第92話 徴税官
「スイ。徴税官様が来られたよ」
仕事部屋へと入って来た村長は、徴税官とやらが来たことを俺に伝える。
パタンッ
俺は目の前に開いていた本を閉じる。
「分かった」
タッ
俺は村長に了承の返事をすると、座っていた椅子から立ち上がった。
タッ……タッ……
俺が立ち上がるところを見た村長は、俺にそれ以上何かを言う事は無く、廊下へと出て行った。
タッ……タッ……
そして、その村長に付いて行くように、俺も廊下へと出た。
村長は計算したこの村の収穫量をどうやってアーテスへと教えるのか?
それは、この村にやってくる徴税官に村の収穫量を教える、という方法である。
もっと具体的に言うと、村長が徴税官に収穫量を伝えて、徴税官がその収穫量に応じた納税量をその場で課す。
そして、その間、両者は収穫量や納税について互いに説明し合う、といった感じである。
つまり、村長がこの村の収穫量を計算しているのは、徴税官に収穫量を教えて、それに応じた納税量を知るため、ということである。
村長や徴税官曰く、収穫量を教えてそれに応じた納税量を課す、これをここでは「徴税報告」と呼ぶらしい。
この徴税報告は毎年行われている。
そして、俺もその徴税報告に参加する。
徴税官は、村長や俺のような村人よりも立場が上の人間であるらしく、徴税報告に来た徴税官を待たせるというのは御法度な行為であるらしい。
つまり、俺と村長は徴税官が来るまでの時間、徴税報告が行われる村長宅で待機する必要がある。
だから、俺はその暇な待機時間をウィニーという意味不明な本を読んで潰していたのである。
タッ……タッ……タタッ
そして、俺と村長は村長宅の玄関に到着する。
どうやら、徴税官はまだこの家には到着していないらしい。
村長も俺と同じように村長宅で待機していたのにも関わらず、徴税官が今から来ることを知っているのは、おそらく村に入って来た徴税官を見た村人が村長にこの家まで来て教えたからだろう。
この時期に徴税報告があることは大体の村人が知っていることだからな。
そして、玄関で待つこと数十秒……
ジャッジャジャ……ジャジャジャ……
玄関扉の向こうから、複数の足音が聞こえてきた。
俺はそれを聞くと……
(ん?多い?)
外から聞こえる足音が大人数であることを理解したが、"大人数"であることに不思議さを感じていた。
ジャジャジャッ…………
俺がそう考えるのも束の間、外から聞こえていた足音が止んだ。
その代わりに……
「今期の徴税報告に来た!入るぞ!」
玄関扉の向こうからこの家の中に向かって、男の声が投げられた。
その声はこの家に入ることを宣言しているようだったが、それは入る許可を取るものでは無かった。
ギ…………
そして、玄関扉が開いた。
ダッ…………ダッ……ダッ……
開かれた玄関扉から玄関に、一人の男が入ってくる。
ダッ…………ダッ……ダッ……
さらに、もう一人別の男が入ってくる。
ダッ…………ダッ……ダッ……
またさらに、別の男がもう一人入ってくる。
ダッ…………ダッ……ダッ……
またまた、別の男がもう一人入ってくる。
家の中へと入って来た4人の男たちは俺と村長に話しかけることも無く、無言で玄関の四隅へとそれぞれ向かった。
ダッ……ダダッ
ダッ……ダダッ
ダッ……ダダッ
ダッ……ダダッ
4人はそれぞれ四隅に到着すると、玄関の中心に体を向けるようにして立った。
「…………」
俺は4人の男たちを観察する。
この村で普段見かける男性の平均身長は160センチメートル(cm)ほどなのだが、この4人の身長はそれよりも20センチメートル(cm)ほど高い180センチメートル(cm)ほどであり、背丈がかなり高いことが分かる。
4人の体格も、この村の村人のような農作業に従事している人間とは違った鍛え方をしないとなれない体格であった。
言うなれば、がっしりとした良い体格、であった。
さらに、4人の服装は簡素な長袖とパンツなのだが、彼らの服は俺や両親、村長のような村人が着ている服よりも上質なものに感じられた。
ただし、4人の服と、俺や村長のような村人が着ている服、両者に使われている生地はどうやら同じものであるらしい。
おそらく、4人の服に使われている生地の加工が、俺や村長のような村人が着ている服の生地の加工よりも良いためだろう。
4人はその長袖とパンツの上から、膝や肘、脛、胸といった人間の急所部分に動物性の革で出来た防具のようなものを身に着けていた。
その防具には、ヘルメットのような形のものもあり、それは彼らの頭に装着されていた。
「…………」
次に、俺は4人の腰の部分に注目した。
彼らは革で作られた棒のようなものを腰に差すように装備していた。
その棒は、腰から斜め上に食み出している部分があり、その部分にはU字の形をしたハンドガードのようなものが付いていた。
("抜いている"ところはまだ見たことは無いけど……これはおそらく……)
俺が4人の腰に差さっている棒について、何かを考えようとすると……
ダッ……ダッ……
先ほどから開け放たれている玄関扉から、もう一人、別の男が玄関に入って来た。
「…………」
俺はその男に視線と思考を向けた。
その男は、先に入って来た4人よりも低身長で、村の平均と同じ160センチメートル(cm)ほどであった。
その体格は、良いとも悪いとも言えない感じで、言うなれば普通の体格であった。
その顔は、両親や村長、他の村人と同じような東アジア系の顔立ちで、顔も言うなれば普通の顔であったが、その目だけはかなり細いの印象的だった。
その年齢は、40前後に見えた。
しかし、今説明した容姿よりも目立っている特徴が、その男にはあった。
それは、服装である。
先ほどの4人が着ていた服は確かに上質な物に感じたが、おそらく俺や両親、村長が着ている服と同じ生地を使っていた。
しかし、この男が着ている服は明らかに、俺たちが着ている服とは違う生地を使っていることが一目見て理解できた。
しかも、その服に使われている生地がかなり上質なものであることも分かる。
そして、男の服装の特徴はそれだけではなく、その服の形にもあった。
男が着ている服は一見すると、長袖とパンツ、という先ほどの4人と同じ服装に見えるが、男の上下の服は別々の物ではなく、上下が繋がっていた。
言わば、1枚の布を裁断することなく長袖とパンツという上下の服装を1枚の布で作っている、という服装であった。
そして、その服からは決して貧相とは言えないような、豪奢さが感じられた。
俺が最後に玄関へと入って来た男を観察していると……
「遠路はるばる御足労頂き、誠に恐縮でございます。お待ちしておりました。」
俺の横に立っていた村長が、最後に玄関に入って来た男に向かって歓迎の挨拶を告げた。
スススッ
そして、その男に向かって最敬礼をした。
俺は村長の挨拶と最敬礼を横目で見ながら……
スススッ
村長の最敬礼に遅れることなく、俺も村長と一緒に男へ向かって最敬礼をした。
(…………なんか見られてるな?)
4人の男と最後に玄関に入って来た男、俺はその内の誰かが俺に対して視線を向けているように感じた。
俺が誰かの視線を感じていると……
「ああ。ではすぐに部屋へと案内せよ」
男は村長の挨拶に頷きを返し、部屋まで案内するように言ってきた。
「畏まりました。こちらでございます」
男の言葉を聞いた村長は最敬礼の姿勢から敬礼の姿勢に変えると、男の言葉に了承の返事をしながら、手を廊下の奥へと向けた。
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