第91話 人はアレを避けられない
「外なる運命は在る。だが、内なる運命は在らず」
村長宅の仕事部屋に俺の声が消える。
ベラッ
本を捲る音が響く。
「故に、人は運命であり、運命に非ず」
俺の声が、また部屋の中に放たれ、消えていく。
「…………んっ」
俺は村長宅にある例の本「ウィニー」を読んでいた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
そして、俺は特大の欠伸をした。
「はぁ…………」
欠伸を終えた俺は……
「"待つ"だけというのは、退屈だな」
と呟いた。
ウィピとの戦闘とそれによる能力向上が起きた冬が明けた。
さらに、春が訪れ、暑い夏も過ぎた。
そして、今は徐々に寒さを増してきた秋になっていた。
突然だが、この村の村長はその役職に見合った特別な仕事を毎日やっている……という訳ではなく、1年を通して見れば他の村人と同じように農作業に従事していることがほとんどなのである。
しかし、とある時期になると他の村人とは違う仕事をする。
それは、この村に住んでいる各世帯の収穫量を毎年調べて、それを基に村全体の収穫量を毎年計算する仕事である。
その仕事をする時期、というのが今の秋の時期なのである。
そして、俺がしている村長の仕事の手伝いとは、この収穫量を計算する仕事なのである。
しかし、今の俺は村長宅の仕事部屋にいるのにも関わらず、本を読んでいて、仕事はしていなかった。
休憩時間だろうか?
いや違う。
いつも通りであれば、この時間は仕事の手伝いをしている時間であり、本を読む時間では無い。
ではなぜ、本など読んでいるのか?
それは……
確かにこの時期は収穫量の計算をする仕事の時期なのだが、今はその時期の終盤になっていて、既に収穫量の計算が終わっているからである。
だから、その手伝いをしている俺も手伝うことが無くなっていたので、本を読んでいたのだ。
では、仕事の手伝いが終わったことでできた時間を使って、俺が本を読んでいるのは何故か?この本の中に読みたい部分でもあるのだろうか?
否……そんなところは無い。
このウィニーという本の意味不明さは最初に読んだ時から今に至るまで変わっておらず、俺はこの本を読むことに大した意味を見出すことができていなかった。
ではなぜ、俺はこの本を読んでいるのか?
それは……
「……暇だ」
暇つぶしのためである。
先ほど、この時期になると村長がこの村の収穫量を計算している、と説明したが、そもそもなぜ村長はこの村の収穫量を計算しているのだろうか?
統計データを取って今後の収穫量の調整や安定、豊作に利用するためか?
確かにそういった目的に結果的に繋がることはあるかもしれない。
だが、別に村長はそういった目的のためにこの村の収穫量を計算しているわけでは無い。
村長がこの村の収穫量を計算しているのは、その収穫量のデータを"とある人物"に教えるためである。
この村は「メイシュウ」という名前の村である。
このメイシュウ村は単独の自治体として存在している……という訳ではない。
このメイシュウ村は「アーテス」という県若しくは州のような自治体に属している。
言わば、アーテスという大きな自治体に属する小さな自治体がこのメイシュウ村なのである。
このような大きな自治体に属する自治体や組織、個人には、大抵大きな自治体に対する代表的な義務を課せられている。
そう……納税である。
そして、このメイシュウ村にもアーテスという大きな自治体に対する納税義務が存在している。
会社員や自営業者は自身に課せられる所得税を払うために自身の所得額を税務署に教えている。
そして、メイシュウ村も納税義務を果たすためにアーテスに対して自身の所得、もとい収入である農作物の収穫量を申告している。
では、その申告者である村長はこの村の収穫量を計算したものをアーテスに教えるために、具体的にはどのようにしているのか?
それは……
ガチャッ
仕事部屋の扉が開いた。
扉を開け、そこに立っていたのは村長であった。
村長は部屋へと一歩だけ足を踏み入れると……
「スイ。徴税官様が来られたよ」
俺に何者かの来訪を伝えた。
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