は無い。ただ建造後に前部主機からスクリューまでの長さが長いためか全力発揮に近いところから振動が出た。船体強度の弱さが原因と見られたが他にも原因があり、強度を見直し振動吸収策として防振ゴムを使ったカップリングを使用した護衛艦が登場したのは昭和14年になる。16ノット程度で使用するなら問題は無かった。
主砲は九八式10センチ高角砲を短砲身単装として軽量化した砲が完成し搭載した。それでも重いので前部1門後部2門であった。防楯は波浪除けで装甲ではなく、前面と側面・上部を半分程度施された。
友鶴事件の影響で上部重量を軽くする事に気を遣っている。船自体は単装4門に全面防楯でも十分な安定性を保つ設計だった。
主砲照準装置は高射装置だが秋月級に計画されている物よりもずいぶんと簡略化されている。交戦距離を最大8000メートル程度と割り切ることで簡略化を可能にした。
水中聴音機と水中探針儀には最新開発のロッシェル塩を使用した機材が採用された。