第85話 静かなるハンター
「オ゛ン!オ゛ン!ア゛オン!!」
ネット罠に縛られたウィピは吠えていた。
俺が作ったネット罠は見事にその役目を果たした。
このウィピは俺を襲うために飛びかかってきたようだが、その途中で俺が空中に浮かせておいたネット罠に引っ掛かってしまった。
こいつが飛びかかってくる力と、俺が能力でネット罠を球状に保たせる力が相殺し合ったことで、結果的にこいつは俺にその牙を届かせることができず、地面に体を引きずるようにして落下してしまった。
今はその体にネット罠が絡まり、さらに俺がネット罠に能力を使って間接的に押さえつけているせいで、こいつは地面に這いつくばったまま身動きが取れずにいた。
(何度か岩や木を使って実験してみたが、実戦はこれが初めてだったからな……成功して良かった。それにしても……こいつの技術はすごいな)
俺はウィピの脚と足に目を向ける。
今回このウィピが俺に襲い掛かって来たのは、おそらく俺がこいつの縄張りに入ってしまったからだと思う。
俺が今も手に持っている植物には先ほどまで灰色の毛が付いていた。
その毛はこのウィピの体毛と酷似していたことから、ウィピの抜け毛であることが分かる。
ではなぜ、この植物にウィピの毛が付いていたのか?といえば、ウィピがこの群生地を通った時にその毛が付いたから、と考えるのが自然だろう。
要するに、この植物の群生地はこのウィピの縄張りの中になっていて、俺がそこに入ってきたから、このウィピは襲い掛かって来た、と予想できる。
俺が、ウィピの縄張りに入ってしまったのではないか?と気付いたのは、植物に付いている毛を見た時であった。
俺はその気付きを確認するために、周りを見ようと、首を右に向けたら、そこにはこのウィピが今まさに飛び掛かっていた、という訳である。
だから、俺がこのウィピに気付けたのはこいつの気配や音を感じたから……ということでは無かった。
(かなりのハンター……ということか)
このウィピは一切音を立てることなく、俺へと近づいた。
そして、俺に飛び掛かる時も一切音を立てることなく、飛び掛かって来たのだ。
(なるほど。能力を使えば戦闘くらいできるかも?なんて思っていたが……とんだ見当違いだったな)
ネット罠を張っていたから助かった。
俺はそう痛感した。
「オ゛ン!オ゛ン!ア゛オン!!」
「さてと、こいつの後処理はどうするか……」
俺は、目の前でうるさく吠えているウィピをどのように扱うか、考えていた。
…………キラッ
スイの背中に反射した光が当たる。
…………
光を反射させた存在はスイへと徐々に近づいてくる。
「オ゛ン!オ゛ン!オ゛ン!!!ア゛オン!!!」
スイの目の前で這いつくばるウィピがけたたましく吠える。
「うーん……」
スイは目の前のウィピが吠える音に耳を傾けることはなく、目の前のウィピをどのように後処理するか、について考えていた。
…………
その間にも、光を反射させた存在はスイへと近づいていた。
遂にはそれまで隠れていた木の陰からその身を出し、その姿を森に差し込む太陽の光に晒させていた。
キラッ…………
もう一度、光が反射する。
光を反射させた存在の正体は……牙、であった。
スイはその牙に気付いていなかった。
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