表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/149

第81話 滑稽な永久

 この能力には、能力を掛けるまでにその対象物(たいしょうぶつ)に発生したエネルギーを殺すことなく、場合によっては"上乗(うわの)せ"できるという性質がある。




 この性質は、能力で動かそうとした対象が能力発動時点で保有(ほゆう)している力に能力で発生させた力を上乗せすることができるという性質である。


 だが、使い方によっては保有している力を能力で発生させた力を使って打ち消す必要性が出てくる、という性質でもある。


 例えば、落下してくる物体(ぶったい)に能力を使って下に向かう力を(くわ)えれば、落下速度を(はや)めることができる。


 逆に、この物体に上に向かう力を加えれば、落下速度を(おそ)めたり、落下では無く上昇に(てん)じさせることができる。


 つまり、この能力を対象物に発動したとしても、発動しただけでは発動時に対象物が保有している力を消去(しょうきょ)することができない、ということである。


 良く言えば、能力発動までの力を利用することができる。


 悪く言えば、能力発動までの力が邪魔(じゃま)になる。


 そういう性質がこの能力にはある。


 そして、俺は村長宅から森を経由(けいゆ)して両親の家へと向かう8キロメートル(km)の道程(みちのり)踏破(とうは)するために、この性質を利用したのである。


 具体的には、俺を歩かせる動きの中で発生した、(つね)に前へと(はたら)慣性(かんせい)の力を維持(いじ)するように、能力を使って(くつ)や服などの対象物を動かし続けている、という感じである。




 そして、能力を発動した時に対象物が保有している力はどこから発生したものであっても、消去されることは無い。


 風が()く力、水が流れる力、生物が動く力、物体に掛かる重力(じゅうりょく)……どんな力も能力を発動しただけで消去されることは無い。


 そして、それは能力から発生した力も例外では無い。


 例えば、能力を使い時速50キロメートル(km/h)で前方(ぜんぽう)へとボールを投げてから、そのボールに掛かっている能力を解除(かいじょ)し、もう一度すぐにそのボールに能力を使って時速100キロメートル(km/h)になるように加速の力を(あた)える時、先ほどの能力使用で発生したボールが時速50キロメートル(km/h)で前方に進む力を利用してボールを時速100キロメートル(km/h)にさせることができる、ということである。


 今、俺を歩かせている力も最初の加速は能力による力なので、ボールの例と同じことである。


 であれば……


 ここで1つの発想(はっそう)が出てくるかもしれない。


 それは、先ほどのボールの例で言うと、能力を使ってボールを加速させてから能力を解除して、その加速しているボールに新たな加速の力を能力で与えてから能力を解除して、また能力で加速させてから解除して、また加速させて解除して、また加速し解除し、加速、解除、加速、解除……と永遠(えいえん)に繰り返すことで、ボールを無限では無いがそれに近い加速をさせることができるのではないか?という発想である。


 だが、結論(けつろん)を言うと、それは今のところ実現(じつげん)していない。


 まず、先ほどのボールのように直線運動で加速を無限に繰り返そうとした場合、ある程度(ていど)加速を繰り返している間に俺の視界からボールが消えてしまう、という問題がある。


 これは、能力で動かしている対象物が俺の視界に入っている時でなければ対象物をうまく動かすことができない、という能力の性質が原因になっているものである。


 だが、この問題には単純な解決方法があると思うかもしれない。


 それは、俺の視界からボールがいなくなるまでに無限に(ひと)しい数の加速をボールに掛けることができれば、無限では無いが、(かぎ)りなく無限に近い速度のボールを投げることができるのではないか?という方法である。


 しかし、これははっきり言うと、無理難題(むりなんだい)である。


 実は、この能力には発動するまでに、その発動内容に関連(かんれん)した俺の意思(いし)を必要するのだ。


 先ほどのボールの例を取れば……


 1.ボールに能力を掛ける

 2.加速する方向を決める

 3.加速力を決める

 4.加速させる


 最低でもこの4つの意思を俺が考える必要がある。


 この4つの意思を俺が考え終わるまでには、数秒も掛からないとはいえ、それなりに時間が掛かってしまうのだ。


 これらの意思を考えることに時間を()いてしまうので、100回も加速させることなくボールが視界から飛んで消えて行ってしまう。


 なので、無限に近い加速など到底(とうてい)できないのだ。


 さらに、能力を発動するときだけでなく、能力を解除する時にも「解除する」という意思が必要になるので、それにも時間を掛けてしまう。


 それに、加速させればさせるほど、ボールが視界からいなくなるまでの時間もどんどんと短くなっていく、という問題もある。




 では、ボールが視界からいなくならないように、円を(えが)く運動にすれば良いと思うかもしれない。


 だが、円運動(えんうんどう)というものは、(つね)に円の軌道(きどう)よりも外側に遠心力(えんしんりょく)(はたら)いてしまうせいで、解除した瞬間に遠心力に(したが)ってボールが円の軌道よりも外側に向かってしまう。


 そして、さらに速度を(はや)めた時に解除したら、遠心力に従って俺の視界の外にまで飛んで行ってしまうため、円運動も無限に近い加速を実現(じつげん)する方法としては駄目(だめ)なのだ。


 もちろん、他の方法も考えてはみたが……


 例えば、視界から消えないようにその場で(とど)まる動きをさせると、そもそも慣性が働かない。


 例えば、落下のように慣性もあって視界からいなくなることも無い動きをさせても、地面という終点(しゅうてん)があるせいで加速が止められる。


 といったように、今のところ無限に近い加速を実現することはできていなかった。


 そもそもの話、能力を掛け続けたとしても、いつかは持久力が()きて能力が使えなくなる時が来てしまうので、土台無理(どだいむり)な話なのだ。


 というか、俺がやっていることは永久機関(えいきゅうきかん)を作ることと大差(たいさ)がないのである。


 永久機関という夢想(むそう)の存在に近いものを作ろうと思索(しさく)した俺は、もしかしたら滑稽(こっけい)に見えるかもしれない。




(この能力……意外とまともだな……)




 こんな超常的(ちょうじょうてき)な力でも無限や永久機関は夢物語(ゆめものがたり)なのかもしれない……俺はそう思った。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ