資源が有ることで 盛り上がったのは地面だけではない
各話で年代が前後します。諦めて下さい。
2025/01/21
一部加筆修正しました。
日本国内では産学官協同で冶金技術の向上に励んだ。国庫の補助も多めに出る。今までの少ない研究費で成果を上げろと偉そうにしていた官側が頭を下げてくるのだ。
現在稼働中の金銀鉱山をどうするかも問題になる。おそらく多くは収支が合わなくなるだろう。これは世界の金属相場にも影響を与えるかも知れない。
推定だが金が1万トン程度。銀は20万トン程度と考えられた。これは沖縄周辺の鉱脈だけで南鳥島の黒い石の下にある泥の分は入っていない。黒い石はマンガン・鉄を主成分としニッケル・コバルト・銅も含まれる。
問題は水分が非常に多く含まれるのだ。しかも海水中に有ったもので塩分濃度が高い。水分と塩分を取り除くことが第一の課題だった。
精錬には大量の熱と電力と清水を必要とし、有害な成分を含んだ排水が大量に発生し、ボタ山のように廃棄物が積み上がることも容易に予想される。
政府は足尾鉱毒事件のような騒ぎになることを恐れ、精錬場所は大量の海水で希釈されるように太平洋の孤島を選んだ。
今回の隆起(隆起と名付けられた。決して神の奇跡では無いとキリスト教勢力が言い張ったからだ。キリスト教の教会が光らなかったのがお気に召さなかったらしい)で大きくなった島の中から選んだ。
千島列島は有力な漁場であり最初から候補に入っていない。島自体が活動中の活火山の島も危険すぎるとして外された。
どの島も火山島だったり絶海過ぎたり(南鳥島)、有人島だったりして候補は減る。条件として良さそうでも極めて希有な自然環境が維持されているとして外された。足尾鉱毒事件のことが有り環境保全もお題目だった。
選ばれたのは媒島だった。
火山でも無く住民も数世帯しかおらず、大きさも2平方キロメートル無かった島から8平方キロメートルに成長した。
地形も周囲は荒波に揉まれ断崖であるが南部の入り江が港湾に適しているとの測量結果があった。
媒島の開発が始まった。まずは港湾作りだが、太平洋の荒波に揉まれる孤島である。海底地形と荒波が強敵過ぎた。
最低限実用になる2000トン級港湾施設が完成したのが選定1年後の昭和4年だった。拡張と強化は続けている。
清水も本土から運ぶ徹底ぶりだ。
昭和5年、沖縄では石油採掘施設が稼働を始めた。精製施設は建設中だ。
予算が足りない日本政府は、沖縄の資源を原資とする国債を発行した。償還時に資源開発が成功していれば沖縄の資源と交換できる条件を付けてある。
売れた。予想以上の売れ行きでもっと発行しろと市場の圧力が強い。金銀の償還は人気のようだ。原油で償還する債権は人気が無かった。売れずにすぐに売り出し中止になった。金銀で償還可能な債券は人気でほとんど無金利状態になったがそれでも売れた。黄金の魅力は凄まじい。
沖縄の金鉱石は熱水鉱床とみられ金品位が20グラム/トンと高品位なのも人気が出た原因だった。砂金のような金塊も見られる。しかも地下深く掘らなくていいのだ。調査初期の推定値とは大きく異なり推定埋蔵量は2万トン以上とみられる。空前の金鉱山だ。銀や銅も入れれば100万トン以上となる。プラチナも1グラム/トン程度含まれている。ついでにパラジウムやイリジウムも出てくる超優良鉱床である。
一時的に金銀プラチナ相場の下落を招いたが、日本政府が国家予算の原資として扱い市場には売却目的として大量に供給しないとの声明を出し、相場は元に戻った。
勿論、盗掘は厳罰だし警備もしている。それでも広いのでどうしても防ぎきれない。
周辺の海域に砂金として散らばるが、そこは沖縄県民のみを見て見ぬ振りをする。
沖縄には鉱床警備に陸軍1個師団が常駐するようになった。
陸軍だけでは無く、海軍も海上警備として1個水雷戦隊が常駐する。陸軍はともかく海軍は拠点がまだ沖縄には無く、台湾を拠点にしている。
沖縄の油田・ガス田は継続して行われている調査の結果、当初見積もりよりも大規模である事が判明。今の調査方法では埋蔵量がはっきりしないほどだ。大々的に開発が始まる。
主役は日本企業と言いたかったが技術力に大差があり、ライジングサン石油の提携先であるロイヤル・ダッジ・シェルが主役だった。国内大手の日本石油はアメリカのスタンダード・オイル・オブ・カリフォルニアと提携。遅ればせながら参加する。他の国内石油会社は中小であり対抗できる勢力を作ろうと画策。政府も後押しし昭和石油が成立。昭和石油も独自に2社に対抗できる技術力は無く海外提携先を探す。国策として昭和石油に組み込まれた三菱石油の提携先であるアソシェーテッド社を頼った。
その間に脱落したり吸収合併を繰り返すなどした企業もある。
日本国内の石油精製大手はライジングサン石油・日本石油・昭和石油の3社となる。勿論独自の道を行く会社もある。
沖縄の油種は何の変哲もない中質油だったが硫黄分が低めなのは有り難かった。
スマトラ並みであり、発電所や船舶では原油生だきも可能なほどだった。
アメリカは唖然とした。石油で日本を締めることも可能だったのが、自給可能になれば出来なくなる。
巨大市場中国の前に立ちふさがる壁が日本だった。スペインは強引に嵌めてフィリピンやメキシコ湾・カリブ海の島々を手に入れた。
イギリスやフランスはスペインのようにはいかないだろう。日本ならスペイン同様の目に合わせてやれると思っていた。
それがこのふざけた事態だ。
しかも、悔しいことにウェーク島は拡大しただけで資源の資の字も無かった。*
しかも天然の入り江だった礁湖が上昇して無くなり、拠点として使うには多大の予算と資源を投入する必要がある。
その点は島が大きくなった所に共通している。
日本は朝鮮半島から手を引いて新しい領土に全力を挙げるようだ。移民まで引き戻している。現にアメリカ国内からも大勢帰っていく。
日本が勝手に手放した朝鮮半島をアメリカが手に入れたのはいい。だが調査の結果が問題だった。日本が近代化投資途中で放り出したために各所の近代化が中途半端で終わっている。アメリカが望む対中貿易拠点としてどれだけ金を掛ければいいのか。国土も荒廃しており日本が植林事業をやはり中途半端で放り出したためアメリカが引き継がないといけないだろう。水害は交通網の寸断だけではなく下流部に作るだろう工場にとって困るからな。
日本と戦争するよりも安いだろうから金は掛けると思うが、日本ほどの近代化ペースにはならないだろうと予想される。
工場とそれを支えることが出来る環境があればいいだけだ。日本はなんでこんなに金を掛けたのだろう。
「日本を石油で締め上げる事が出来なくなったな」
「おまけに金だと?ふざけてる」
「しかし、沖縄は魅力的だな。ジャパニーズには似合わない土地だ。アメリカが使ってやろうではないか。金と石油。位置的にも大陸進出に都合が良い。人口も少なく統治も楽だろう」
「アメリカか」
「我々がいる場所だよ」
「そうだな」
「新しい西之島とやらも中継点には都合が良い。グアムなどという小島とは違う」
「では、どうやって話を持って行くのか。次回までに考えようではないか」
「「「賛成だ」」」
媒島で選鉱場と精錬施設の試験的稼働が始まったのが昭和6年。
発見後すぐに試験的な設備で少量の精錬が行われていたが技術的に未熟で成績は芳しくなかった。
それが技術的に進んだのはドイツの技術だった。ベルサイユ条約後の厳しい財政状況で外貨の獲得が急務であったことに目を付け、ドイツからの技術導入に踏み切ったのである。
媒島の選鉱場と精錬施設にも多くのドイツ技術が導入されている。
このドイツ技術導入の影響は多岐にわたった。製錬技術だけでは無かった。多くの機械製品で整合性の基準となる寸法公差の運用が厳格に始められ、生産性は格段に向上した。合わない部品を職人が再加工して現物に合わせる手間が減ったのである。
この選鉱場と精錬施設では技術的に追いつかない部分を強引に物量投入で誤魔化して精錬をしている。効率は大変悪いが将来的に技術革新が進めば効率も良くなるだろうという予想にたって始められた。
各種有害物質が大量に存在する中での作業で従事者の健康と安全には当時の水準以上の注意が払われた。
昭和10年。媒島周辺の根魚に奇形魚が見つかり始める。媒島周辺の漁業と釣りが禁止された。排水設備の性能向上が研究された。性能向上した排水処理技術は国内鉱山や工場にも導入が進む。
フリーメーソンですかね。陰謀論にしてみました。いろいろな小説でお馴染みさんの設定です。
ガソリン、灯油、軽油の需要が少なく、ナフサから合成される化学繊維や合成樹脂の需要もほぼ無い時代だけに重油やアスファルト留分が多く取れ硫黄分も少ない中質油は喜ばれると考えます。重質油は逆に輸送や精製に手間が掛かり当時の日本の手には余ると思います。
石油系化学繊維はナイロン6がまだです。石油系合成樹脂も塩化ビニル以外は実用化には遠く研究中くらい?
石炭系のフェノール樹脂やレーヨンやキュプラという繊維はありました。
エヴァで初号機を固めるために流し込まれたのがベークライトでしたね。あれもフェノール樹脂ですね。
原油生だき
精製せずそのまま燃料とすること。
相良油田で石油を直接発動機に入れて動かしているような感じです。
勿論、マンガン団塊や海底泥からの精錬技術は謎にあふれるご都合技術であります。
* ウェーク島の地下資源は初期の探査で発見できなかっただけです。アメリカはハワイ準州やアラスカ方面で島の拡大を確認していますがそこまで大きくなっていませんし、今のところ資源もほぼ見つかっていません。沖縄や西之島が羨ましいだけです。