第84話 不可視に絡まる
この植物は燃やされた時にその葉脈が無色透明で強靭な繊維になる。
この特徴を知った時、俺は「使える」と思った。
村長からこの森にはウィピという人間に対して非友好的で狼のような姿をした肉食動物がいることを聞いていた。
だから、村長から「森の奥には行くな」と言われていたし、両親との契約にも「森は浅い所まで」という制限があった。
しかし、俺にはこの森でやりたいことが色々とあったから、森の奥に行かないという訳にはいかず、どうしたものかと考えていたのだ。
もしウィピが襲い掛かって来たとしても、能力を使えば、ウィピとの戦闘を熟せないことも無いとは思うが、絶対に勝てるという保証がどこにも無かった。
そんな時に見つけたのが、この植物の、乾燥させてから燃やすとその葉脈が強靭で無色透明な繊維に変わる、という特徴であった。
俺は、この繊維をうまく扱えば、ウィピなどの大型敵対生物に対抗できる罠を作り出せると考えた。
俺が想像した罠の完成形は網である。
その罠の作るためには、まずこの植物を乾燥させなくてはならない。
この乾燥の工程は"絶対"である。
俺はこの植物をもんどり式の罠で捕まえた生物を殺害するためにも使っているのだが、実はこの植物は乾燥させていない状態の方がより長くより多くの煙を出すことができるのだ。
それなのに、俺がこの植物を乾燥させてから燃やしているのは、乾燥させないと繊維を取ることができないからなのだ。
どういうことか言うと、もし乾燥させずに燃やしてしまうと、繊維になるはずの葉脈の部分が繊維になることなく燃え尽きてしまうのだ。
しかも、乾燥させただけでは葉脈を繊維に変化させることができないのだ。
乾燥させたものを燃やす前に、葉脈の部分を抜き取って見ても、繊維になっていないのだ。
そして、抜き取った後に繊維になっていない葉脈の部分を燃やすと、乾燥させない時と同じように燃え尽きてしまうのだ。
なので、この植物から繊維を取るためには、必ず乾燥させ、乾燥以外の加工を一切していない状態で、葉を燃やす必要があるのだ。
なぜ、このような性質をこの植物が持っているのかは分からない。
だが、おそらく乾燥させた状態で燃やされると、葉脈の周りの葉の部分が燃えている時に、その部分が何かしらの働きかけを葉脈に行うことによって、葉脈がただの植物の繊維から強靭で無色透明な繊維に変化するからだと俺は考える。
一度、能力で空気を動かして、局所的な熱量なら鉄をわずかに溶かせるかな?くらいの火力を出して、その火力で乾燥させた植物を燃やしてみたことがある。
その時は、目的の繊維ができることはなく、葉脈も燃え尽きてしまった。
つまり、ゆっくりと燃えている間に葉脈以外の葉の部分が葉脈に何かしらの働きかけを行い、葉脈は自身が燃えてしまう前に自身の性質を変化させることで、目的の繊維になっているのだと思う。
おそらく、この植物が大量の煙を出しているのも、この繊維ができる過程で起きる現象の副作用によるものではないかと俺は考える。
ちなみに、葉脈が目的の繊維になった後に、先ほどの能力を使った高火力で熱してみても、その繊維は燃えることも溶けることも無かった。
どうやら、この繊維は耐火性にも非常に優れているらしい。
そして、俺が想像した網の罠を作るための次の工程は、さらに大量の繊維を作り、出来上がった大量の繊維を絡ませて一本の糸にする、という工程である。
この植物の一枚の葉から取れる繊維一本の長さは、葉の長さと同じ30~50センチメートル(cm)ほどである。
この工程では、それを何本も集めて絡ませて一本の太い糸にするのだ。
ちなみに、葉脈というものは、葉の中に一本だけあるというものではなく、大抵の植物は枝から葉の先まで伸びる一番太い一本の葉脈と、その葉脈から枝分かれしていく無数の葉脈、これらを合わせて葉脈と呼ぶのである。
無数の葉脈を持っているのは、この植物とて例外ではない。
しかし、この植物の一枚の葉から、強靭で無色透明な繊維になれる葉脈は枝から葉の先まで伸びる最も太い葉脈だけなのである。
それ以外の無数の葉脈は他の葉の部分と同じように燃え尽きてしまうのだ。
一枚の葉から一本だけ取れる繊維を集めて、一本の太い糸を作ったら、次の工程に移る。
次の工程では、先ほどの工程で作った糸をさらに大量に作り、大量に作った糸同士を固く結んでゆく。
結ぶ時は、能力を使って、結ぶというよりも糸同士を溶接するようにくっつけていく。
そして、結ぶ時にとある形になるようにして、結んでいく。
全ての糸を結び終えたら、最後にその結んだ物の形を整えて、ネット罠の完成である。
完成したネット罠を限界まで伸ばしてみると、その形が球状になっていることが分かる。
これは糸を結ぶ時に、ネット罠が球状になるように設計していたからである。
そして、その球状になっているネット罠の大きさは、半径が2.5メートルほどになっていた。
その上、繊維の特徴である無色透明さもしっかりと活かされており、目を凝らして見なければ、ネット罠はそこにあるのかどうか曖昧な物になっている。
おそらく、元からネット罠がそこにあると言われていなければ、気付くことは難しいと思う。
さらに、ネット罠の総重量は1キログラム(kg)にも満たないほど軽い、という特徴もあった。
完成したネット罠を使う時は、球になるようにネット罠を伸ばし、常に俺がその球の中心にいるように浮かせておく、という使い方をする。
そして、今回そのネット罠に見事に掛かった相手が、今俺の目の前で這いつくばっているウィピという訳だ。
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