第70話 直接的に手を下すことと間接的に手を下すことは同じことか?
第一回目の作戦には、リスクを背負ってでも、手に入れたいメリットがあった。
俺は今回の作戦をすることで、生物の殺害が原因と思われる能力向上の比較検証がしたかったのだ。
今回の作戦以前の殺害は全て、能力を使うことでその生物の殺害の過程に俺が多分に関わった殺害であった
言わば、俺による狩りや討伐、若しくは戦闘と言える行為による殺害であった。
だが、俺が殺害までの過程にあまり関わらない殺害の場合に、能力の向上はどのようになるのかを俺は知りたかったのだ。
つまり、能力が向上するときの条件を探していたのである。
そして、それを探すための方法が、今回の箱を使った捕獲による殺害である。
自分の部屋でやっていた作戦も罠と呼称してはいたが、掛かった獲物の逃げる余地があった。
その場合だと、殺害までの過程に俺の技量が必要になる。
だが、俺の技量がほとんど必要とされない殺害であれば、その後の能力向上の有無やその幅が、俺の技量を必要とした時の殺害とは違ったものになると思った。
なので、今回の作戦を一度だけ敢行したのだ。
以前、能力を使わない殺害を検証したいと言っていたが、あれは能力を殺害に至るまでの"全て"の過程で使わないという意味の殺害であり、今回の作戦は殺害に至るまでの過程で"なるべく"俺の意思や能力が関わらないようにするという意味の殺害である。
そして、今回の作戦の後で行った持久力検証と瞬発力検証、二つの検証はどちらとも殺害した生物の分に比例して能力が向上したことを示していた。
つまり、俺が殺害までに関わることを減らしても、能力向上の有無や向上幅に変化は無かった、ということだ。
俺はこの結果に落胆……してはいなかった。
自分が立てた予想や仮説が否定されることも、一つの進歩だからだ。
そして、今回の検証結果から、俺は能力向上の有無や向上幅に変化が無かった原因を考察した。
その中で考えた予想は二つ……
一つは検証過程に原因がある可能性と、もう一つは根本に原因がある可能性である。
まず「検証過程に原因がある可能性」とは、今回の作戦において最後は、俺が能力を使って直接黒い奴らを殺害してしまっており、それだけで能力向上の条件を満たしてしまったという可能性である。
これは、以前能力を使わない殺害の検証をしたい、と言った時に引き合いに出していた、殺害の瞬間だけ能力を使わない殺害に関係する可能性である。
この可能性については、この作戦を思いつく前にも既に考えていたことだったので、理想を言うのであれば、今回の作戦で毒殺とかができれば良かった。
そうすれば、殺害の瞬間も殺害までの過程でも、能力をなるべく使わない殺害をすることができた。
しかし、そんな都合の良い毒はないので諦めた。
もし火を使った殺害ができれば、それは殺害の瞬間だけ能力を使わない殺害の方法になると思うが、以前指摘したように、火を使うことには様々なリスクが伴うので、こちらもやる気にはならなかった。
今回の作戦では、殺害までの過程において、もんどり式の罠を使ったことで、ほとんど能力を使うことなく殺害まで至れたと思うが、殺害の瞬間だけは能力を使わざるを得なかった。
殺害の瞬間だけ能力を使わない、というのは今の俺の状況だと、行動制限がされているせいでかなり難しいことになっている。
思いつくような方法には欠点があったり、そもそも行動制限のせいで思いつける方法自体が少なかったりする。
もう一つの「根本に原因がある可能性」とは、そもそも生物の殺害に、直接や間接、能力の有無、過程、瞬間……そういったものは関係が無く、殺害に俺がある程度関わっていれば、能力向上の条件を満たすことになるという可能性である。
そして、この可能性が正しいとすれば、以前に俺が立てたあの予想が進展する。
あの予想とは、生物の殺害による能力向上は、生物の殺害それ自体が原因としてあるのか?それともその殺害の影響を受けた俺の精神が変容することが原因としてあるのか?という予想である。
そして、「根本に原因がある可能性」が正しい場合には、生物の殺害それ自体が能力向上の原因になっている可能性が高まる。
なぜなら、殺害による俺の精神変容が能力向上の原因になっているのだとすれば、俺がその殺害から何かしらの感情や精神的影響を受けていることを前提にしていることになるからである。
どういうことかと言うと、離乳餌作戦の時のように俺が狩りや戦闘を行った上での殺害と、今回の作戦の様に終始一貫して罠を使った殺害……両者の殺害から受ける俺の精神的な影響がどちらも同じであるとは考えられないということである。
今回の作戦において最後は俺が能力を使って直接殺害してしまったとはいえ、その罠による捕獲という過程では黒い奴らが捕獲されることに俺が直接関わっていないことになる。
それにも関わらず以前と同じように殺害した分に比例して能力が向上したということは、殺害によって俺の精神が変容したから能力が向上したのではなく、殺害それ自体が能力を向上させた可能性の方が高くなるのではないか?ということである。
その上、今回俺は黒い奴らを殺害する前に、奴らを見た時、奴らが何匹いるのかを正確に把握していなかった。
つまり、何を殺そうとしたのかを一部理解せずに殺害したのだ。
この殺害と、相手のことを正確に把握した上で殺害した離乳餌作戦の時のような殺害を比較すると、この二つの殺害が俺の精神に与える影響が同一のものとは言い難い。
要するに、今回の能力向上の有無や向上幅が以前の結果から変化しなかった原因が、俺が何でも良いからある程度殺害に関わっていれば能力向上の条件を満たすという根本的な原因であった場合、能力が向上する原因は殺害による俺の精神変容ではなく、殺害それ自体ということになる。
俺が今回の作戦を敢行したのは、このことを調べるためという理由もあった。
「…………」
今回、第一回目の作戦によって、ある程度の検証結果とそれを基にした考察ができた。
(作戦も中止だが……殺害自体も中止だな)
そして、俺はこの第一回を終えて、今後積極的に生物を殺害することは"一旦"中止することに決めた。
なので、今後しばらくは能力に関して、日課の持久力検証と瞬発力検証を続けるだけにする。
能力以外のことについては、これまで通り村長の家へと行き、本……は良く分からないので、村長からもう少し情報を集めてみることにする。
(行き止まり、のように感じるかもしれないが……そういうことでもないな)
俺は現状と展望から、状況を俯瞰していた。
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