第97話 相互扶助
俺はアーテス側からの罰を避けるため、この村に存在している徴税の虚偽報告を是正することを決意した。
では、どのようにして是正をするのか?
まず、俺は直接虚偽報告を是正することはできない。
なぜなら、俺は直接是正することのできる場面に関わることができないからだ。
徴税報告までの村長や俺の仕事を大まかに分けると……
1.各世帯から収穫量を聞く
2.各世帯の収穫量の情報を基に村全体の収穫量を計算する
3.徴税報告の時に提出する書類を作成する。
このようになる。
そして、先ほど言った直接是正することのできる場面というのは「1.各世帯から収穫量を聞く」場面である。
つまり、ここで実際の収穫量と虚偽の収穫量の違いを指摘し、その場で直してしまえばそもそも虚偽報告が生まれない……これが直接是正する方法である。
だが、俺はこの方法を取ることができない。
なぜなら、俺が徴税報告までの仕事の中で、村長から任せられている仕事は「2.各世帯の収穫量の情報を基に村全体の収穫量を計算する」の大部分と「3.徴税報告の時に提出する書類を作成する。」の一部の作業であり、「1.各世帯から収穫量を聞く」という仕事には全然関われないので、直接虚偽報告を是正することができないからなのだ。
なので、俺は直接是正をするのではなく、別の方法を取ることにした。
それは、「1.各世帯から収穫量を聞く」で村長が調べてきた収穫量の数値を改竄する方法を取ることにした。
これは、村長が調べてきた収穫量の数値を別の数値に書き換えることで、是正を図る、ということである。
では、具体的にどのようにして改竄をするのか?
虚偽報告をしている世帯の収穫量を本当の収穫量に直すように改竄するのか?
否、そんな単純な方法ではすぐにバレてしまうので、そんな方法は使えない。
俺は村八分にあった方がマシだと言ったが、村八分にあいたいとは言っていない。
なので、避けられるのであれば全力をもって避ける。
では、一体どんな方法で改竄をするのか?
それは、虚偽報告によって発生している本当の収穫量との不足分を、虚偽報告していない世帯の収穫量を増やすように改竄することで、その不足分を補う、という方法である。
例えば、とある村にA世帯、B世帯、C世帯の3世帯がいたとする。
その3世帯の本当の収穫量は3世帯とも5だとする。
そうなると村全体の収穫量は15となる。
式に表すと
5(A世帯)+5(B世帯)+5(C世帯)=15(村全体)
となる。
しかし、その村の中でC世帯が本当の収穫量から2減らした収穫量を村長に報告する……つまり、C世帯は書類上は3で報告されることになったとする。
そうなると、書類上の村全体の収穫量が本当の収穫量である15から、13に減ってしまう。
ここからが、俺のする改竄の方法である。
俺は、虚偽報告をしているC世帯の3という数値は改竄せず、代わりにA世帯とB世帯の5という収穫量をそれぞれ6に改竄することで、村全体の収穫量は本当の収穫量である15に戻す。
本当の収穫量:A世帯5 B世帯5 C世帯5 村全体15
報告時収穫量:A世帯5 B世帯5 C世帯3 村全体13
改竄後収穫量:A世帯6 B世帯6 C世帯3 村全体15
これが俺のした虚偽報告の是正の方法である。
言い換えるなら、この方法はた虚偽報告をした世帯によって減った分を、俺が新たな虚偽報告をすることで村全体の収穫量を本当の数値に戻す、という方法である。
では、俺はなぜこのような方法を取ったのか?
それは、バレにくいからである。
先ほど説明した徴税報告までの1~3の仕事、の後の流れも説明すると……
4.徴税官が報告された収穫量を基に納税量を決定
5.決定した納税量を村長に伝える
6.村長はその納税量を集めるために各世帯の収穫量に応じた各世帯の負担量を決定
7.村長は決定した負担量を基に各世帯から納税対象の農作物を回収
8.後日改めて来た徴税官に村長が各世帯から回収した農作物を納める
という流れになっている。
俺が収穫量の改竄をしていることが村長や各世帯からバレないためには「6.村長はその納税量を集めるために各世帯の収穫量に応じた各世帯の負担量を決定」と「7.村長は決定した負担量を基に各世帯から納税対象の農作物を回収」の段階で、村長や各世帯から改竄によって変化する負担量に対して違和感を持たれないようにする必要がある。
この村で虚偽報告をしている世帯というのは全体で見れば、少数派であり、虚偽報告をしていない世帯の方が多数派である。
俺は、少数派の虚偽報告をしている世帯によって発生している不足分を、多数派の虚偽報告をしていない世帯に分散して負担させることで、個々の世帯からすれば、自分たちが負担する納税量が変わっていることに気付けないような誤差に、改竄後の納税量を収めることができると考えた。
さらに、この村の人間で四則演算が完璧にできるのは俺と村長だけであり、他の村人は自分の収穫した農作物の量を数えるという足し算はできても、そこから税率を掛けたら納税量がどのくらいになるのか?という掛け算はできない。
なので、村長以外の村人が自分の世帯の納税量を見ても、自分の世帯の収穫量が改竄されていることに気付くのは難しい。
というより、税率に関しては俺や村長すらアーテス側から知らされておらず、そもそもこの村に本当の収穫量から導き出される、本当に納めるべき納税量を知っている人間はいないのだ。
ただし、税率を知らなくても、俺や村長みたいに納税量を収穫量で割るという計算ができれば、どのくらいの税率が課されているのか?ということは予測できる。
そして、それは計算ができない村人であっても、予測できる場合がある。
何割かの村人は長年の納税の経験から、大体どのくらいの課税を受けるのか?ということを感覚的に理解している場合がある。
もしそういった村人が虚偽報告をしている世帯にいた場合、俺がその世帯の収穫量を本当の収穫量へと改竄すると、もしかしたら報告した虚偽の収穫量に対して納税量が多いことをその世帯に気付かれる可能性がある。
そしてそこから、俺が改竄していることがバレる可能性もある。
なので、多数派の世帯に広く少なく分散させることで、違和感に気付くことすらできないような誤差にして、村全体の収穫量を本当の収穫量へと是正したのである。
(実は、村長だけでなく村全体が虚偽報告の事実をどうやら知っているようなのだ)
(だが、全員が見ないふりをしていた)
(それはつまり、村人全員が虚偽報告の世帯を庇っていることと同義だ)
(なので、俺は村人みんなが虚偽報告をしている世帯を見逃すだけでなく、みんなの力を合わせて虚偽報告の世帯を守れるようにした……ただそれだけのことだ)
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