第80話 慣性は万歩を実現させる
ザッ……ザッ……
俺は小川が流れているエリアを通り抜けて、両親の家に近い森の出口を目指して、歩いていた。
突然だが、今俺は歩いている。
村長の家を出て、そこから近い森の入り口へと行き、森の中に入ったら罠の設置や確認、能力の諸検証をする。
その後は、両親の家に近い森の出口へと行き、その出口から出たら、両親の家へと向かう。
最後は両親の家に到着する……これが俺の独りで外出する日の平均的な道程である。
そして、この道を何度も踏破する中で、俺はその道を踏破するのに掛かる歩数を数えてみたことがある。
平均して2万歩くらいであった。
人の歩幅というものは、その人物の「身長×0.45」程度であると聞いたことがある。
今の俺の体は、身長が90センチメートル(cメートル(m))ほどであり、そこに0.45を掛けると、40.5センチメートル(cメートル(m))……今の俺の歩幅は大体40.5センチメートル(cメートル(m))くらいだということが予想できる。
つまり、俺のこの歩幅を基に考えれば、俺が独りで外出する時の道程は大凡8キロメートル(km/h)だということも予想できる。
ただ、森の中は勾配や障害物があるせいで、厳密な俺の歩幅は45センチメートル(cメートル(m))では無いかもしれないが、それでも大体は合っているだろう。
ちなみに、俺の5歳という年齢から考えれば、身長が90センチメートル(cメートル(m))というのは些か……いや、だいぶ低い身長なのではないかと思う。
おそらく5歳にもなっていれば100センチメートル(cメートル(m))くらいは普通に超えていると思うのだが、俺は100センチメートル(cメートル(m))どころか90センチメートル(cメートル(m))丁度くらいであり、そのくらいの身長は2歳か3歳ほどの身長だと思う。
これは未だに動かない俺の身体との関係が大いにありそうなことだし、運動不足とか障がいとか、その他にも色んな原因を考えられるが、はっきりとした結論が出そうに無いので、俺の身長に関して深くは考えないことにする
話が逸れたが、要するに俺が言いたいのは、いつもの道程を測るために歩数を数えた……ということを言いたいわけでは無い。
俺が本当に言いたいのは、いつもの道程で2万歩"も"歩いている、という事実だ。
俺は持久力検証をする時に、棚と椅子の合計10キログラム未満ほどの物を床から天井までの2メートル(m)の間を往復させる動きをさせている。
現在はそこそこの生物を殺害したことで、持久力検証では2500回ほどの往復運動ができるようになった。
持久力検証から分かることは、俺が能力を使って10キログラム(kg)弱の物を2メートル(m)上下往復運動させることは連続で2500回ほどが限界であるということである。
そして、俺が村長の家から森を経由して両親の家へと帰るためには、俺という10キログラム(kg)オーバーの物体を浮かばせてから前に動かす、という動きを2万回もさせなければならない。
つまり、10キログラム(kg)ほどの物は2メートル(m)の上下往復運動を2500回ほどしかさせられないのに、この能力に俺を2万歩も歩かせる持久力が存在するのか?ということを言いたいのである。
結論から言うと……この能力にそんな持久力は無い。
しかし、俺はこの2万歩掛かる道程を何度も軽々と踏破している。
それはなぜなのか?
途中で休憩を挟んだりしているからか?
否、休みを一切入れなくても2万歩くらい連続で動かすことができる。
では、この能力の持久力に限界はあるが、それを回復させるための時間……言わば、クールタイムのようなものが極端に短いからか?
否、全然そんなことは無い。
この能力には使った分に応じて、その後に取るべきクールタイムが変化するし、最大出力や持久力の限界まで使った時は結構なクールタイムが必要になる。
では、どのようにして踏破を実現しているのか?
それは……
慣性を利用しているのである。
例えば、時速100キロメートル(km/h)で走行する電車とその電車に乗っている人間がいるとする。
その人間が電車に乗り続けている間、電車が時速100キロメートル(km/h)で走っていることで発生する衝撃を全然感じないで快適に乗れているのは何故だろうか?
それは乗っている人間も電車の動きにつられて時速100キロメートル(km/h)で動いているからである。
人間も時速100キロメートル(km/h)で動いているというこの現象は慣性が働くことで発生しているのである。
そして、慣性は電車に乗っている人間だけでなく、動いている電車自身にも働いているものである。
もっと身近な慣性で言えば、全力で走っている時に、ゼロ距離で止まろうとしても、減速を終えるまでに何歩か必要としてしまうだろう……それも慣性が働いている影響である。
もし慣性が無いとすると、先ほどの電車の例ではブレーキを掛けた時に文字通りのゼロ距離で止まることができるようになる。
だが、走っている間、時速0キロメートル(km/h)……つまり止まっている状態から時速100キロメートル(km/h)に瞬時に加速するための力を常時使い続けなければ、時速100キロメートル(km/h)で走り続けることができなくなってしまう。
しかし、慣性が働いていれば、その加速の力を常時必要とすることは無くなり、時速100キロメートル(km/h)を維持するための力……具体的には摩擦や空気抵抗などによって失われる速度を補う程度の力で済む。
つまり、俺は能力を使って自分を歩かせる時にもこの慣性の働きを利用することで、2万歩という多くて長い動きを連続して行うことができているのだ。
歩き始めは加速するための力が必要になるが、一定以上の速度に到達したら、後は慣性を殺さないように靴と服を動かせば、歩いている間は大した力を使うことなく、2万歩という多い回数と8キロメートル(km/h)を歩くという長い時間、動かし続けることができるのだ。
逆に、持久力検証では、天井と床の折り返す部分でそれまで働いていた慣性を全て殺さなければならず、慣性の働きを利用することができないので、2500回という結果になっている、と言うことができるかもしれない。
つまり、この能力には慣性を殺すことなく、それを利用することで、無駄な力の消費を抑えられることが分かった。
そして、これを少し発展させて考えれば……
この能力には、能力を掛けるまでにその対象物に発生したエネルギーを殺すことなく、場合によっては"上乗せ"できるという性質があることが分かる。
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