第65話 静かに開けて、静かに歩こう
ザッ……ザッ……ジャ
「はい、到着」
俺の傍を歩いていた村長がそう言うと、立ち止まった。
俺はいつもの村長宅からの帰り道を歩き、今は両親の家の前に丁度着いたところであった。
「ありがとう、またね」
「うん、ばいばーい」
俺は村長に礼と別れを告げると、村長からの返事を背に受けつつ家の玄関へと向かっていった。
…………
そして、玄関に辿り着くと、その扉を開けて中へと入った。
今日の帰宅はいつもよりかなり早く……玄関に入る時に開いた扉からは音が全くしていなかった。
…………
「…………」
俺は、扉の開閉音や自分の足音、服の衣擦れの音、あらゆる音を殺して玄関へと入ると……3歩目で立ち止まった。
そして……
(1……2……3……)
頭の中で数を数え始めた。
(……8……9……10)
そして、10秒を数え終えると、俺は体の向きを家の中ではなく、先ほど入ってきた玄関の扉の方向へと向き直した。
…………
そして、俺は玄関の扉を開けた。
(……よし)
再度開いた扉の向こうの景色では、既に村長がこの家から背を向けて歩き出していた。
俺はその景色を確認すると……
…………
外へと足を踏み出した。
(村長の迅速果断振りには礼を言わないとな)
俺は踏み出した足を、村長宅へと向かう正面の畦道……ではなくその反対、家の裏側へと向けて歩を進めた。
無断外出である。
…………
俺は自分の服と靴を能力で動かすことで、歩いている、と見えるようにしている。
そして、今回はそれに加えて、浮かす力を強めることで、地面には触れる程度の力しか掛けていないのにも関わらず、周りから歩いていると見えるように移動した。
そして、その移動先は……
家の裏側の外壁から3メートルほど離れた場所であった。
そこは、家の周りで踏み固められたであろう固い土と、耕すことで柔らかくなった畑との境界に位置する場所であった。
さらに、この場所の周りには雑草や低木などが生い茂っており、それらはこの場所を取り囲むような配置になっていた。
俺は、草木によって周囲からは見えづらくなっているこの場所の地面を見た。
すると……
モシッ……モシモシ……
地面に亀裂が生まれた。
モシモシモシッ……ボッ、ボボボッ……ボモッ!
さらにその亀裂は広く大きくなり、最終的に地面を割った。
そして……
フワッ
割れた地面から、1枚の木の板が飛び出してきた。
飛び出してきた板は、その形が少し……いや、かなり変だった。
木の板には、その中央に向かうように沈む窪みがあり、その窪みの終着点……つまり板の中心には1つの穴が開いていた。
さらに、木の板の今見ている面とは反対の面を見ると、こちらには先ほどの面から空いた穴が貫通してできた穴があるのが見て取れる上、その穴から垂れ下がるように布が付いていた。
その布は、長さが5センチメートル(cm)ほどで、両側に穴が開いた円柱状の形であった。
布の片方の穴は木の板の穴に嵌まるようにして木の板に付いており、もう片方の穴は自由に垂れさがっていた。
「…………」
俺は木の板に一瞥だけくれると、木の板が埋まっていた土を見た。
そこには、穴があった。
その穴は縦横がそれぞれ10センチメートル(cm)ほどの四角形で、底までの奥行きが20センチメートル(cm)ほどであった。
そして、穴に関する情報の中で最も目立つのが……
ウネウネウネ……
ガサガサッ……
カサカサカサカサ……
ウネッ……カサッ……
ガサガッ……ウネネネ……
カサッ……
ガササッ……
ウネウネッ……ウネウネッ……
ガササササッ……
ウネネッ……カササッ……
カササッ……カサカサカサカサ……
カサッ……ウネウネウネッ……
ガサガサ……
大小含めた黒い奴が十数匹も入っていることであった。
「…………」
俺は穴の中身を確認すると……
カッ……バキッ!ギキキキ……
すぐさま、先ほど能力で浮かせた木の板を、穴が塞がっている状態の、縦横10センチメートル(cm)ほどの四角形の形に変形させた。
そして、木の板の変形が完了したことを確認すると、俺は先ほどまでその木の板が埋まっていた場所……地面に空いている穴を塞ぐように動かした。
キッ…………
木の板がピッタリと地面に嵌まるのを確認した俺は……
ギキキキキキキ…………
木の板を穴の底まで一気に押し込んだ。
ギャジャジャジャビビジジビジッ…………
押し込んでいる途中で、穴の中から、色々な音が混じり合った音が聞こえてきた。
……………
しかし、木の板を穴の底まで辿り着かせると、何も聞こえなくなった。
何も聞こえなくなったのも束の間……
モモモッボボボボボ……
穴の部分の土が盛り上がり……
……ボゴッ!
穴から……否、"穴"が飛び出してきた。
穴の正体は縦横がそれぞれ10センチメートル(cm)、高さが20センチメートル(cm)の……
木の箱であった。
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