第96話 罰よりも村八分を受け入れる
「その原因がお前にあるのではないのか?」
男は、ここ2年で起きたこの村の収穫量10%上昇の原因が、虚偽報告を是正したことにあると言う。
そして、その是正に俺が関わっているのではないか?と質問してきた。
俺はその質問に……
「はい。間違い御座いません。私が虚偽報告の是正に関与しております」
はい、と答えた。
「ほう……村長は全く知らないのに、お前のような子供が是正に関わっているとは……なんとも不可思議だな」
男は俺の答えを不思議だと言ってはいるが、その表情から疑問の様子はあまり感じられなかった。
「まあ良い。とりあえずお前がどのようにして虚偽報告の是正に関わっているのかについて話せ。そして、お前に指示を出した者についても話せ」
男は虚偽報告の是正に俺がどのように関わっていて、俺に是正の指示を出した者についても教えろ、と言ってきた。
どうやら男は、俺単独で虚偽報告の是正をしたわけでは無く、誰かに指示を受けたから、俺が是正をしたと思っているらしい。
俺は男の命令に対して……
「畏まりました。私が如何にして、今回の是正に関わっているのかについて説明させて頂きます。ただし、後者の御下命に関しては御答え出来ません」
俺は、どのように是正をしたのかについては話せるが、誰に指示を出されたのかについては話すことができないと男に告げた。
「ん?どういうことだ。説明せよ」
後者の質問に答えられない、という俺の言葉を受けて、男は俺に向ける視線をさらに強めた。
「はい。私に是正の指示を出している者については意図的に御答えしない……という訳ではなく、その答えに該当する者が存在しないので御答えすることが出来ない、という事で御座います。御下命に従うことが出来ない私をどうかご容赦ください」
俺は、そもそも俺に指示を出している者がいないから答えられない、と男に説明した。
「それは真か?」
男が確認してくる。
「はい。真実に御座います」
俺は答える。
「…………」
男は俺の答えに対して、考え込むような様子になる。
そして……
「とりあえず……お前がどのようにして虚偽報告の是正に関わっているのかについて説明せよ」
男は、1つ目の命令にとりあえず答えろ、と言ってきた。
「承知致しました」
俺はその命令に応える。
俺は今回の収穫量の異常な上昇と虚偽報告の是正について話し始めた……
俺が村長の手伝いを始めた最初の収穫期……俺が2歳の時の秋、俺は村長と一緒にこの村にある各世帯に行った。
何をしに行ったのか?
それは、村全体の収穫量を計算するための最初のステップとして、各世帯の収穫量を調べるため、各世帯へ収穫量の聞き取りに行ったのである。
俺は、その聞き取りに行く村長に付いて行く形で同行した。
そして、俺はその聞き取りの時にあることに気付いた。
それは、実際の収穫量よりも少ない収穫量で報告してくる世帯がいくつかあったことである
つまり、虚偽の収穫量で村長に報告していた世帯がいたことである。
俺はこの事実にすぐに気付いた。
たった数世帯しか聞き取りに行ったことの無い俺でもすぐに虚偽報告に気付いたのだ。
何回も何十回も、回数にすれば何百世帯も聞き取りに行ったことのある村長がこのことに気付いていないはずがない。
ちなみに、俺がこれに気付いたのは、能力を使ってうまいこと知ったから……とかでは無い。
単純に、目で見て数えた実際の収穫量と村長に報告された収穫量が違うから気付いただけである。
であれば、尚の事村長がこの虚偽報告に気付いていないはずが無い。
しかし、村長はこの虚偽報告に対して見て見ぬふりを決め込んでいた。
虚偽報告をしてくる世帯がなぜ虚偽報告をするのか?については、様々な理由がある。
困窮が原因だったり、猫糞をするためであったり、と様々だ。
その理由から考えれば、村長が虚偽報告について見て見ぬふりをするのは優しさかもしれないし、村八分になりたくないからかもしれない。
ただ、村長の真意について俺は今でも知らない。
だが、村長の真意についてはどうでも良い。
俺はこの虚偽報告が起きている事実を知った時、これを是正しなければならないと考えた。
そう考えたのは、俺が虚偽報告、言わば脱税を許せないから……なんて理由ではない。
俺がそう考えたのは、俺の身を心配したからである。
俺が虚偽報告の事実を知ったのは2歳の時だったので、まだ村長から徴税報告に関する仕事にあまり関わらせてもらっていなかった。
だが、3歳以降はガッツリ関わる予定があった。
そうなると、いずれは俺も虚偽報告に加担した当事者になってしまう。
俺がこの村の収穫量の計算や報告に関わっている。
この事実を第三者から見た場合……今回で言えば納税先であるアーテス側から見た場合、俺も脱税の片棒を担いでいると思われる可能性がある。
もしそう思われなかったとしても、徴税報告の当事者として責任があるとかなんとか言われて、いざ虚偽報告がバレた時に俺も裁かれる対象になるかもしれない。
ただ、俺には子供であるという免罪符があるように思うかもしれない。
しかし「子供だから罪に問われない」なんていうのはこの村がどこにあるのか分かっていない……つまりどんな法律が適用されるのか分かっていない俺からすれば、根拠の無い自信でしかない。
なので、俺は自分も成人と同じ罰則が適用されることを前提にして考えた。
そして、そう考えるのであれば……
もし俺が虚偽報告を是正して、そのことが村の人間にバレて村八分にあうよりも、虚偽報告を是正せずに当事者として関わり続けて、いざアーテス側に虚偽報告がバレた時に、アーテスから罰を受けることになった方が深刻であると考えた。
なので、俺は虚偽報告を是正することを決意した。
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