第75話 向上は如何にして
殺害の瞬間に能力を使わなかった場合、能力の向上はどうなるのか?
1歳半の時の罠を使った作戦では、獲物を捕獲する過程で罠を使うことで俺は直接では無く間接的に獲物に関係したが、最後に能力を使った圧殺をしてしまったことで獲物の殺害の瞬間だけは直接俺が関わってしまっていた。
なので、殺害の瞬間も能力を使わない場合に能力の向上がどうなるのか?について、1歳半の時は検証することができなかったのだ。
しかし、3歳以降に両親から独りでの外出を許されたことで、この森の中へと来られるようになり、この森の中であれば、家の近くではできなかった火を使った殺害ができるようになった。
つまり、獲物を捕獲する過程のみならず、獲物を殺害する瞬間も能力を使うことなく、火とそこから発生する煙を使うことで、生物の殺害に至るまでのほぼ全ての過程において俺が直接的に殺害に関与することがなくなったのである。
これによって、1歳半の時には分からなかった、殺害の瞬間に能力を使わなかった場合に能力の向上はどうなるのか?についての結果が判明した。
結果は、能力向上の有無も向上幅も変わらない、ということであった。
つまり、殺害の瞬間に能力を使うかどうかは、能力の向上に影響を与えない、ということである。
そして、この結果から、これまでに考えてきた能力に関する考察をさらに深めることができる。
まず、前提として、能力向上の原因に生物の殺害が関係していることは確定的な事実である。
では、どこまでが能力向上を発生させる殺害なのか?
言い換えると、俺や俺が扱う能力がどこまで殺害に関わっていれば能力向上の条件を満たすのか?ということである。
例えば俺が能力を使って直接ネズミを殺害した場合と、俺が空気に対して能力を使った時に、風が発生して、その風が木の枝を揺らし、その木の枝が落ちたことで、その下で絶妙なバランスを維持していた岩が動かされて、転がってきたその岩にネズミが轢殺された場合……この両者の現象を比較した時、前者のような直接俺が殺害に関与している現象と後者の「風が吹けば桶屋が儲かる」のような現象による殺害のどちらともが俺との関係性は同じ、ということにはならないだろう。
つまり、俺がどこまで殺害に関わっていれば能力向上の条件を満たすのか?というのは、俺が取った行動がどれだけ生物の殺害に関係していると、能力向上の条件を満たすのか?ということである。
そして、煙を使った殺害によって、殺害の瞬間に俺が直接関わっていなくても能力の向上が発生しその向上幅に変化が無いことから、能力の向上は生物の殺害に直接関係していなくてもある程度何らかの形で関与していれば、ほとんどの場合、能力は向上する、ということが分かった。
さらに、この事実を発展させると、以前から考察している、能力向上の真の原因は生物の殺害それ自体なのか?それとも生物の殺害を起因とした俺の精神変容なのか?という考察にそろそろ決着をつけても良いかもしれない。
以前にも言及したように、俺が直接関与している殺害と間接でしか関与していない殺害、両者が与える俺への精神的な影響が同じものであるとは考えられない。
そして、俺は煙を使った殺害によって、殺害の瞬間に俺が直接関与していないのにも関わらず能力向上が発生し、尚且つその向上幅は直接殺害した時と同じ向上幅であったことが分かった。
これは、俺が間接的に関与している殺害と直接的に関与している殺害の向上幅が同じである。
そして、両者による俺への精神的な影響が違う可能性を考慮すると……
それ即ち、能力向上の真の原因は殺害それ自体であることが確定的になる。
ちなみに、これらの考察をできるに至った、火を使った殺害には一つ弊害があるように思うかもしれない。
それは、森の中で火を使って木や植物に引火して火事にならないのか?というものである。
だが、これについては問題にすらなっていない。
火事の火種になる可能性のある、この作戦で燃やしている植物から発生する熱量は超微量であり、火種としてはかなり心許ない。
しかも、燃えている植物を入れた箱は地中の中に埋めてあるせいで、木や植物のある地上に火種が出てくることは無い。
もし万が一、地上に火種が飛び出してしまったとしても、生きている植物というものは大抵水分を含んでいるものであり、そんな簡単に火が付くようなことは無い。
一般的に想像する燃えている木材というものは、ほとんどが伐採してから乾燥させたものであり、そうでなくても、生きている状態の時から乾燥していて燃えやすい植物、といった場合がほとんどである。
そして、この森に生えている木や植物には水分が豊富に含まれており、例えばこの森に一番多い高木に関しては、時期によっては大量の樹液を溢れ出させる様子を見ることができるほどである。
ただし、唯一引火する可能性があるものと言えば、枯れて乾燥してしまっている植物があるが、それに関しては、火を使う場所の近くに乾燥している植物を配置しないように対策できるので問題無い。
なので、この森で火を使うことによる火事のリスクは全く無い、と言って良い。
とりあえず、火を使った間接的な殺害ができたことで、俺は能力向上に関するいくつかの謎や疑問を潰すことができた、と言えるだろう。
ちなみに、間接的な殺害を多角的に検証するため、火を使った殺害だけでなく、獲物を箱の中に閉じ込めて置いて、その中で餓死させるという間接的な殺害方法も取ってみたが、それもしっかりと能力向上が発生し、その向上幅は変わらなかった。
つまり、火を使った殺害だけが能力を向上させるものではなく、ある程度の間接的な殺害であれば、能力を向上させる要因になるということも分かった。
ところで、俺は1歳半の時に、積極的な生物の殺害を中止することに決定したが、今現在は罠を使って殺害をしていることから、積極的な生物の殺害を再開したのだろうか?
答えは……否。
実は現在進行形で中止の決定は続いている。
ではなぜ、俺は今罠を使った殺害をしているのだろうか?
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