表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/149

第61話 質量攻撃

 ドヂュバッッ!




 そんな音が部屋の一角(いっかく)から(ひび)いてきた。


 その一角……(すみ)には、俺がいつも能力を検証する(さい)に使用する(たな)が置かれていた。


 ただ、その棚は置かれているのではなく、(ゆか)からわずかに浮いていた。




 俺は前回、クソデカ黒い奴を討伐(とうばつ)した時に、奴を一撃で仕留(しと)めることができなかったことから、フォークでは武器として殺傷能力(さっしょうのうりょく)に限界があることを(さっ)していた。


 なので、俺はもっと殺傷能力の高い武器を使うことに決めた。


 だが、この部屋には鋭利(えいり)な刃物や火薬、化学薬品といった、いかにもな武器は無い。


 であれば、この部屋で調達(ちょうたつ)できる、フォークよりも(すぐ)れた武器とは何か?


 そんなもの、重量(じゅうりょう)の重い武器……つまり、対象(たいしょう)質量攻撃(しつりょうこうげき)(あた)えられる武器に決まっている。


 そして、棚がこの部屋にある中で最も質量が大きい。


 その上、棚は広い面を持っており、そこを使えば対象を()がす確率が下がるし、(かど)を使えば一点攻撃をすることもできる、という形になっていて、武器としてかなり(てき)している。


 なので、俺は今回、フォークも武器として用意した上で、棚を(えさ)の上空で浮かせておき、前回のクソデカ黒い奴のようにフォークの一撃では殺せないような獲物(えもの)が掛かった時の罠として待機(たいき)させておいた。


 そして、それが見事(みごと)に今回の獲物のネズミへと炸裂(さくれつ)し、あいつを圧殺(あっさつ)させるに(いた)った。


 ちなみに今回は作戦時間中ずっと棚を浮かせておいたが、2時間浮かせておくだけなら、問題無く持久力は持つので、ずっと浮かせておいても問題無かった。




(……確認するか)


 圧殺したことを確信してはいたが、どちらにせよ殺せたかどうかの確認は必要なので、俺は目で見て確認することにした。


 クチッ、チュチチッ…………


 俺は(ゆか)からわずかに浮いていた棚を天井に向かって上昇させた。


 棚が浮かび上がった瞬間は、日常では聞かないような生々(なまなま)しい音が棚の底から聞こえてきた。


 棚がわずかに床から浮いていたのは、ネズミが間に(はさ)まっているからという理由もあるが、そもそも俺は意図的(いとてき)に床とのギリギリで止めていた。


 今回、あいつに向かって棚を思い切り叩きつけたと思うが、もしその(いきお)いを最後まで殺さずに床まで叩きつけようものなら、とてつもない爆音(ばくおん)がこの部屋にだけでなく、家中(うちじゅう)に響くに違いなかった。


 そうなれば、色々困ることが出てきてしまうので、俺は床とのギリギリで勢いを殺して停止させたのだ。




 …………フワ


 俺は床と天井の中間くらいまで棚を上昇させると、そこで棚を静止させた。


 俺は棚をそこに浮かせたまま、先ほど棚が落ちた場所を確認した。


(わお)


 そこには、剥製(はくせい)みたいになってしまったネズミがいた。


 ただし、その剥製は血肉(ちにく)まみれでグチャグチャになっているが。


 ビチャ……グチチチッ、ガッベヂャッ……


 俺は、その見るも無惨(むざん)なネズミに能力を使った。


 ネズミはその(ひら)たい状態のまま空中へと浮かび上がった。


 目視と能力が使用できることから、俺はネズミが死んだことを確認した。


(俺が動かせないことから、予想はしていたが……能力に生物の分類(ぶんるい)は関係なさそうだな)


 生物は能力を使って動かすことができないが、死亡状態であれば動かすことができる……この性質は黒い奴を殺して確かめた時に判明(はんめい)した結果であった。


 その時点では、死亡状態で動かせる生物の実例が黒い奴と植物だけであった。


 俺の離乳食(りにゅうしょく)に入っている小麦?や野菜、部屋の中にある建材(けんざい)の木……つまり死亡状態の植物は元々動かせることを知っていたが、村長の家に行けるようになったことで、生きている植物を目に入れることができるようになった。


 なので、生きている植物に能力を使ってみたら、植物も生きている時は動かせないことが判明した。


 そして今回、ネズミを倒したことで、黒い奴と植物以外の死亡状態であれば能力が使用可能になる生物の実例(じつれい)が増えた。


 これは死亡状態であれば、植物であろうと虫であろうと哺乳類(ほにゅうるい)であろうと、能力を使って動かせるという可能性を高めることに繋がる。


 この可能性は、俺という人間……つまり哺乳類を動かせないことから、予想していたことでもあった。




(とりあえず……これは…………元に戻さないとだな)


 俺は能力で浮かせておいたネズミを見て、その散々(さんざん)(つぶ)具合(ぐあい)から、元の状態へと戻す必要があると感じた。


 俺は、後処理と言う名の偽装工作(ぎそうこうさく)を開始した。


 ピチュ……チチュ……ジュチチチ……


 まず、ネズミ本体を(いじ)る前に、床や棚の底に付いてしまったネズミの血肉を能力で()がし取ることにした。


 次に、剥がし取った血肉を、本体であるネズミが浮いている場所へと持っていく。


 グチッ……ヂュヂュジジジッ……


 最後に、持ってきた血肉と組み合わせながら、(ひら)たくなってしまったネズミを元の形に形成(けいせい)する。


 ……チチチ……チチュッ


 そして、ネズミは元の体と大体同じような形に戻った。


(やっぱり、結構大きいし……汚いな)


 俺は生きている時と同じような造形(ぞうけい)へと戻ったネズミを観察すると、そんな感想を(いだ)いた。


 ネズミの大きさは尻尾(しっぽ)(のぞ)いた体長で30センチメートル(cm)ほどで、尻尾を入れた全長では50センチメートル(cm)近くあり、外見的特徴は特になく、体毛は黒色や茶色、灰色を混ぜたような色で、清潔などとは真逆の不潔な害獣にしか見えなかった。




(奴らは"念のため"外に捨てていたが……こいつは確実に捨てた方がいいな)


 俺は、前回と前々回の黒い奴……虫を捨てることに関しては、俺の疑いをかけないようにするため、という理由の他に感染症を考慮(こうりょ)して"念のため"、外へと捨てていた。


 しかし、ネズミというのは、人に害を与える病原菌(びょうげんきん)媒介(ばいかい)してくる生物の代名詞(だいめいし)みたいな存在であり、それもこんなに不潔なネズミであれば(なお)の事、捨てざるを()ない、と俺は判断した。


 ヒュゥゥゥ……


 俺は空中に浮かべていたネズミを外へと繋がる隙間(すきま)の近くへと持っていった。


 そしてその隙間からネズミを外に捨てようと考えるが、ネズミが入ってきたことで隙間がいくらか拡張(かくちょう)したものの、どう考えてもネズミの横幅(よこはば)の方が隙間よりも大きくて、このままでは外に捨てられそうになかった。


(…………)


 俺はそれを確認すると……


 キュッ……キュキュキュッキュミミミミミッ……


 能力を使って、ネズミが(つぶ)れないギリギリの力で、ネズミの横幅を細めた。


 ミッ、ミミ………………


 そして、俺は潰れてしまうギリギリまで横幅を(ちぢ)められたネズミの横幅と隙間を見比(みくら)べた。


(いけるな……そして……)


 俺はネズミの横幅の方が隙間よりも細くなったことを確認すると……


 ミッキュッ!


 ネズミの肉体を細めていた力を解除した。


 すると、ネズミは死亡したのにも関わらず、(いま)だにその役割を果たそうとする細胞(さいぼう)の働きによって体の内側から反発(はんぱつ)が発生し、細められた肉体が元の横幅へと戻った。


(よし)


 キュッ……キュキュキュッキュミミミミミッ……ミッ、ミミ………………


 俺はネズミの肉体が元に戻ったのを確認すると、もう一度ネズミの横幅を細め直した。


 そして……


 ヒュンッッッ!!!


 外へと繋がる隙間からネズミを投げ捨てた。


 そして、投げ捨ててから数秒()った後……


(……んっ)


 外へと出たせいで見えなくなってしまったネズミに掛けられていた、その肉体の横幅を細め続ける延長の動きをやめさせるために、ネズミに掛かっている能力自体を解除した。


(これでいいだろう……今頃あいつは元の横幅に戻って、能力が解除された後も、投げた時の慣性(かんせい)に従ってそのまま飛んでいくはずだ)


 俺は、ネズミの()(すえ)を予想しても、見守ることは無かった。




(いやぁ、準備はしていたが……かなりの大物だったな)


 俺は、今回の作戦でかなりの大物がかかった、と(あらた)めて()り返った。


 そして……




(これで能力の一端(いったん)がまた分かりそうだな)




 俺は能力について思いを()せていた。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ