表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/149

第99話 再質問される年齢

 能力を使って木の板に書かれた数値(すうち)(きず))を消去(しょうきょ)してから新しい数値(傷)を書く、という改竄(かいざん)方法を俺は取った。




 ところで、この虚偽(きょぎ)報告の是正(ぜせい)やその具体的な方法として使っている改竄をするためには、大前提(だいぜんてい)としてあの情報が必要である。


 あの情報とは……どの世帯(せたい)が虚偽報告をしているのか?という情報である。


 これを知らなければ、虚偽報告をしている世帯を()けて、それ以外の世帯の収穫量(しゅうかくりょう)を改竄する、ということができない。


 もし俺が各世帯を回ってそれぞれの収穫量を調べることができたとしても、実は、聞き取りに行ったからといって、(かなら)ずしもその世帯が虚偽報告をしているのかどうか?ということを知れるわけでは無いのだ。


 なぜなら、各世帯が報告してくる収穫量が虚偽報告をしているのかどうか?をすぐに判別(はんべつ)するためには、実際(じっさい)にその世帯が収穫(しゅうかく)した農作物(のうさくもつ)の量を目で(かぞ)えて、その量と報告してきた収穫量を比較(ひかく)する必要があるのだが、全ての世帯で実際の収穫物を見ることができないから、直接収穫量を調べに行けたとしても全ての世帯の情報は分からないのだ。


 なので、直接聞き取りに行くだけでは、虚偽報告の是正自体(じたい)はできても、それを完璧(かんぺき)(こな)すことは無理になってしまうのだ。


 俺としては、なるべく虚偽報告は()れなく是正して、村全体の収穫量をできるだけ上げたい。


(はっきりとした量じゃないと、"気付いて"もらえないからな)




 なので、俺は虚偽報告をしている世帯を見逃(みのが)さないために、直接聞き取りに行くのとは別の方法でどの世帯が虚偽報告をしているのか調べた。


 その方法とは、世帯の予想収穫量よそうしゅうかくりょうと虚偽報告の常習性(じょうしゅうせい)を調べる、と言う方法である。


 予想収穫量とは……


 まず、各世帯が管理(かんり)している畑を観察(かんさつ)し、その畑の面積(めんせき)やそこで(そだ)てている農作物(のうさくもつ)の種類、その年の畑の状況などを調べる。


 次に、その情報を(もと)にその年の各世帯の予想収穫量を概算(がいさん)する。


 最後に、村長が残している前期(ぜんき)前々期(ぜんぜんき)、さらに以前の各世帯の収穫量が書かれた木の板を参考(さんこう)にして、先ほど概算(がいさん)した予想収穫量をより正確(せいかく)になるように修正(しゅうせい)する。


 ということである。


 予想収穫量よそうしゅうかくりょうが分かれば、わざわざ実際(じっさい)収穫物(しゅうかくぶつ)を数えに行くこと無く、報告してきた収穫量と比較(ひかく)するための正しい収穫量を知ることができる。


 予想収穫量だけでも分かれば、どの世帯が虚偽報告をしているのか?について、かなりの精度(せいど)で知ることができる。


 だが、それだけでは完全とは言えないので、各世帯の虚偽報告の常習性(じょうしゅうせい)も調べるのである。


 各世帯の虚偽報告の常習性を調べるための1つの方法として、その世帯の家族構成(かぞくこうせい)から困窮(こんきゅう)具合(ぐあい)予測(よそく)する、という方法がある。


 これは、その世帯が困窮(こんきゅう)を理由にして虚偽報告に走る可能性を知り、困窮に()てはまる世帯を虚偽報告の常習性があると判定(はんてい)する、という方法である。


 家族構成の情報は、村長や両親から聞いたり、村人同士(どうし)の会話に聞き耳を立てたり、遠目(とおめ)からその家を観察(かんさつ)するなどして、調べる。


 他には、2歳の時に村長に付いて行った各世帯への直接の聞き取りで、虚偽報告をしていることが分かった世帯も常習性があると判定する。




 そして、各世帯の予想収穫量と報告してきた収穫量を比較(ひかく)することで虚偽報告をしているのかどうかを数値上(すうちじょう)で確認し、虚偽報告の常習性から潜在的(せんざいてき)な可能性を予測(よそく)する……この2つを組み合わせれば、その年にどの世帯が虚偽報告をしているのか?ということをかなりの精度(せいど)で知ることができる。




 ここまで説明してきたことは俺がどのようにして虚偽報告を是正しているのか?についてのほぼ全容(ぜんよう)である。


 ここまでで、俺は様々(さまざま)(さく)(ろう)して虚偽報告を是正している。


 だが実は、これは村長がある程度(ていど)意識(いしき)すれば(ふせ)げるようなことなのだ。


 俺は徴税報告(ちょうぜいほうこく)までの仕事として、村長が調べてきた各世帯の収穫量から村全体の収穫量を計算する仕事とその計算した結果を徴税官(ちょうぜいかん)提出(ていしゅつ)する書類に書き込むという仕事をしており、村長は俺が書き込んだ書類を確認した後、そこに補足説明(ほそくせつめい)追加項目(ついかこうもく)などを書き込む。


 そうすることで、徴税官に提出する書類が出来上がる。


 その過程(かてい)で村長は俺が改竄(かいざん)した村全体の収穫量を見ているのだ。


 しかし、村長は俺の事を相当(そうとう)信頼(しんらい)しているようで、改竄がある、などとは思っていないようなのだ。


 村長がしている確認は改竄があるのかどうかを確かめる確認では無く、俺が計算間違いをしていないかどうかを確かめるための確認なのだ。


 この確認の段階(だんかい)で、村長が事前(じぜん)にバックアップを取っておけば、俺の改竄(かいざん)簡単(かんたん)見破(みやぶ)ることができるのだが、村長はバックアップを取っていないのでどうしようもない。


 だが、俺が改竄した後の書類から改竄に気付かなくても、そもそも俺が改竄しているところを見れば、是正に気付くことが出来る。


 つまり、俺が計算の仕事をしているところを見張(みは)るだけで、簡単に改竄に気付くことができるのだ。


 しかし、村長は俺が計算の仕事をしている時、俺のことを長時間1人にさせておき、見張ることなど無いのだ。


 ここまで俺に対する村長のセキュリティ意識(いしき)が低いのは、村長が俺を信頼している部分が大きいのだろう。


 以前に説明した契約(けいやく)の話に()てはめれば、村長と俺の間には、村長が自由、俺が信頼を保証(ほしょう)した無言(むごん)の契約が()()っているということだ。


(まあ、もし村長がセキュリティ意識を高めていたとしても、それを対策(たいさく)するような方法を取ればいいだけなんだけどな)






「……と、このようにして私はこの村に蔓延(はびこ)っていた虚偽報告を是正した次第(しだい)御座(ござ)います」


 俺は男にどのようにして虚偽報告の是正をしたのか?についての説明を終えた。


 もちろん、男に対しての説明はこれまでに説明した内容から、男には言えない能力みたいな部分を上手く隠しながらの説明であった。


 …………サッ


「……………………すぅぅ」


 俺の説明を聞き終えた男は、片手を使って両目を(おお)うと、首を曲げて天井(てんじょう)に顔を向けた。


「……………………」


 男は天井を向いた姿勢(しせい)のまま黙り込んだ。




「…………はぁ」


 ススッ


 男は10秒ほど天井を向いていたが、やがてその両目を(おお)っていた片手を()ろし、顔と目線を俺に戻してきた。


「…………お前」


 男は10秒以上黙り込んでいた口から言葉を(つむ)ぎ始める。


「お前……本当に5歳か?」


 男の言葉には最大級の疑問(ぎもん)の感情が見えた。


 俺はその質問に対して……




「はい。5歳に御座(ござ)います」




 (よど)みなく答えた。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ