第99話 再質問される年齢
能力を使って木の板に書かれた数値(傷)を消去してから新しい数値(傷)を書く、という改竄方法を俺は取った。
ところで、この虚偽報告の是正やその具体的な方法として使っている改竄をするためには、大前提としてあの情報が必要である。
あの情報とは……どの世帯が虚偽報告をしているのか?という情報である。
これを知らなければ、虚偽報告をしている世帯を避けて、それ以外の世帯の収穫量を改竄する、ということができない。
もし俺が各世帯を回ってそれぞれの収穫量を調べることができたとしても、実は、聞き取りに行ったからといって、必ずしもその世帯が虚偽報告をしているのかどうか?ということを知れるわけでは無いのだ。
なぜなら、各世帯が報告してくる収穫量が虚偽報告をしているのかどうか?をすぐに判別するためには、実際にその世帯が収穫した農作物の量を目で数えて、その量と報告してきた収穫量を比較する必要があるのだが、全ての世帯で実際の収穫物を見ることができないから、直接収穫量を調べに行けたとしても全ての世帯の情報は分からないのだ。
なので、直接聞き取りに行くだけでは、虚偽報告の是正自体はできても、それを完璧に熟すことは無理になってしまうのだ。
俺としては、なるべく虚偽報告は漏れなく是正して、村全体の収穫量をできるだけ上げたい。
(はっきりとした量じゃないと、"気付いて"もらえないからな)
なので、俺は虚偽報告をしている世帯を見逃さないために、直接聞き取りに行くのとは別の方法でどの世帯が虚偽報告をしているのか調べた。
その方法とは、世帯の予想収穫量と虚偽報告の常習性を調べる、と言う方法である。
予想収穫量とは……
まず、各世帯が管理している畑を観察し、その畑の面積やそこで育てている農作物の種類、その年の畑の状況などを調べる。
次に、その情報を基にその年の各世帯の予想収穫量を概算する。
最後に、村長が残している前期や前々期、さらに以前の各世帯の収穫量が書かれた木の板を参考にして、先ほど概算した予想収穫量をより正確になるように修正する。
ということである。
予想収穫量が分かれば、わざわざ実際の収穫物を数えに行くこと無く、報告してきた収穫量と比較するための正しい収穫量を知ることができる。
予想収穫量だけでも分かれば、どの世帯が虚偽報告をしているのか?について、かなりの精度で知ることができる。
だが、それだけでは完全とは言えないので、各世帯の虚偽報告の常習性も調べるのである。
各世帯の虚偽報告の常習性を調べるための1つの方法として、その世帯の家族構成から困窮具合を予測する、という方法がある。
これは、その世帯が困窮を理由にして虚偽報告に走る可能性を知り、困窮に当てはまる世帯を虚偽報告の常習性があると判定する、という方法である。
家族構成の情報は、村長や両親から聞いたり、村人同士の会話に聞き耳を立てたり、遠目からその家を観察するなどして、調べる。
他には、2歳の時に村長に付いて行った各世帯への直接の聞き取りで、虚偽報告をしていることが分かった世帯も常習性があると判定する。
そして、各世帯の予想収穫量と報告してきた収穫量を比較することで虚偽報告をしているのかどうかを数値上で確認し、虚偽報告の常習性から潜在的な可能性を予測する……この2つを組み合わせれば、その年にどの世帯が虚偽報告をしているのか?ということをかなりの精度で知ることができる。
ここまで説明してきたことは俺がどのようにして虚偽報告を是正しているのか?についてのほぼ全容である。
ここまでで、俺は様々な策を弄して虚偽報告を是正している。
だが実は、これは村長がある程度意識すれば防げるようなことなのだ。
俺は徴税報告までの仕事として、村長が調べてきた各世帯の収穫量から村全体の収穫量を計算する仕事とその計算した結果を徴税官に提出する書類に書き込むという仕事をしており、村長は俺が書き込んだ書類を確認した後、そこに補足説明や追加項目などを書き込む。
そうすることで、徴税官に提出する書類が出来上がる。
その過程で村長は俺が改竄した村全体の収穫量を見ているのだ。
しかし、村長は俺の事を相当信頼しているようで、改竄がある、などとは思っていないようなのだ。
村長がしている確認は改竄があるのかどうかを確かめる確認では無く、俺が計算間違いをしていないかどうかを確かめるための確認なのだ。
この確認の段階で、村長が事前にバックアップを取っておけば、俺の改竄を簡単に見破ることができるのだが、村長はバックアップを取っていないのでどうしようもない。
だが、俺が改竄した後の書類から改竄に気付かなくても、そもそも俺が改竄しているところを見れば、是正に気付くことが出来る。
つまり、俺が計算の仕事をしているところを見張るだけで、簡単に改竄に気付くことができるのだ。
しかし、村長は俺が計算の仕事をしている時、俺のことを長時間1人にさせておき、見張ることなど無いのだ。
ここまで俺に対する村長のセキュリティ意識が低いのは、村長が俺を信頼している部分が大きいのだろう。
以前に説明した契約の話に当てはめれば、村長と俺の間には、村長が自由、俺が信頼を保証した無言の契約が成り立っているということだ。
(まあ、もし村長がセキュリティ意識を高めていたとしても、それを対策するような方法を取ればいいだけなんだけどな)
「……と、このようにして私はこの村に蔓延っていた虚偽報告を是正した次第で御座います」
俺は男にどのようにして虚偽報告の是正をしたのか?についての説明を終えた。
もちろん、男に対しての説明はこれまでに説明した内容から、男には言えない能力みたいな部分を上手く隠しながらの説明であった。
…………サッ
「……………………すぅぅ」
俺の説明を聞き終えた男は、片手を使って両目を覆うと、首を曲げて天井に顔を向けた。
「……………………」
男は天井を向いた姿勢のまま黙り込んだ。
「…………はぁ」
ススッ
男は10秒ほど天井を向いていたが、やがてその両目を覆っていた片手を降ろし、顔と目線を俺に戻してきた。
「…………お前」
男は10秒以上黙り込んでいた口から言葉を紡ぎ始める。
「お前……本当に5歳か?」
男の言葉には最大級の疑問の感情が見えた。
俺はその質問に対して……
「はい。5歳に御座います」
淀みなく答えた。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この作品を応援している!」
と思ったら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!
あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!
ブックマークもいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!