第88話 灰一色
ササッ、ササッ……ザザザッ!
俺は、ウィピから逃げずに戦う選択をしたことについて省みていた。
だが、それと同時に別の事も行っていた。
……ザザザザザッ!!
俺は能力を使って、2匹のウィピに絡まっていたネット罠を解き、2匹から剝がし取った。
ヒュゥゥゥ……
そして、剝がし取った2本のネット罠を空中にいる俺の元へと持ってくると……
シュゥゥゥ……スンッ!
その内の1本を自分の周りに展開し直して、罠としての機能を復活させた。
ヒュゥゥゥ……
そして、俺は展開し直したネット罠を携えて、地上へと降下した。
…………ザッ
俺は地上へと舞い戻ると、特に何かをする訳でも無かった。
ただ、その場に……
「よいしょ」
ザザッ
座り込んだ。
ササッ、サァァァァ………フュゥゥゥ………
葉擦れと風の音が俺の耳に入ってくる。
「………………よし、もういいか」
俺はそう呟くと、座り込んでいた腰を上げて、立ち上がった。
座り込み始めてから、30分が経過していた。
「まあ、この3匹で確定かな?」
俺が30分もこの場所に座り込んでいたのは、疲れたから能力や体力の休憩を取るため……とかではない。
俺が仕留めた3匹のウィピに、さらなる別の仲間がいないかを確認するためである。
俺は3匹目のウィピを殺した後、「これ以上仲間はいない」などとは思っていなかった。
しかし、もし4匹目以降がいるとして……どうやってそいつを探し出すのか?
そんなのは簡単……俺に襲い掛からせれば良い。
だが、俺に襲い掛からせると言っても、俺に立ち向かったウィピは3匹とも倒されているので、もし4匹目以降がいたとしても、襲い掛かりづらいかもしれない。
なので、俺は地面に降りて無防備な姿を30分も晒し続けて、もし4匹目以降がいるのであれば、それがネット罠に引っ掛かってくれるのを待っていたのである。
しかし、どうやら俺に襲い掛かって来たウィピは、今俺の目の前で死体になっている3匹だけだったようで、30分待っても4匹目が来ることは無かった。
(まあ、まだ仲間がいたとしても、無防備な姿を晒していた俺に襲い掛かってこなかった時点で大丈夫だと思うがな)
もし、この3匹の仲間が本当はまだいたしても、その仲間が無防備を晒していた俺に襲い掛かってこなかったということは、俺に襲い掛かる判断を下さなかったということである。
そして、その理由には、俺を勝てない相手として認識したから、という可能性がある。
もしそうであるとすれば、今後森の中で架空の4匹目以降のウィピに襲われる可能性も下がるだろう。
というか……襲い掛かって来てもらわないと、俺から見つけることは面倒だし、難しいので、襲い掛かってこないなら、もし4匹目以降がいたとしても、俺は諦めるしかない。
ところで、4匹目以降のウィピに襲い掛かってきてもらいたいのに、ネット罠を使っても大丈夫なのか?
どういうことか言うと……ネット罠には、原料の植物の匂いが少し残っており、それを嗅覚に優れている可能性を持つウィピ相手に使っても良いのか?ということである。
それに関しては問題無いだろう。
思い出して頂きたい、俺がなんでウィピに襲われることになったのかを。
俺がウィピに襲われたのは、おそらく俺がウィピの縄張りに入ったからである。
ではなぜ、俺はその縄張りにそもそも入り込んだのか?
それは、ネット罠の作製と煙を使った生物の殺害に利用するための植物の群生地を見つけたからである。
そして、俺が座り込んでいた場所は今回ウィピが襲い掛かってきた場所であり、そこはその群生地がある場所なのである。
つまり、俺が座り込んでいた場所はネット罠の原料となる植物の群生地であり、展開したネット罠の匂いは周囲で大量に生えている植物の匂いで掻き消されてしまうため、ウィピ相手であったとしても、罠を仕掛けていることが匂いからバレることはないだろう、ということである。
「んん……灰色だな」
俺は4匹目のウィピが来ないことを理解すると、次の作業を始めようとする。
だがその前に、目の前で倒れている3匹のウィピの死体を観察し始めた。
ウィピは村長が言っていた通り、灰色の体毛を持った狼である。
その容姿について特徴を挙げるとすれば、全身の体毛が灰色一色に統一されていることだろう。
前世の記憶にある狼の体毛は一色だけでは無く、体の部位によって体毛の色が違ったり、グラデーションがあるせいで同じ部位の中でも色が違ったり……そんな種類の狼がほとんどであったと覚えている。
しかし、この3匹のウィピは、3匹とも全身が同じ灰色の体毛になっていて、灰色以外の色が一切無いのだ。
文字通り、体毛が灰色一色しか存在しないのだ。
(うーん……こんな狼いたかな?)
俺は自分の記憶にある狼とウィピの姿の比較を訝しんでいた。
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