第87話 土俵の上で逃げるのも戦術
ヒュゥゥゥゥゥ…………ザドッ
俺は落下した3匹目のウィピの体を見た。
その大きさは他の2匹よりも断然に小さく、体長が1メートル(m)にも達していないことが分かった。
その小さなウィピはピクリとも動かず、2匹の間の地面で横たわっていた。
「オ゛ン……オ゛ン……オ゛ン……」
「ア゛オン、オ゛ォォォォォォ……」
落下したウィピを目に入れた2匹は、大声を出してはいなかったが、小さく声を荒げて鳴き合っていた。
俺はその2匹のウィピを見ると……
ボギュッッッ!!!
「ア゛オ゛ッッッ!!!」
ボギュッッッ!!!
「オ゛ォ゛ォ゛ッ!!!」
能力で地面の土を槍状に変形させ、それを2匹の首へと突き刺した。
「オ゛ォォォ……ア゛オ…………」
「ア゛ァ…………」
「子供とは違って、一撃じゃ足りないか」
しかし、一撃では2匹のウィピを絶命させられなかった。
俺はそれを確認すると……
ボギュッッッ!!!
「オ゛ォッ!!」
ボギュッッッ!!!
「ア゛ォォ!!」
もう一度、土の槍を使って首を刺し貫く。
ボギュッッッ!!!
「オ゛ォォォ……」
ボギュッッッ!!!
「ア゛ォォォ……」
もう一回刺す。
ボギュッッッ!!!
「オ゛ォ……」
ボギュッッッ!!!
「ア゛ォ……」
もう一回。
ボギュッッッ!!!
「オ……」
ボギュッッッ!!!
「ア……」
そして……
「…………」
「…………」
鳴き声が無くなり、この場に静寂が訪れた。
「殺さない方が良かったかな……」
俺は2匹への止めを終えると、そう呟いた。
(とりあえず、確認……っと)
フワ……
フワ……
フワ……
俺は2匹への止めを完了させると、地面には降りず、空に浮かんだまま絶命しているであろう3匹に対して能力を使った。
3匹の体は俺の能力によって少し浮かんだ。
「結構ギリギリだったな」
俺は3匹の死亡確認を終えると、先ほどの出来事を思い返す。
2匹目のウィピがネット罠に掛かり、俺が浮かび上がってから数秒経った頃、2匹が突然大声で吠え出した。
俺はそれを聞いた瞬間、俺には見えていなかったが、まだ2匹の仲間がこの近くにいることを確信した。
2匹が突然吠え出したのは、仲間が俺へと襲い掛かる時、俺に仲間の存在を気付かせないようにするためだったのではないか?と俺は思う。
具体的には、2匹の鳴き声に俺の気を向かせるため、若しくは仲間が木を伝って俺の元へと移動するときの音を2匹の鳴き声で掻き消すため、あるいはその両方によって、仲間の存在を俺に気付かせないようにしたのだと俺は考える。
そして実際に、木を伝って俺に襲い掛かって来た3匹目のウィピがいた。
そうでなければ、2匹のウィピが無意味に鳴く必要は無いだろう。
しかし、逆に2匹が鳴いたことで、俺は他の仲間がいることを確信し、自分の周囲の警戒をすることができた。
俺は空へと浮かび上がるよりも前……1匹目がネット罠に掛かった直後に土の槍を作っておき、それを空へと浮かび上がる時に隠すようにして携帯していた。
そして、それを使って襲い掛かって来た3匹目の喉元を刺し貫くことができた。
3匹目のウィピが俺の首元に噛みつくよりも先に俺が土の槍でウィピの首元を刺し貫くことができたのは、2匹が鳴いてくれたからであった。
即ち、2匹が鳴いた行為は仲間を助けるというより、結果的に俺を助ける行為になっていたということだ。
(いや、もしかしたら……俺に襲い掛からせるためじゃなくて、"襲い掛からせない"ために鳴いたのかもしれないな……まあ、どちらにせよ2匹が鳴いてくれたおかげで俺は助かったんだがな)
(それにしても、あの2匹が鳴いてくれなきゃ危なかったかもしれないな……まさか、木を伝って地上5メートル(m)にいる俺へと襲い掛かってくるとはな……)
俺は3匹目が見せた、木を伝うという脅威の移動の方法に感嘆した。
そして、それと同時に自分の行動を省みてみることにした。
(この場に停滞しないで、さっさと逃げれば良かったかもしれないな)
1匹目か2匹目がネット罠に掛かったタイミングで、俺には、地上5メートル(m)よりも、30メートル(m)の高木よりも、高い上空へと上昇してから、この場を去る、という選択肢もあった。
今回は結果的に2匹の鳴き声が功を奏して、3匹目のウィピとの戦いに勝利したから良いものの……場合によっては俺がダメージを受けてしまう可能性のある戦いであった。
なので、逃げていた方が良かったかもしれない。
だが……
(いや……恨みとか持たれてたら、俺が森に入れなくなるかもしれなかったしな、やっぱりこれが正解かもな)
俺にはこの森でやることが色々とある。
下手にウィピの不興や恨みを買って、森の中で所構わず襲い掛かられては森の中を歩けなくなってしまう。
なので、逃げるよりは断然マシな選択肢だったと俺は思う。
(狼は鼻が利く上、頭が良いからな)
狼や犬の鼻が人間よりも別格に優れているのは有名な話である。
狼や犬の知力も動物の中では優れているという話も良く耳にする。
もし、そんな嗅覚と知力をウィピが持っていたら、俺のことは簡単に覚えられるだろう。
そして、そんなウィピに恨みを持たれでもしたら、俺はこの森を歩けなくなってしまう。
それどころか、森の外にまでウィピが俺を襲いに来る可能性だって無い訳では無い。
そう考えれば、やはりここで勝負を決めておいたのは正解であったと言える。
(まあ、"ダメージ"を受ける可能性はあったけど……"負ける"可能性は極低確率だと思ったから、最終的に俺はこの選択をしたんだけどな)
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