第95話 見せる心当たり
「徴税報告を始めろ」
男は村長へとそう告げた。
「はい。畏まりました。」
村長はそれに了承で答える。
「では早速ですが、そちらに置かれた資料を御覧ください。そちらの資料に今回の徴税報告における必要事項は全て書かれております」
村長は、男たちが来るよりも前にこの応接室の長机の上に置いておいた木の板を丁寧に指し示した。
しかし……
「…………」
村長の言葉に対して、男は返事も動くことも無かった。
タッ……スッ
だが、男の後ろに控えていた2人の内の1人が長机の前まで来て、そこに置かれている木の板を手に取った。
スッ……スッ……
木の板を手に取った1人はその木の板の裏表を確認するように見始めた。
「問題ありません。どうぞ、ご確認ください。」
そして、確認が終わったのか、木の板を男へと手渡した。
スッ
男は1人から渡された木の板を手に取る。
「…………」
そして、男は先ほどの1人とは違い、木の板……もとい資料に書かれた内容をじっくりと観察するように読み始めた。
…………
無言の時間が流れる。
「…………ふむ」
1分が経った頃、男が資料から顔を上げた。
どうやら読み終わったらしい。
すると……
スッ
男は胸元から針のような道具を取り出した。
そして……
カカッ、ガカカキッ……キキキッ
木の板に針のような道具を使って傷を付け始めた。
……カキッ……スッ
男は資料へ傷を付ける……もとい、資料への書き込みを終えると、木の板に書き込むための針のような道具を胸元にしまった。
そして……
タッ……カトッ
男は資料を机の上に置いた。
「確認しろ」
続けて、男は村長に資料を確認するように言った。
「頂戴致します」
スッ
村長は机の上から資料を取った。
「…………」
村長は男が先ほど書き込みをした部分を見る。
「確認したな?今回の納税量はそのようになっているので、不足無く納めるように」
村長に対して、男はそう言った。
「はい。今回も御奉仕させて頂けること、深謝の念に堪えません」
村長は、男から課せられた納税について一切是非を言うことなく、それどころか感謝を伝えていた。
「それと……今回の納税について、特に言うことは無い」
男がそう言うと……
「畏まりました」
村長はそう答えた。
「だが……"あの件"について話そうと思う」
男は唐突に"あの件"とやらについて話すと言い始めた。
「?」
それを聞いた村長は疑問顔になっていた。
「"是正"をしたのは感心だが、それ以前を不問にするわけでは無い」
「???」
さらなる男の言葉を受けて、村長は全くもって男が何を言っているのか分からない、そんな顔になっていた。
ただし……
「っ…………」
俺は自分の頬を歪ませながら、目を少し見開く。
そして、その目を男の目へと向けた。
「?」
しかし、男が俺の視線に気づいた瞬間……
スッ!
俺はその目を逸らした。
「……なるほど」
男がそう呟くと……
「村長よ、部屋を出ろ」
村長にこの部屋からの退出を命令した。
「?……か、畏まりました……」
それを聞いた村長は、さらに疑問顔を強くしているが、命令については了承で返した。
スッ
そして、椅子から立ち上がると……
「スイ。出るよ」
村長は俺に部屋から退出することを促す。
だが……
「待て。退出するのは村長……お前だけだ。それはこの部屋に残していけ」
「えっ」
村長は男の言葉に一瞬体の動きを止めてしまう。
「…………畏まりました」
しかし、直ぐに立ち直ると……
タッ……タッ……
了承を返して部屋の扉へと歩いて行った。
ガチャ
「失礼致します」
タッ……タッ……
村長はそう言いながら、退室した。
「さて……まずは座れ」
男は村長の退出を確認すると、俺に先ほどまで村長が座っていた椅子に座るよう命令してきた。
スススッ
「御心遣い感謝致します」
俺は男に向かって最敬礼をしつつ、感謝を述べた。
タッ……タッ……
「失礼致します」
スッ
そして、椅子の前まで行くと、俺は一言断りを入れてから座った。
「…………」
男は俺が座ったことを確認する。
「…………」
俺は目の前に座っている男に視線を向ける。
そして……
「10%……これが何の数値か分かるか?」
唐突に男が質問をしてきた。
「申し訳御座いません。分かり兼ねます」
俺は分からないと答えた。
「これは、この村の税収がここ2年で"10%"以上も上がっている、という意味の10%だ」
男が答えを言う。
「税収というものは、この村で言えば収穫量に直接比例するものである。つまり、この村の収穫量がたった2年で10%以上も上昇している、ということでもある」
男は話を続ける。
「さらに、この村の収穫量がここ2年で10%以上も上昇しているのにも関わらず、この村の近傍の村では、収穫量がほとんど変わっていないという事実もある」
男は話を続ける。
「つまり、ここ2年のこの村で起きた収穫量10%上昇という現象は異常なのだ」
男はこの村の収穫量が異常な上昇を見せていることについて語った。
さらに……
「収穫量がこのような異常な上昇を見せたとすれば、その原因は主に2つが考えられる……1つはこの村の収穫量が本当に10%以上上昇させた要因があったという可能性だ。畑の増設や環境の変化、農業に関する発明、などだな。そして……」
男は続ける。
「もう1つの可能性は本当に収穫量が上昇したのではなく、3年前までこちら側に報告されていたこの村の収穫量が実際の収穫量よりも少なく報告されていた、という可能性だ。そして、それが2年前から正しく報告されるようになったため、資料の中ではこの村の収穫量が増えているように見えた……つまり、2年前までは虚偽報告があったが、ここ2年間でそれが是正されたから収穫量が上昇しているように見えた、という可能性だな」
男は、ここ2年で起きたこの村の異常な収穫量上昇を、2つの原因から推測したらしい。
そして……
「俺は先ほど、2つ目の原因である虚偽報告の是正に心当たりがある者にしか伝わらないような事を言ってみた。そしたら、あの村長はなんにも心当たりが無いことが態度に溢れていた……だが、お前は俺の発言に対して、心当たりがある、という顔をしていたな。」
男は俺へと向けていた視線を強くする。
「つまり、この村の収穫量は本当に増えたのではなく、虚偽報告を是正したことで収穫量が増えたように見えたからであり……そして、」
「その原因がお前にあるのではないのか?」
男は俺にそう質問してきた。
俺はそれに対して……
(遂にきた)
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