第71話 村長のお手伝い
キィ…………カッ……カカカ……カキッ
部屋の中に、木が擦れるような音が響く。
「…………」
カカッキッ……キィ……カキッ……
その音は、俺が針のような道具を使って机の上に置かれている木の板に規則的な傷を付ける音であった。
(ここを変えて……)
俺は傷を付けている手元の木の板から目を外して、別の木の板を見る。
(んん……このくらいだな)
キキィィィィィ……カカカカカカ……
俺は針のような道具を使わずに、能力を使って別の木の板に付いている傷を消して、新しい傷を作る。
カキッ……キキィィ……
そして、別の木の板に付けた新しい傷を見ると、それを基に手元の木の板に針のような道具を使って傷を付けていく。
……カッ
(よし……終わり)
俺は針のような道具から手を離した。
(やはり……"こういう"のはどこにでもあるものだな)
俺は傷を付けた木の板を見ながら、そう思った。
ガチャッ
「帰ったよー、スイ。……終わったかい?」
俺が針のような道具を手から離してから数秒後、村長が俺の居る部屋へと入室してきた。
「うん。終わったよ」
俺は村長の質問に肯定の返事をした。
今、俺が居る場所はいつも俺が居るあの部屋では無く、村長宅……その仕事部屋であった。
俺がここに居るのはとある作業をするためであった。
何の作業か?
村長の仕事部屋は俺が本を発見した場所であり、本の読み方を教えてもらったり、村長や両親たちが使っている言語の読み書きを教えてもらったりした場所でもある。
だが、今日していた作業はそういったことではない。
俺がしていた作業は、この村の各世帯の農作物の収穫量を基にして村全体の農作物の収穫量を計算する、という作業だ。
俺が先ほどまで木の板に傷を付けていたのは、文字を木の板に書いていた、という事である。
この村にとって見れば紙は貴重品らしいので、木の板に傷を付ける、という形で書き込むしかないのだ。
(はあ……パソコンか、スマホが使いたいな……)
しかし、俺は紙よりも、もっと高尚な物を使って作業を進めたいと思っていた。
ところで、この作業は本来俺がやるべきことでは無く、村長がやるべきこと……つまり村長の仕事である。
それなのになぜ、俺が村長の仕事をしているのか?
それは、もんどり式の罠を使った第一回作戦から約半年が経った頃……つまり俺が2歳になった時、俺が村長に仕事の手伝いをさせて欲しい、と願い出たからだ。
第一回作戦から2歳になるまでの半年間で、俺はそれまで完璧では無かった読み書きの箇所を習得したり、例の意味不明な本の意味を読み取ろうと再挑戦してみたり、村長から色んなことを根掘り葉掘り聞いてみたり……色んなことをやっていたのだが……
特に重要なことをしていた訳でも、新しい発見があった訳でもなく……要するに大してやることが無くなっていたのだ。
なので、俺は折角できるようになった読み書きの技術を活かせるようなことをしてみようと思い立ったのだ。
この村で読み書きが活かせることと言えば、俺を除く村人の中で唯一読み書きができる村長の仕事を手伝う以外には無いだろう、となったのだ。
そして、俺は2歳になった時、村長に手伝いを申し出てみると、あっさりと了承され、今に至るという訳だ。
タンッ…………タッ……タッ……タッ……
俺は座っていた椅子から床に降りると、村長の元へと木の板を抱えて向かった。
「はい」
そして、村長の元へたどり着くと、抱えていた木の板を村長に差し出した。
「ありがとう」
村長は礼を言いながら、俺から木の板を受け取る。
今、俺が村長に渡した木の板には、この村全体の農作物の収穫量を計算したものが書かれている。
ちなみに、言語は違っても算数くらいなら完璧にできるので、村長から習う必要は無かったのだが、この手伝いをするためには、なぜ俺は計算ができるのか?ということを村長から自然に捉えてもらう必要があった。
なので、一応2歳になるまでに村長に算数を教えてもらうことで、「算数を教えてもらった」という体裁を整えておいた。
村長は俺から木の板を受け取ると、その内容を"軽く"確認し始めた。
そして、十数秒ほど木の板に目を通すと……
「うん、大丈夫みたいだね。いつも通り計算間違いも無いよ」
村長はその内容に了承した。
「うん」
俺は村長の言葉に一言返事をした。
(んん……こっちとしては都合が良いんだけど……もう少し疑念を持って確認をした方が良いと思うけどなあ……)
俺は村長の確認を見て、そんなことを思った。
ガチャッ
「じゃあ、行くね。バイバイ」
村長が木の板の確認を終えると、俺は村長の仕事部屋の扉を開け、村長宅から出ることを村長に伝える。
「うん。またね」
村長はそんな俺に気さくな別れの挨拶を返す。
タッ……
俺が部屋の外へと一歩を踏み出すと……
「君のことだから約束の方は大丈夫だと思うけど……浅い所までだからね?」
俺が居なくなるよりも先に、村長は俺にそう語り掛けてきた。
「分かった。ありがとう」
俺は村長にそう返事をすると……
タッ……タッ……
村長宅を後にした。
ザッ……ザッ……
俺は畑の間の畦道を歩いていた。
先ほどやっていた村長の手伝い……それを始めたのは、暇になったからとか、いつも世話になっている村長に報いたくなったからとか、色々な理由がある。
しかし、それらは村長に手伝いを申し出た表の理由である。
「人が報酬無しで動くわけ無いんだよな」
もんどり式の罠を使った第一回目の作戦から3年半が経ち……
俺は5歳になっていた。
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