表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

資源が有ることで 船と空

 艦政本部渉外担当の中佐は佐野町に来ている。大阪の南の果てだ。南阪造船というまだ操業開始後4年の真新しい造船所だ。

 南海電鉄4割、阪神急行電鉄3割、国3割出資の国策会社と言ってもいい。

 ちなみに社旗は緑地に白く南阪と字が入っている。

 ここで現在建造されているのは海防艦だ。長さ180メートル幅30メートルで1万総トンの商船が建造可能な大型ドックが2基あり、2基とも新造用となっている。

 この造船所にはまだそのような大型船舶の経験は無い。信用が無かった。新規参入の船会社が老舗で建造してもらえない分が回ってきている程度だった。それも大きくて499型で合計5隻という実績だ。

 このまま仕事量が少ないと地元私鉄が危ないと言う声が上がり、国(海軍)の意向を受け入れることで海軍から仕事が回ってきた。大勢の監督官(海軍)と共に。やりにくいったらありゃしない。


「少佐。久しぶりだな。仕事はどうだ」

「中佐。順調と言いたいですが、初めてのやり方であり、問題山積みですね」

「多艦種同時建造は面倒か」

「同艦種ならいいと思うのですが、混合建造はやったことが無いので資材の手配に問題が出ます」

「艦種違いの資材を手配してしまうのか」

「それもありますし、置き場所を間違えると変更に手間が」

「造船所の大きさで無駄な容積を減らせればと考えた結果だが、必要になるかも知れない。今のうちに経験を積んでおけ」

「ありがとうございます。必要な事態にならなければ良いのですが」

「そうだな。これらの艦が実戦を経験しないことを祈ろう」

「はい」


 ドックには新型海防艦2種が前後に並列で並んでいる。このドックで4隻同時建造をしている。隣のドックでもだ。

 1200トン級海防艦はこのクラスとしては贅沢に出来た良い艦だった。量産性も配慮されている。あくまでも配慮だった。今建造している1000トン級と800トン級は完全に量産性優先で設計されている。船体も艦橋も曲線は少なく平面を組み合わせている。見た目はとてもではないが流麗とは言えない。今までの海軍艦艇の優美な曲線とは違っている。性能はある程度確保されていれば良いと設計された。ただ1000トン級はともかく800トン級は外洋での作戦行動能力に疑問が付いており、南シナ海や東シナ海と日本海と本土近海での使用が前提となっている。

 上を見ると日本晴れだった。気持ちよく晴れている。飛んでいるのは陸軍機か。明野学校が近かったな。


 中佐は艦政本部に戻り報告を済ませると、各方面に顔を出して挨拶と無駄話をして情報を集める。それも仕事だ。




「キ43は中止になるかも知れないですと!!」

「そうです。フィンランドでの戦訓と最近の欧米新型機の動向から高速と重武装が必要とされています」

「だが、大きな九七戦を望んだのは陸軍ではないですか」

「それについては申し訳なく。キ44の方に力を入れることになりました。それで納めてもらえないかと」

「キ43の空戦性能は悪くない。試験飛行でも九七戦を圧倒できた。何が不満ですか」

「速度も武装もです。戦闘機を取り巻く情勢が変わりました。いや、戦闘機だけでは無く全てです」

「そんなにですか」

「ここ数年の日本の工業力上昇は現場の方々が一番気がついていると思います」

「そうですな。つまり、時代が進んでしまってキ43は時代遅れと?」

「航空機の性能向上が日本以上に進んでいるのが欧米です。欧米の新型機は時速550キロが普通になっています。550キロの機体が出た三年後には600キロの機体が出る可能性が高いと考えています。今、時速530キロの新型を開発していては後れを取ってしまう。と言うのが最近の戦闘機情勢です」

「そんなにですか」

「ですから、現時点で600キロ近く出ているキ44なら欧米新型機に十分対抗できるというのが航空本部の大勢になってきました」

「しかし、キ44は航続距離が短いですよ」

「これら機体の仕様決定がされた頃とは状況が変化しました」


1940年。

 昭和15年の冬、中島飛行機本社では陸軍航空本部の少佐と中島の重役達が話し合っていた。



 同じ頃、三菱重工名古屋航空機製作所。同じように。


「金星を積めとおっしゃる」

「そうです」

「栄ではいけませんか。大変機体のバランスが良く仕上がっております」

「栄は小型なのが良いのですが、それだけに性能向上も限界がある。これからの高速重武装化時代、栄では機体性能が劣ることになってしまう事が考えられます。金星なら1500馬力も可能と考えられます」

「確かに試験では1500馬力運転も可能となっておりますな」

「聞いていませんが」

「社内試験ですから」

「とにかく、栄を積んだ機体は二一型で打ち止めです。金星搭載機完成までは二一型で納品をお願いする」

「どうだね。設計主務。金星を積めるか」

「元々、選択肢にありましたので大丈夫です。ただ、航続距離が相当落ちると思います」

「どのくらいなのか」

「2割から3割は落ちるでしょう」

「速度向上は?」

「10ノットから20ノットでしょうか。馬力次第です」

「なら問題ない。航続距離は元々要求が無茶なのだ。すりあわせはやっておく。ではお願いする」



 やはり同じ頃、川崎航空機。


「は?エチレングリコールの使用許可ですと」

「そうだ。我が国でも生産が可能になり十分な供給量が確保出来る。それに、要求仕様決定時点ではまだ大陸奥地の補給不十分な場所での展開も視野にあり、現地で調達できる水だけで運用を考えていた。それが必要なくなったのでな」

「つまりもう大陸に出て行く気が無いと」

「はっきりとは言えないが」

「冬場の心配がいらない」

「それが主目的だ」

「北ですか。まさかフィンランドとか言わないでしょうね」

「フィンランドは無い。中島の新型が行く」

「では北とは」

「樺太がきな臭い」

「ここで言われましても。それにエチレングリコールを使っても-20度くらいが限界です」

「聞かれたからな。凍結の問題は運用でなんとかする」


「陸軍としては、単座戦闘機の中で航続距離の長いキ61に期待している」




次回更新 11月12日 05:00


阪神は今の阪神電車(戦前は阪神電気鉄道株式会社)では有りません。今の阪急電鉄(戦前は阪神急行電鉄株式会社)です。

紛らわしさの局地か。

なんで造船会社なのかは、好景気の中調子に乗っただけです。場所がアレなのは、神戸から岸和田まで先行企業が押さえていたからです。通勤は南海電車ですれば良いという考え。

異業種参入は難しい。

今の泉佐野市に明野学校分校が在ったそうです。少し早いですが登場。

日本にある工作機械や切削刃物も良いものを多数輸入できています。国産も頑張っているでしょう。

代用金属の使用という資源の制限もありません。

多分、ハ40はまともに回るはず。アツタも。

キ四三隼ですが、開発中機体は史実二型相当。武装は一型初期です。

零戦二一型も二二型相当です。

いろいろ世界水準に近づいているので、それなりに性能は上がっていますが格闘戦性能と速度以外の差はあります。

この頃、P-38とF4Uが650キロで飛んでいるとか。アメリカ凄いとしか言えません。


極寒地ではエンジンを止めないとか、ヒーターが別に付いていて一晩中電熱ヒーターでエンジン温度を下げないようにしているとか記事で見たような気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まぁ現在北欧の北極圏の町では冬季は車には電熱ヒーターが備え付けられててホテルではコンセントが差し込んであって出発時間から逆算してヒーターが通電するようにタイマーかけると聞きました。
[一言] 北欧辺りの国では、ガレージのコンセントから電源をとりヒーターで凍結したエンジンを温めて使用するのが普通だと聞いた事が有る。 (これがEVの充電施設に流用出来たから早期に普及したカラクリ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ