第82話 非常には理由がある
ザッ……ザッ……
俺は小川と両親の家に近い森の出口のちょうど真ん中くらいの場所を歩いていた。
ザッ……ザッ……
俺の足音は木霊することなく、広い森の中へと霧散していた。
「…………」
俺は無言のまま、両親の家へと向かう足を進めていた。
その時……
「……ん?」
俺の視界にあるものが映った。
「あれは……」
ザザッ……ザッ……ザッ……
俺はこのまま真っ直ぐ進むいつものルートを外れて、斜め右の方向へと歩みを進めた。
ザッ……ザッ……ザザッ
俺はいつものルートを外れてから、斜め右の方向に10秒ほど歩くと、ある場所で立ち止まった。
「やっぱり……」
その場所には、あるものが"生えていた"。
それは、俺が生物の殺害のために使っている、超長時間燃焼し、その燃焼中に大量の煙を出す、という特徴を持ったあの植物であった。
しかも、その植物は1つでは無く、大量に生えていた。
所謂……
「群生地だ」
俺はあの植物の群生地を見つけることに成功した。
「これは良い収穫だ」
俺は群生地の発見に喜んだ。
この群生地は、いつものルートから大して離れた場所に生えている訳でも無いのに、今まで見つけることができていなかった。
おそらくだが、いつも通っているルートからこの場所を見ても、今までは木や雑草が俺の目からこの群生地を隠す陰になっていたからだろう。
今まで何度も近くを通っていたのに発見できていなかったのは、そのためだろう。
今回発見できたのは、この植物が成長したことで隠している木や雑草の陰から食み出たのか、或いは風や動物が植物の向きを変えたのか……何にしろ、この群生地の一部が俺の目に入ってきたことで、俺はこの群生地に気付くことができた、ということだ。
「よし……」
俺は、この群生地に生えている植物を採取することに決めた。
ヒュン
俺は自分の服の隙間に入れておいたとある物を、能力を使って目の前にとりだした。
それは石……鋭利な形の石であった。
俺は群生地に生えている植物の1つにその石を当てると……
ピキッ
植物の一部を切り落とした。
……スッ
俺は切り落とした植物の一部を手で受け止めた。
植物を切り落としたこの石は、この森を調査するときに携帯している物であり、何かを切るための道具……といったところである。
ピキッ……スッ
俺は、この石を使って植物を刈り取っていく。
今、俺が採取している植物の形を一言で表現するとすれば「とても葉の長いローズマリー」といったところである。
この植物は葉以外がローズマリーとかなり似ている。
だが、その葉だけが30~50センチメートル(cm)ほどの長さになっていて、葉の長さが2~4センチメートル(cm)ほどのローズマリーの葉よりも10倍以上長いのだ。
さっきも言った通り、この植物は「とても葉の長いローズマリー」なのだ。
俺はその植物のとても長い葉の付いた枝の部分だけを取るように、植物を切断して、採取していく。
ピキッ……スッ…………ピキッ……スッ
そして、数分も経つ頃には俺の手に十数本の植物の枝があった。
(まあ今日はこんなところか、これ以上は持てないし……浮かせたくないからな)
十数本もの枝を持てば、俺の片手はその植物の枝に埋め尽くされていた。
ちなみに、今俺が持っている植物は既に切断された枝と葉という部位なので、能力を使うこともできる。
であれば、俺が持たずとも能力を使って浮かせれば良いと思うかもしれない。
しかし、俺はなるべく物を持ち歩く時に、それを浮かせて運ぶことは避けている。
なぜなら、森の中とはいえ、もし俺の他に誰かが森の中へと入ってきて、そいつに俺の周りに物が浮いている光景を見られでもしたら面倒なことになるので、基本的には能力を使って物を運ぶとしても、今みたいに手で握っているように見える……つまり自然な形に見えるようにして運ぶことにしているのだ。
(さてと、これを乾燥置き場まで持っていくか……それとも、ここに新しい乾燥置き場を作るか……ん?)
俺はこの植物を乾燥させるための場所について頭を悩ませていると、ふと、手に持っている植物に目が行ってしまった。
「なんだこれ?」
俺が手に持っている植物に目を向けてしまったのは、その植物に違和感があったからだ。
「これは……白、いや灰色の……」
1本の植物にこの植物のものでは無い、何かがくっ付いていた。
フワッ
俺は能力を使ってそれを浮かせた。
(なんだこれ……灰色で……細長くて……能力が使えて)
俺はもう少し目を凝らして見る。
(灰色……あれだな、白髪みたいだな……髪、というより……)
(毛ッ!)
ブンッ!
俺は何かに気付くと、自分の首を急回転させ右を向いた。
ッッッ!!!
俺の視線の先には、一切の音を立てずに俺に急接近してくる存在がいた。
俺との距離、残り3メートル。
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