第98話 バックアップは大事
俺は虚偽報告によって発生した本当の収穫量との不足分を、虚偽報告をしていない世帯の収穫量を改竄することで補い、虚偽報告を是正する方法をすることにした。
では、その方法をするために、具体的にはどのように改竄したのか?
それは、能力を活用するのである。
村長は各世帯の収穫量を聞き取りに行く時に木の板を持っていき、そこに収穫量を記録していく。
俺は各世帯の収穫量が書かれたその木の板を村長から受け取り、そこに書かれている収穫量の数値を基に計算をすることになっている。
そして、俺は村長から受け取ったその木の板に能力を使うことで、改竄を施すことにした。
具体的には、まず村長が木の板に元々書いていた数値(傷)を能力で綺麗に消去する。
次に、村長の筆跡を真似るようにして、能力で新しい数値(傷)を書く。
最後に、その新しい数値を基に村全体の収穫量の計算をする。
このような方法で俺は改竄をしている。
この方法によってできた改竄後の木の板は一目どころか、どれだけ見たとしても、改竄前の数値(傷)の痕跡を見つけることは100%不可能、と断言できるほど、改竄前の数値(傷)は跡形も無く消え去っている。
なので、この方法であれば、改竄前の痕跡が残っていたことで気づかれる、というバレ方は防げる。
しかし、改竄前に書かれていた数値のバックアップを村長が別の木の板などに取っていればバレる可能性がある。
だが、村長はそういったバックアップを一切取っていないので、そのバレ方に関しては問題無い。
ただし、村長が全てのバックアップを持っていない訳では無い。
村長には記憶というバックアップがある。
村長が改竄前の数値を記憶していれば、村長は改竄後の数値と改竄前の数値を比較することができるようになる。
そうなると、村長が改竄に気付いてしまう可能性がある。
なので、俺は村長が記憶する可能性の高い世帯の特徴を知ることにした。
俺は村長の記憶に残る世帯の特徴を知るために、村長にそれとなく聞くことにした。
そのために、俺は仕事の手伝いを始めた最初の収穫期に改竄はせず、村長の記憶に残る世帯の特徴を村長から聞くことに従事した。
そして、俺は村長が収穫量を記憶している傾向の強い世帯の特徴を知った。
まず、虚偽報告をしている世帯は3割くらいの確率で覚えている。
次に、直近で収穫量が極端に上下してしまった世帯は7割くらいの確率で覚えている。
最後に、何かしらの特別な理由がある世帯は8割くらいの確率で覚えている。
最後の「何かしらの特別な理由がある世帯」の理由は何でも良くて、その家にハプニングがあったとか、村長が懇意にしている世帯だとか、色んな理由がある。
要するに、「何かしらの特別な理由がある世帯」とは、その世帯の収穫量の数値が村長の記憶に残るような理由を持つ世帯のことである。
俺はこれらの世帯は除外して、それ以外の世帯の収穫量を改竄することで、村長からバレる可能性を排除した。
ところで、そういった特徴を持つ世帯を除外するためには、その世帯がそういった特徴を持つことをそもそも知らなければ、その世帯を除外することができない。
だが、そういった世帯は結構簡単に知ることができる。
「直近で収穫量が極端に上下してしまった世帯」に関しては、俺は村長が調べてきた各世帯の収穫量を全て見ることができるので、前期や前々期の収穫量と比較すれば、すぐに分かる。
「何かしらの特別な理由がある世帯」に関しては、こんな田舎の村に住んでいればハプニングとなれば自然と俺の耳に入ってくるし、もし入ってこなくても村長から話を聞けば良い、そのくらいのことであればただの世間話にしかならないから何ら不自然には思われることも無いし、ましてやそこから俺の改竄に気付くはずも無い。
さらに、村長が懇意にしている世帯も村長に直接聞けばいいし、そうでなくても俺は数年も村長と交流しているのだから分かることである。
もし、他の特別な理由があったとしても、俺も徴税報告の当事者であることから、大抵の事は村長と情報が共有されている。
なので、村長だけが知っていて俺が知らないことはあまり無い。
故に、「何かしらの特別な理由がある世帯」を知ることに関する問題はほとんど無い。
ただし、それでも見逃してしまう世帯があった時のために、保険をかけている。
それは、能力を使って改竄する時に、全ての数値(傷)は消さないで、利用できる数値(傷)は残すという方法を取ることである。
例えば、1580(ここでは表記上アラビア数字を使っているが、実際は村長や両親が使っている言語の数字を使っている)という数字を改竄する時に、「1」「5」「8」「0」の4つ全ての数字を改竄するのではなく、15"6"0のように、1つの数字だけ改竄するという方法である。
こうすることで、改竄後の数値(傷)を見た村長が自分の記憶の数値と比較しても、なるべく違和感が起きないようにしている。
これは、改竄されていない数字に関しては正真正銘村長の字であり、村長からすれば最初から改竄があることを知らなければ、改竄を見抜くことなど不可能に近い。
例えば、自分がノートに書いた数字を1週間後に見せられた時、その数字の中の1文字が消し跡も無く消えていて、その上改竄後の数字は自分の筆跡とほとんど同じであった場合、自分は改竄の事実を事前に知らない、さらに改竄前の数値を正確には覚えていない、そんな条件下で改竄に気付くことができるか?
ほぼ不可能だろう。
つまり、村長からすれば、この改竄方法に気付くことは、無理であると言える。
だから、俺は能力を使ったこの改竄方法を取っているのだ。
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