第61話 質量攻撃
ドヂュバッッ!
そんな音が部屋の一角から響いてきた。
その一角……隅には、俺がいつも能力を検証する際に使用する棚が置かれていた。
ただ、その棚は置かれているのではなく、床からわずかに浮いていた。
俺は前回、クソデカ黒い奴を討伐した時に、奴を一撃で仕留めることができなかったことから、フォークでは武器として殺傷能力に限界があることを察していた。
なので、俺はもっと殺傷能力の高い武器を使うことに決めた。
だが、この部屋には鋭利な刃物や火薬、化学薬品といった、いかにもな武器は無い。
であれば、この部屋で調達できる、フォークよりも優れた武器とは何か?
そんなもの、重量の重い武器……つまり、対象に質量攻撃を与えられる武器に決まっている。
そして、棚がこの部屋にある中で最も質量が大きい。
その上、棚は広い面を持っており、そこを使えば対象を逃がす確率が下がるし、角を使えば一点攻撃をすることもできる、という形になっていて、武器としてかなり適している。
なので、俺は今回、フォークも武器として用意した上で、棚を餌の上空で浮かせておき、前回のクソデカ黒い奴のようにフォークの一撃では殺せないような獲物が掛かった時の罠として待機させておいた。
そして、それが見事に今回の獲物のネズミへと炸裂し、あいつを圧殺させるに至った。
ちなみに今回は作戦時間中ずっと棚を浮かせておいたが、2時間浮かせておくだけなら、問題無く持久力は持つので、ずっと浮かせておいても問題無かった。
(……確認するか)
圧殺したことを確信してはいたが、どちらにせよ殺せたかどうかの確認は必要なので、俺は目で見て確認することにした。
クチッ、チュチチッ…………
俺は床からわずかに浮いていた棚を天井に向かって上昇させた。
棚が浮かび上がった瞬間は、日常では聞かないような生々しい音が棚の底から聞こえてきた。
棚がわずかに床から浮いていたのは、ネズミが間に挟まっているからという理由もあるが、そもそも俺は意図的に床とのギリギリで止めていた。
今回、あいつに向かって棚を思い切り叩きつけたと思うが、もしその勢いを最後まで殺さずに床まで叩きつけようものなら、とてつもない爆音がこの部屋にだけでなく、家中に響くに違いなかった。
そうなれば、色々困ることが出てきてしまうので、俺は床とのギリギリで勢いを殺して停止させたのだ。
…………フワ
俺は床と天井の中間くらいまで棚を上昇させると、そこで棚を静止させた。
俺は棚をそこに浮かせたまま、先ほど棚が落ちた場所を確認した。
(わお)
そこには、剥製みたいになってしまったネズミがいた。
ただし、その剥製は血肉まみれでグチャグチャになっているが。
ビチャ……グチチチッ、ガッベヂャッ……
俺は、その見るも無惨なネズミに能力を使った。
ネズミはその平たい状態のまま空中へと浮かび上がった。
目視と能力が使用できることから、俺はネズミが死んだことを確認した。
(俺が動かせないことから、予想はしていたが……能力に生物の分類は関係なさそうだな)
生物は能力を使って動かすことができないが、死亡状態であれば動かすことができる……この性質は黒い奴を殺して確かめた時に判明した結果であった。
その時点では、死亡状態で動かせる生物の実例が黒い奴と植物だけであった。
俺の離乳食に入っている小麦?や野菜、部屋の中にある建材の木……つまり死亡状態の植物は元々動かせることを知っていたが、村長の家に行けるようになったことで、生きている植物を目に入れることができるようになった。
なので、生きている植物に能力を使ってみたら、植物も生きている時は動かせないことが判明した。
そして今回、ネズミを倒したことで、黒い奴と植物以外の死亡状態であれば能力が使用可能になる生物の実例が増えた。
これは死亡状態であれば、植物であろうと虫であろうと哺乳類であろうと、能力を使って動かせるという可能性を高めることに繋がる。
この可能性は、俺という人間……つまり哺乳類を動かせないことから、予想していたことでもあった。
(とりあえず……これは…………元に戻さないとだな)
俺は能力で浮かせておいたネズミを見て、その散々な潰れ具合から、元の状態へと戻す必要があると感じた。
俺は、後処理と言う名の偽装工作を開始した。
ピチュ……チチュ……ジュチチチ……
まず、ネズミ本体を弄る前に、床や棚の底に付いてしまったネズミの血肉を能力で剥がし取ることにした。
次に、剥がし取った血肉を、本体であるネズミが浮いている場所へと持っていく。
グチッ……ヂュヂュジジジッ……
最後に、持ってきた血肉と組み合わせながら、平たくなってしまったネズミを元の形に形成する。
……チチチ……チチュッ
そして、ネズミは元の体と大体同じような形に戻った。
(やっぱり、結構大きいし……汚いな)
俺は生きている時と同じような造形へと戻ったネズミを観察すると、そんな感想を抱いた。
ネズミの大きさは尻尾を除いた体長で30センチメートル(cm)ほどで、尻尾を入れた全長では50センチメートル(cm)近くあり、外見的特徴は特になく、体毛は黒色や茶色、灰色を混ぜたような色で、清潔などとは真逆の不潔な害獣にしか見えなかった。
(奴らは"念のため"外に捨てていたが……こいつは確実に捨てた方がいいな)
俺は、前回と前々回の黒い奴……虫を捨てることに関しては、俺の疑いをかけないようにするため、という理由の他に感染症を考慮して"念のため"、外へと捨てていた。
しかし、ネズミというのは、人に害を与える病原菌を媒介してくる生物の代名詞みたいな存在であり、それもこんなに不潔なネズミであれば尚の事、捨てざるを得ない、と俺は判断した。
ヒュゥゥゥ……
俺は空中に浮かべていたネズミを外へと繋がる隙間の近くへと持っていった。
そしてその隙間からネズミを外に捨てようと考えるが、ネズミが入ってきたことで隙間がいくらか拡張したものの、どう考えてもネズミの横幅の方が隙間よりも大きくて、このままでは外に捨てられそうになかった。
(…………)
俺はそれを確認すると……
キュッ……キュキュキュッキュミミミミミッ……
能力を使って、ネズミが潰れないギリギリの力で、ネズミの横幅を細めた。
ミッ、ミミ………………
そして、俺は潰れてしまうギリギリまで横幅を縮められたネズミの横幅と隙間を見比べた。
(いけるな……そして……)
俺はネズミの横幅の方が隙間よりも細くなったことを確認すると……
ミッキュッ!
ネズミの肉体を細めていた力を解除した。
すると、ネズミは死亡したのにも関わらず、未だにその役割を果たそうとする細胞の働きによって体の内側から反発が発生し、細められた肉体が元の横幅へと戻った。
(よし)
キュッ……キュキュキュッキュミミミミミッ……ミッ、ミミ………………
俺はネズミの肉体が元に戻ったのを確認すると、もう一度ネズミの横幅を細め直した。
そして……
ヒュンッッッ!!!
外へと繋がる隙間からネズミを投げ捨てた。
そして、投げ捨ててから数秒経った後……
(……んっ)
外へと出たせいで見えなくなってしまったネズミに掛けられていた、その肉体の横幅を細め続ける延長の動きをやめさせるために、ネズミに掛かっている能力自体を解除した。
(これでいいだろう……今頃あいつは元の横幅に戻って、能力が解除された後も、投げた時の慣性に従ってそのまま飛んでいくはずだ)
俺は、ネズミの行く末を予想しても、見守ることは無かった。
(いやぁ、準備はしていたが……かなりの大物だったな)
俺は、今回の作戦でかなりの大物がかかった、と改めて振り返った。
そして……
(これで能力の一端がまた分かりそうだな)
俺は能力について思いを馳せていた。
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