第74話 火煙
「久しぶりの新種だったな」
俺はそう言いながら、箱の中で仰向けになっている虫を見ていた。
そして俺は……
フワ
その虫に能力を使って、空中へ浮かせた。
それは虫がしっかりと死亡していることを示していた。
村長を使った両親との交渉の結果、制限付きではあるが俺は独りでの外出というある程度の自由を手に入れることができた。
そして、俺は今その自由な時間を使って、村の周囲に広がる森の中へと来ていた。
森へ来たのは今日が初めて……という訳では無く、それどころか独りでの外出ができるようになってから、その時間を使って一番来ている場所がこの森なのである。
では、俺はこんな森の中に、一体何をしに来ているのか?
それは、罠の設置とその成果の確認のために来ているのである。
フワ……フワ……
今、俺の目の前に浮いている木の箱には蓋が付いており、その蓋には中心に向かう窪みとその窪みの中心に穴が開いている。
裏側から見ると、その穴には数センチメートル(cm)ほどの長さの布が付いていた。
つまり、この木の箱は、俺が1歳半の時に作ったもんどり式の罠と同じ形状で同じ仕組みの罠なのである。
ただし、この罠は俺が1歳半の時に両親の家にある木の箱から作ったものでは無く、この森で採れる木材を加工して作ったものである。
この罠に使った木材は、今も俺の周りでそこら中に生えている高木をそのまま使っている……訳では無い。
地面に落ちている高木の枝や樹皮、枯れてしまった高木を使っているのだ。
ここに生えている高木も生物であるため、「生きている生物には使えない」という能力の性質がこの高木にも当てはまっているようで、能力が使えないのだ。
なので、既に死んでいる木やその一部である落ちた枝や樹皮を使って、この罠を作っているのだ。
この罠は1歳半の時に作った物と、ほとんど同じような使い方をしているが、一つだけ違うことがある。
それはこの罠に掛かった獲物を殺害する時に、箱の蓋と底を使って圧殺をしていない、ということだ。
では、獲物を殺害する時、どんな殺害方法を取っているのか?
チ……チッ……
俺は箱の底に目を向けると、そこにはその身を燃やしながら煙を出している植物があった。
この植物を使った殺害方法を取っているのである。
この植物はこの森の中に多いわけでも少ないわけでも無い規模で生えている植物なのだが、とある特徴がある。
それは、この植物を燃やすと、物凄くゆっくりと燃えていく、という特徴である。
どれくらいゆっくり燃えるのか?というと……
今回、この植物を燃やしてこの箱の中に入れたのが今日の朝方であり、今が夕方くらいである。
この間は大体8時間以上である。
つまり、8時間以上……そして今なおこの植物は燃え続けているのである。
しかも、今回入れた植物は縦横10センチメートル(cm)高さ20センチメートル(cm)のこの箱に余裕で入るほどの大きさであり、例えると大体成人男性の握り拳くらいの大きさでしかない。
つまり、この植物は燃焼時間が長く、その大きさも大きめな薪よりも圧倒的に小さいのにも関わらず、その燃焼時間がとてつもなく長いのだ。
広葉樹の薪1キログラム(kg)で1時間燃えるという目安があるが、この植物は100グラム(g)も無いのに8時間以上燃えるのだ。
ただし、超長時間の燃焼はできるが、そこから発生する熱量はかなり少なく、暖を取るのであれば、薪を使った方が効率的……というより、暖を取るためにこの植物は使わない方が良い。
なぜなら、この植物には燃えている間、大量の煙を出す、という特徴もあるのだ。
そして、俺はこの大量の煙を出すという特徴に目を付け、これを殺害に取り入れているのだ。
この特徴を生かした具体的な殺害方法は、まずこの植物を採取したら、それを予め乾燥させておく。
(乾燥させる工程を取っているんだけど……実は乾燥させずに燃やした方がより長い時間燃えて、もっと多くの煙が出るんだよな……まあ、乾燥させた方が良いんだけどな)
次に、乾燥させたものを獲物が掛かった箱の中へと火を付けてから入れる。
そして、箱の蓋に空いた穴を塞いでから蓋を閉める。
最後にその箱を地中に埋める。
そうすると、箱の中で煙が充満し、それを吸わざるを得なくなった獲物が一酸化炭素中毒を起こして死亡してしまうか、一酸化炭素中毒にならない昆虫であれば酸素が欠乏して死亡してしまうのだ。
俺が箱の穴を塞いでしまったことで、実は箱に空気穴が一つも無い状態になってしまっている。
しかし、この植物は超微量の酸素でも燃焼を続けることができるという性質もあり、箱のわずかな隙間や箱を埋めている土の隙間から入ってくるわずかな空気だけでも問題無く燃える続けることができるのだ。
それと、木製の箱の中に燃えている植物を入れたことで、箱が燃えてしまわないのか?という問題が考えられる。
だが、それについては問題無いと言える。
なぜなら、俺が能力で形成した石製の容器の中に燃えた植物を入れてから、その容器ごと箱の中に入れるので、植物が木の箱に直接触れることは無く、木の箱が燃えることは無い。
もし燃えたとしても木の箱は地面に埋まっているので箱に燃え移ったとしても酸素不足ですぐに鎮火される……というより、火種があっても酸素不足のせいで、そもそも箱が燃え始めることが無いのだ。
この低酸素の空間で燃えることができるのはこの植物くらいなものだろう。
チッ……チチ……
植物は箱の中で未だに燃えている。
俺は火を使う殺害ができるようになった。
そう、俺は第一回目のもんどり式の罠を使った作戦の時にできなかった火を使った殺害をできるようになったのだ。
俺が火を使う殺害ができると判断したのは、ここが森の中だからであり、ここであれば人目にはほとんどつかないし、火の煙が見られる心配もほとんど無いからである。
それでもここに誰かがやって来た時のために、箱の中から煙が出て行ってしまう空気穴を作らない、という対策を取っているのである。
さらに、森の中であれば、能力を使ってもそれを他人に見られる可能性も低くなる。
つまり、俺が森に来ているのは、色々とやりやすくなるからなのだ。
そして、火を使った殺害方法が取れるようになったということは、1歳半の時には分からなかったあの事が分かった、ということである。
それは……
殺害の瞬間に能力を使わなかった場合、能力の向上はどうなるのか?である。
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