表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/149

第70話 直接的に手を下すことと間接的に手を下すことは同じことか?

 第一回目の作戦には、リスクを背負ってでも、手に入れたいメリットがあった。




 俺は今回の作戦をすることで、生物の殺害が原因と思われる能力向上の比較(ひかく)検証がしたかったのだ。


 今回の作戦以前の殺害は全て、能力を使うことでその生物の殺害の過程に俺が多分(たぶん)に関わった殺害であった


 言わば、俺による狩りや討伐(とうばつ)()しくは戦闘と言える行為(こうい)による殺害であった。


 だが、俺が殺害までの過程にあまり関わらない殺害の場合に、能力の向上はどのようになるのかを俺は知りたかったのだ。


 つまり、能力が向上するときの条件を探していたのである。


 そして、それを探すための方法が、今回の箱を使った捕獲(ほかく)による殺害である。


 自分の部屋でやっていた作戦も罠と呼称(こしょう)してはいたが、掛かった獲物(えもの)の逃げる余地(よち)があった。


 その場合だと、殺害までの過程に俺の技量(ぎりょう)が必要になる。


 だが、俺の技量がほとんど必要とされない殺害であれば、その後の能力向上の有無(うむ)やその(はば)が、俺の技量を必要とした時の殺害とは違ったものになると思った。


 なので、今回の作戦を一度だけ敢行(かんこう)したのだ。


 以前、能力を使わない殺害を検証したいと言っていたが、あれは能力を殺害に(いた)るまでの"全て"の過程で使わないという意味の殺害であり、今回の作戦は殺害に(いた)るまでの過程で"なるべく"俺の意思や能力が関わらないようにするという意味の殺害である。




 そして、今回の作戦の後で(おこな)った持久力検証と瞬発力検証、二つの検証はどちらとも殺害した生物の分に比例して能力が向上したことを(しめ)していた。


 つまり、俺が殺害までに関わることを減らしても、能力向上の有無(うむ)向上幅(こうじょうはば)に変化は無かった、ということだ。


 俺はこの結果に落胆(らくたん)……してはいなかった。


 自分が立てた予想や仮説(かせつ)が否定されることも、一つの進歩だからだ。


 そして、今回の検証結果から、俺は能力向上の有無や向上幅に変化が無かった原因を考察(こうさつ)した。


 その中で考えた予想は二つ……


 一つは検証過程に原因がある可能性と、もう一つは根本(こんぽん)に原因がある可能性である。


 まず「検証過程に原因がある可能性」とは、今回の作戦において最後は、俺が能力を使って直接黒い奴らを殺害してしまっており、それだけで能力向上の条件を()たしてしまったという可能性である。


 これは、以前能力を使わない殺害の検証をしたい、と言った時に引き合いに出していた、殺害の瞬間だけ能力を使わない殺害に関係する可能性である。


 この可能性については、この作戦を思いつく前にも(すで)に考えていたことだったので、理想を言うのであれば、今回の作戦で毒殺(どくさつ)とかができれば良かった。


 そうすれば、殺害の瞬間も殺害までの過程でも、能力をなるべく使わない殺害をすることができた。


 しかし、そんな都合(つごう)の良い毒はないので(あきら)めた。


 もし火を使った殺害ができれば、それは殺害の瞬間だけ能力を使わない殺害の方法になると思うが、以前指摘(してき)したように、火を使うことには様々(さまざま)なリスクが(ともな)うので、こちらもやる気にはならなかった。


 今回の作戦では、殺害までの過程において、もんどり式の罠を使ったことで、ほとんど能力を使うことなく殺害まで(いた)れたと思うが、殺害の瞬間だけは能力を使わざるを()なかった。


 殺害の瞬間だけ能力を使わない、というのは今の俺の状況だと、行動制限がされているせいでかなり難しいことになっている。


 思いつくような方法には欠点があったり、そもそも行動制限のせいで思いつける方法自体が少なかったりする。




 もう一つの「根本に原因がある可能性」とは、そもそも生物の殺害に、直接や間接、能力の有無(うむ)、過程、瞬間……そういったものは関係が無く、殺害に俺がある程度(ていど)関わっていれば、能力向上の条件を満たすことになるという可能性である。


 そして、この可能性が正しいとすれば、以前に俺が立てたあの予想が進展(しんてん)する。


 あの予想とは、生物の殺害による能力向上は、生物の殺害それ自体(じたい)が原因としてあるのか?それともその殺害の影響(えいきょう)を受けた俺の精神が変容(へんよう)することが原因としてあるのか?という予想である。


 そして、「根本に原因がある可能性」が正しい場合には、生物の殺害それ自体が能力向上の原因になっている可能性が高まる。


 なぜなら、殺害による俺の精神変容(へんよう)が能力向上の原因になっているのだとすれば、俺がその殺害から何かしらの感情や精神的影響を受けていることを前提(ぜんてい)にしていることになるからである。


 どういうことかと言うと、離乳餌(りにゅうじ)作戦の時のように俺が狩りや戦闘を行った上での殺害と、今回の作戦の様に終始一貫(しゅうしいっかん)して罠を使った殺害……両者の殺害から受ける俺の精神的な影響がどちらも同じであるとは考えられないということである。


 今回の作戦において最後は俺が能力を使って直接殺害してしまったとはいえ、その罠による捕獲(ほかく)という過程では黒い奴らが捕獲されることに俺が直接関わっていないことになる。


 それにも関わらず以前と同じように殺害した分に比例して能力が向上したということは、殺害によって俺の精神が変容したから能力が向上したのではなく、殺害それ自体が能力を向上させた可能性の方が高くなるのではないか?ということである。


 その上、今回俺は黒い奴らを殺害する前に、奴らを見た時、奴らが何匹いるのかを正確に把握(はあく)していなかった。


 つまり、何を殺そうとしたのかを一部理解せずに殺害したのだ。


 この殺害と、相手のことを正確に把握した上で殺害した離乳餌(りにゅうじ)作戦の時のような殺害を比較(ひかく)すると、この二つの殺害が俺の精神に与える影響が同一(どういつ)のものとは言い(がた)い。


 (よう)するに、今回の能力向上の有無(うむ)向上幅(こうじょうはば)が以前の結果から変化しなかった原因が、俺が何でも良いからある程度殺害に関わっていれば能力向上の条件を満たすという根本的な原因であった場合、能力が向上する原因は殺害による俺の精神変容ではなく、殺害それ自体ということになる。


 俺が今回の作戦を敢行(かんこう)したのは、このことを調べるためという理由もあった。






「…………」


 今回、第一回目の作戦によって、ある程度の検証結果とそれを(もと)にした考察ができた。


(作戦も中止だが……殺害自体も中止だな)


 そして、俺はこの第一回を終えて、今後積極的(せっきょくてき)に生物を殺害することは"一旦(いったん)"中止することに決めた。


 なので、今後しばらくは能力に関して、日課(にっか)の持久力検証と瞬発力検証を続けるだけにする。


 能力以外のことについては、これまで通り村長の家へと行き、本……は良く分からないので、村長からもう少し情報を集めてみることにする。




(行き止まり、のように感じるかもしれないが……そういうことでもないな)




 俺は現状と展望(てんぼう)から、状況を俯瞰(ふかん)していた。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ