第60話 こじ開ける獣
ギギギギギギギギ……
どんどんと拡大しているのに、そこから入ってくる光が弱まっていく隙間。
ガキッ!
その現象を引き起こしている存在が、遂にこの部屋へと侵入してきた。
それは、作戦前から想像していた黒い奴らのような虫……
ではなく……
「ヂュッ」
"獣"であった。
ギギッ……ギギッ……
自身の頭部をこの部屋へと侵入させることに成功した獣は、一声鳴くと、頭部だけでなく、首から後ろの方も部屋へと入れようとし始めた。
(こいつは……)
俺は部屋へと侵入してきた獣の頭を見ただけで、何であるのかを察した。
(……ネズミ)
ネズミであった。
しかし、このネズミは創作物などでデフォルメされて登場する、可愛らしいネズミ……などではなかった。
その目は真っ黒で白目が一切存在しないせいで表情を読み取ることができず、何を考えているのか分からない。
その毛は繊細で清潔なものではなく雑で汚いものであり、前世では即害獣認定されるような見た目であった。
俺はとんでもない大物が掛かったことを理解した。
ギギギ……ギギギ……
俺がそのネズミを観察している間にも、そいつは既に自身の頭部だけでなく、首と前足、胴体の一部をこの部屋の中へと侵入させることに成功していた。
(結構大きいな……25~30センチメートル(cm)くらいはあるんじゃないか?)
俺は新たに入ってきたそいつの部位の大きさから、そいつの体長を予測した。
(ドブネズミの最大サイズ、以上だな……)
野良で生きているネズミの中で有名なドブネズミ、その最大級の体長は25センチメートル(cm)ほどであり、今この部屋へと入ろうとしているネズミの体長は、それと同等以上であると予測できた。
(これは難しい……というか、無理かもな)
俺は今まさに侵入してきているネズミの討伐へと思考を切り替えていたが、あいつの討伐には考慮すべきことがあった。
(まず、あいつ……虫じゃないからな……)
あのネズミはその大きさ以前に、虫ではなく獣であった……すなわち、体の構造が外骨格ではなく内骨格なのだ。
もし、今まで通りフォークで討伐するのであれば、虫ならそいつの外骨格さえ貫いてしまえば、後は外骨格よりも柔らかい肉を貫くだけでいいが、獣の場合は皮膚を貫いたとしても、その体の中に無数に存在する内骨格を貫く必要がある、それに皮膚が柔らかいとも限らない。
つまり、もしフォークで貫けたとしても虫よりも衝撃が弱まるし、最悪貫けない可能性もあるということだ。
さらに、あいつの大きさまで考慮するのであれば、その肉厚な体がフォークで貫くまでの障害になってしまうため、貫通は少々無理がある……というより、おそらく能力の威力自体は奴を貫くに値するが、問題なのは能力の威力ではなく、フォークの耐久性だ。
おそらく、能力の威力とあいつの体の耐久性で板挟みになったフォークが奴を貫くよりも先に折れてしまう可能性があった。
ギギギギッ……ギギギギッ……
俺がフォークでは討伐できないかもしれないと考えている間にも、あいつはその体のほとんどを部屋の中へと入れ終えており、残すは臀部のみとなっていた。
そして……
ギギギギギ…………ギカッ!
遂にあいつはその体の全てを部屋の中へと侵入させた。
この部屋への侵入を果たしたネズミ……一体何をするのか?
カタッ…………カタカタカタカタ
あいつはこの部屋の隅……俺が用意した餌が置かれている場所へと一目散に駆けだした。
あいつの侵入目的など、俺が用意した餌に決まっている。
カタカタカタカタカタ
ネズミは餌へと素直に誘き寄せられる。
カタカタカタカタ……
そして、餌は目の前、もう直ぐありつける……
その瞬間……
「まあ別にお前が来たから、どうということは無いがな」
ドヂュバッッ!
ネズミは忽然とその姿を消した。
消える瞬間にあいつがいた場所から鈍い音と甲高い音が同時に響いた。
その場所には"棚"が置かれていた。
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