第89話 片付けは綺麗に大胆に
チラッ
俺はウィピの灰色の体毛から目を逸らすと、今度は脚と足を見つめた。
(ああ、あとこれも特徴だな)
ウィピには全身の体毛が灰色一色に統一されているという容姿の特徴以外にも、その行動に特徴があった。
それは……
3匹目の個体が地上5メートルにいる俺の元まで辿り着くために行った、木を伝う移動方法、それを可能にする身体能力であろう。
このような、曲芸とも軽業とも言えるような技術を扱う狼、というのは聞いたことが無い。
正直、この特徴から狼の種類を割り出して、その生息域を特定……とやりたいのだが、生憎何度も言っているように俺は生物博士では無いので、それは難しい。
ちなみに、3匹目が木を伝う姿を俺は見ていないのに、木を伝って俺の元に来た、と俺が考えているのは、それ以外考えられないからである。
3匹目が俺に飛び掛かる姿は、その体を地面と平行にしたものであった。
それをするには、地上5メートル(m)にいる俺と同じ高さにある足場から俺へと飛び掛かるしか無い。
そして、その足場はこの森に無数に存在する高木しか無い。
であれば、3匹目のウィピが木を伝って俺へと襲い掛かったと考えるのは当然であろう。
「………よっ」
ドサッ……
ドサッ……
トサッ……
俺は、能力で3匹のウィピの体を半回転させ、それまで俺の方を向いていた背中側ではなく、腹の方が見えるようにした。
俺は3匹の腹の方を観察すると……
(有り、無し、有り)
俺は一つの場所に目を向けていた。
それは、性器である。
最初に襲い掛かって来た1匹目には男性器が付いていた。
次に襲い掛かって来た2匹目には男性器が見当たらなかった。
最後に襲い掛かって来た3匹目には男性器が付いていた。
3匹の男性器の有無は、そのような内訳になっていた。
そして、この3匹の男性器の有無と、3匹目のウィピの体長が他の2匹よりも小さい、100センチメートル(cm)未満であること、この二つから考えると……
1匹目のウィピは父親、2匹目のウィピは母親、3匹目のウィピは子供(オス)……つまり、俺に襲い掛かって来た3匹は家族単位の群れであったと予想できる。
「そういや……」
フッ
俺は何かを思い出したかのように、首を横に向ける。
俺の視線の先には、木々の合間を通り抜けるように、太陽が俺に光を届けていた。
「うーん……もう少し観察したいんだけど、時間がなぁ……」
そして、その太陽はすぐに地平線の向こうに沈んでしまう……という訳では無かったが、沈むまでの時間が1時間ほどしかないということを俺に伝えていた。
俺は日没までの時間を確認すると……
「しょうがない、諦めるとしよう……それっ」
ギュゥィッ…………
俺は、3匹のウィピの死体に能力を使った。
キュゥゥゥ……ゥゥ……ゥ…………
能力を掛けられた3匹の死体はその体を膨張させていた。
……………………ギュッ
そして……
ギュグジィヤァァァッッッ!!!!!
盛大で不快な音が鳴り響き、3匹の死体はそれぞれが四分五裂してしまった。
ビジヂャッッッ!!
グッビュジュッ!!
バヂヂチッッッ!!
既に100以上のパーツに分かれてしまった3匹の死体を、俺はさらに細かい肉片へと分解していく。
グヂュヂュヂヂヂヂ……
ビジュジュジジジジ……
バギュギュギギギギ……
もう数えることもできなくなった無数の肉片を、俺はさらに細かくしていく。
そして……
ジジジ…………
俺の目の前には3匹のウィピなどとっくに消え失せていた。
そして、そこには3匹分の血肉のミンチが無数に浮いていた。
「……ほいっ」
ビヒュンッ……
俺は3匹分の血肉のミンチを確認すると、それを周囲に分散して広げた。
そして……
ボフォッ!ボボッ!ザザボッ!ボジャジャザボッッ!!
俺は周囲の地面に能力を使い、土を空中へと浮かばせる。
ザザザサササササ…………
次に、先ほど分散させた無数のウィピの血肉と土を混ぜ合わせる。
ササササササ…………ササッ
そして、元あった地面に血肉入りの土を戻した。
先ほどまで転がっていた3匹の死体はもうどこにも見当たらなかった。
「はい完了。……虫とか小動物でも死体を埋め立てる後処理はやってたけど、こいつらはやっておかないと、虫とか小動物よりも面倒なことに繋がる確率が高そうだからな」
俺は3匹の死体が"誰にも見つからない"ように、地面へと埋め立て、後処理を完了させた。
「よし、帰るか……」
俺は後処理を完了させると、両親の家に向かうことに決めた。
「……ああ、そういえば」
だが、一つやっておくことを思い出した。
ササッ
俺は、ウィピとのいざこざの間、一回も手放さなかった植物を見た。
(これをどこかで乾燥させておかないと……)
やっておくこととは、今手に持っている植物を乾燥させるための場所作りである。
(いつもの置き場所だと、戻らなくちゃいけないからな……よし、ここに新しく作るか)
いつもこの植物を乾燥させている場所は、両親の家に向かう方向とは逆方向の森の中にある。
なので、これからその場所に戻ると、最悪の場合、両親との「外での活動可能時間は夜明けから日没まで」という約束を破る可能性がある。
なので、俺はこの場所に新たな乾燥置き場を作ることにした。
(まあ、ここの風通りは森の中では比較的良いし、それに何より乾燥させる植物の採取場所が目の前にあるしな)
ヒュンッ……
俺は今いる群生地の中に乾燥置き場を作ることを決定すると、近くに落ちていた手頃な木の枝を能力で浮かばせると……
バキキキッ!
その形を変形させた。
変形させた木の枝を見てみると……
片方に一つの輪っかが出来ていた。
そして、もう片方は……
無数の紐状になっていた。
キキキシュシシシ……
そして、紐状になった方を結ぶように、手に持っていた植物と繋いだ。
「よっ」
シュッ
そして、木の枝の輪っかの方を近くの高木の枝に括りつけた。
そうすると……
高木の枝にぶら下がった植物、という構図になった。
ササッ……ファッササァ……
植物は森の中を吹く風に当てられて、その身を揺らしていた。
(まあ、こんなところだろ。今日はこれ以上時間を掛けたくないから微調整は後でしておこう)
ヒュンッ……バキキキッ!
キキキシュシシシ……
シュッ
俺は、別の落ちていた木の枝を先ほどと同じように変形させると、先ほどと同じ手順で植物と結び付け、高木の枝へと括りつける……俺は今持っている植物を全て高木にぶら下げるまでその手順を続けた。
シュッ
「よし、今度こそ帰ろう」
俺は最後の植物を高木の枝へと括りつけると、帰宅を宣言した。
ザッ……ザッ……
俺は両親の家へと歩き始めた。
「あ~……どうなるかなぁ……」
そんなことを呟きながら、俺は植物の群生地……ウィピとの戦いがあった場所を後にした。
次の日……日課の持久力検証と瞬発力検証は過去一番の能力向上を示した。
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