第76話 謎を一摘み
なぜ、積極的な生物の殺害を今も中止しているのにも関わらず、俺は森の中で罠を仕掛けているのだろうか?
それは、ここら辺の生態調査と追加の能力検証をしているからである。
まず、生態調査とは、この森に設置した罠に掛かった虫や小動物の、種類や容貌を観察することで何かしらの気付きを得る、ということである。
俺は生物博士などでは無い。
だから、1種類の生物を見て、その生物の生息域を予想する……などいったことはできない。
だが、1種類ではなく、様々な生物を観察し、比較することができれば、それら生物の共通点や相違点といったものから、俺が以前から欲しているこの村の場所やそれに関連する情報を知ることができたり、何かに気付けたりする可能性がある。
なので、俺は様々な生物を観察できるように、そして様々な生物が掛かるように、この森の中に罠を仕掛けているのだ。
両親や村長の家の近くといった村の中に罠を仕掛けないのは、村の中よりも森の方が生物の多様性があるから……という理由もあるが、一番の理由は罠のことがバレたくないからである。
ちなみに、罠は今確認したこの1個……だけではなく、森の中に複数個設置しており、それぞれをある程度離した距離で設置している。
次に、追加の能力検証とは、未殺害の生物を見つけたらその生物を殺害してみて、その後の能力向上を確認するというものである。
1歳半までで、俺は"生物"の殺害が能力向上の条件であることを予想したが、全ての生物が能力向上の条件に当てはまっているのか?については完全に確定したものではなかった。
1歳半までに殺害した生物は、黒い奴やネズミ、道端の雑草くらいのものであった。
なので、本当に全ての生物の殺害が能力向上の条件に当てはまるのか?についても検証……というより確認するために、殺害したことの無い生物を殺害し、その後能力が向上するのかどうかを検証するために、罠を設置しているのだ。
今さっき箱の中で仰向けになって死んでいた虫を、俺が「新種」と呼んでいたのは、"今朝"初めて見た生物なので、俺にとっての新種、と言う意味で呼んでいた。
この新種を始めて見たのが今ではなく、"今朝"と表現したのは、俺は外出できる日の朝に事前に仕掛けて置いたこの罠の中身を確認して、これまでに殺害したことがある生物が掛かっていれば殺害する必要が無いので逃がしてから、何も掛かっていなければ、そのまま餌などを取り換えるが、新種が掛かっていた場合には例の植物を持ってきて、能力を使って燃焼させ、その燃焼する植物を箱の中に入れ、蓋の穴を閉じてから、箱を蓋を閉めて密閉し、今のように日没までに中にいる新種が殺害されているのかを確認しに来ているため、この新種を初めて見たのは夕方である今ではなく、確認に来た"今朝"という訳なのだ。
俺はここら辺の生態調査と追加の能力検証、主な理由としてこの2つがあるので、積極的な生物の殺害を中止しているのにも関わらず、罠の設置を続け、時には殺害をしているのである。
要するに、時々新種が掛かったら殺害をするだけなので、殺害に関しては積極的では無い……そういうことである。
ザッ……ザッ……
俺は箱を設置していた場所を離れて、森の中を進む。
俺はこの森に罠を仕掛けて、その成果やその後の検証……と3年半色々とやってきたことで、今までにあった謎や疑問を色々と解くことが出来たと思う。
しかし、謎というものは湧いて出るものなのか……能力の向上について新たな謎がこの3年半で生まれてしまった。
その謎とは……
生物の殺害以外の原因で能力が向上しているかもしれない、というものだ。
能力の向上は生物の殺害が原因である、これは再三に渡って考えてきたことだ。
しかし、3年半ほど前から、殺害をしていないのにも関わらず、時々能力が向上したり、殺害した分に比例しないその分を超える能力の向上が起きたりしている。
この謎の原因を考察するとすれば……
これこそ、俺の成長期が原因で能力が向上している、という可能性を示すものかもしれないし、何かしら別の原因があるという可能性を示唆しているものかもしれない。
しかし……
この謎に関して、最も重要なのは、能力の向上を引き起こす原因は一つなのか、それとも複数あるのか?というものである。
複数ある場合であれば、生物の殺害の他に能力を向上させる原因がある、という話で決着がつき、俺がするべきことは具体的にどのようなものが原因になっているのか?ということを調べることになる。
しかし、原因が一つであった場合は、生物の殺害が能力向上の原因である、という根幹が崩れる……あるいは、能力の向上が起きる原因はもっと大きな……
(……っ)
と、そこまで考えていた思考が急に止まってしまった。
ザッ……ザッ…………ザッ…………
森の中を進んでいる俺は、その歩みをわずかに緩めることになった。
サァァァァ……シャァァァァ……
歩みを緩めることになったのは、俺の進路に障害物があり、それを乗り越える必要があったからだ。
俺が新たな謎についての思考を停止したのは、その歩みの速度を変更するためでは無く……
シャァァァァァァァァァァァァァ
活気に満ち溢れていて、小うるさい存在感を放つ小川を見たためであった。
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