第81話 滑稽な永久
この能力には、能力を掛けるまでにその対象物に発生したエネルギーを殺すことなく、場合によっては"上乗せ"できるという性質がある。
この性質は、能力で動かそうとした対象が能力発動時点で保有している力に能力で発生させた力を上乗せすることができるという性質である。
だが、使い方によっては保有している力を能力で発生させた力を使って打ち消す必要性が出てくる、という性質でもある。
例えば、落下してくる物体に能力を使って下に向かう力を加えれば、落下速度を速めることができる。
逆に、この物体に上に向かう力を加えれば、落下速度を遅めたり、落下では無く上昇に転じさせることができる。
つまり、この能力を対象物に発動したとしても、発動しただけでは発動時に対象物が保有している力を消去することができない、ということである。
良く言えば、能力発動までの力を利用することができる。
悪く言えば、能力発動までの力が邪魔になる。
そういう性質がこの能力にはある。
そして、俺は村長宅から森を経由して両親の家へと向かう8キロメートル(km)の道程を踏破するために、この性質を利用したのである。
具体的には、俺を歩かせる動きの中で発生した、常に前へと働く慣性の力を維持するように、能力を使って靴や服などの対象物を動かし続けている、という感じである。
そして、能力を発動した時に対象物が保有している力はどこから発生したものであっても、消去されることは無い。
風が吹く力、水が流れる力、生物が動く力、物体に掛かる重力……どんな力も能力を発動しただけで消去されることは無い。
そして、それは能力から発生した力も例外では無い。
例えば、能力を使い時速50キロメートル(km/h)で前方へとボールを投げてから、そのボールに掛かっている能力を解除し、もう一度すぐにそのボールに能力を使って時速100キロメートル(km/h)になるように加速の力を与える時、先ほどの能力使用で発生したボールが時速50キロメートル(km/h)で前方に進む力を利用してボールを時速100キロメートル(km/h)にさせることができる、ということである。
今、俺を歩かせている力も最初の加速は能力による力なので、ボールの例と同じことである。
であれば……
ここで1つの発想が出てくるかもしれない。
それは、先ほどのボールの例で言うと、能力を使ってボールを加速させてから能力を解除して、その加速しているボールに新たな加速の力を能力で与えてから能力を解除して、また能力で加速させてから解除して、また加速させて解除して、また加速し解除し、加速、解除、加速、解除……と永遠に繰り返すことで、ボールを無限では無いがそれに近い加速をさせることができるのではないか?という発想である。
だが、結論を言うと、それは今のところ実現していない。
まず、先ほどのボールのように直線運動で加速を無限に繰り返そうとした場合、ある程度加速を繰り返している間に俺の視界からボールが消えてしまう、という問題がある。
これは、能力で動かしている対象物が俺の視界に入っている時でなければ対象物をうまく動かすことができない、という能力の性質が原因になっているものである。
だが、この問題には単純な解決方法があると思うかもしれない。
それは、俺の視界からボールがいなくなるまでに無限に等しい数の加速をボールに掛けることができれば、無限では無いが、限りなく無限に近い速度のボールを投げることができるのではないか?という方法である。
しかし、これははっきり言うと、無理難題である。
実は、この能力には発動するまでに、その発動内容に関連した俺の意思を必要するのだ。
先ほどのボールの例を取れば……
1.ボールに能力を掛ける
2.加速する方向を決める
3.加速力を決める
4.加速させる
最低でもこの4つの意思を俺が考える必要がある。
この4つの意思を俺が考え終わるまでには、数秒も掛からないとはいえ、それなりに時間が掛かってしまうのだ。
これらの意思を考えることに時間を割いてしまうので、100回も加速させることなくボールが視界から飛んで消えて行ってしまう。
なので、無限に近い加速など到底できないのだ。
さらに、能力を発動するときだけでなく、能力を解除する時にも「解除する」という意思が必要になるので、それにも時間を掛けてしまう。
それに、加速させればさせるほど、ボールが視界からいなくなるまでの時間もどんどんと短くなっていく、という問題もある。
では、ボールが視界からいなくならないように、円を描く運動にすれば良いと思うかもしれない。
だが、円運動というものは、常に円の軌道よりも外側に遠心力が働いてしまうせいで、解除した瞬間に遠心力に従ってボールが円の軌道よりも外側に向かってしまう。
そして、さらに速度を速めた時に解除したら、遠心力に従って俺の視界の外にまで飛んで行ってしまうため、円運動も無限に近い加速を実現する方法としては駄目なのだ。
もちろん、他の方法も考えてはみたが……
例えば、視界から消えないようにその場で留まる動きをさせると、そもそも慣性が働かない。
例えば、落下のように慣性もあって視界からいなくなることも無い動きをさせても、地面という終点があるせいで加速が止められる。
といったように、今のところ無限に近い加速を実現することはできていなかった。
そもそもの話、能力を掛け続けたとしても、いつかは持久力が尽きて能力が使えなくなる時が来てしまうので、土台無理な話なのだ。
というか、俺がやっていることは永久機関を作ることと大差がないのである。
永久機関という夢想の存在に近いものを作ろうと思索した俺は、もしかしたら滑稽に見えるかもしれない。
(この能力……意外とまともだな……)
こんな超常的な力でも無限や永久機関は夢物語なのかもしれない……俺はそう思った。
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