第06話 不自然な動きたち
(この体、動かんのだ……マジで異常なほど)
俺は、一切、腕を持ち上げることができなかった。
(くっ!……はぁ……はぁ…………やっぱ、だめか……)
今まで、体を動かそうと、様々な体の部位で試しているが、ほとんどの部位で成功していない。
確かに、人間の赤ん坊は、身体機能において、未成熟な部分が多くある。
だとしても、今の俺の体は、あまりにも動けなさすぎる。
産まれたばかりの赤ん坊でも、体を少しよじらせたり、差し出された指を握れたりする。
しかし、今の俺には、そういったことができない。
差し出された父親の指を握れなかったし、体をよじらせることもできなかった。
文字通り「微動だにしない」という言葉が、今の俺には当てはまっているだろう。
(なんで、動かないんだろうな……やはり、神経とか、脳の障がいとか、か?)
(障がい……にしては都合が良すぎる、という感じがするな)
俺は、体を"ほとんど"動かすことができないが、体の"全て"が動かない、というわけではない。
パッ……パッ……キョロ……キョロ……
俺の口が開閉を繰り返し、眼が上下左右に動く。
(この動きはできる……)
眼球や顔、喉や肛門、胴体の一部の筋肉、心臓、その他の内臓……などは、普通に動かせるし、動いている。
喉や肛門、腹部の一部は食事と排泄に関わる動き、心臓やその他の内臓は自律神経による動きになっている。
そして、それらの動きには、一貫して、俺の生命維持に必要な動きである、という点が共通している。
(この体に障がいがあるというのなら、生命維持に必要な動きを都合良く、全てできていることが、不自然、というか、なんというか……)
俺は、自分の体の状態に、言いようのない疑問を感じる。
(で、生命維持に必要な動きができる、というだけならまだしも、顔の筋肉や眼球の筋肉などの、最低限の生命維持に必要ではない動きができることにも、なんか……不自然なものを感じる)
(まあ、赤ん坊ができるコミュニケーションの方法は、泣くか、表情を変えるか、くらいしかないし、もしかしたら、そういった面で生命維持に必要、と言えるのかもしれないな)
(だが、もし、そういった面も含めて、生命維持に必要な動きができるのだとしたら、余計不自然さが増すな……ここまで、生命維持に必要な動きだけができることに)
(なんか、余計、今俺のの体に対する重大さが上がった気がするな。まあ、でも、いま何かできることがあるわけでもないし、体のことについては、経過観察をしつつ、追々原因や対応を決めればいいだろう)
(母親と父親も、一応このことについて、考えてはいるみたいだしな)
(そして、俺が赤ん坊になっている、という状況の原因について俺が最初に考察した、前世説と夢説……おそらく、前世説、もしくは、それに近い状態である、と考えていいだろう)
(夢だった場合、7日間は長すぎる。そして、その7日も、しっかりと実感の伴った時間だった。……やはり、前世説、かな……)
俺は、現在の状況が夢では無く、現実のものであると実感する。
(現実ならば、もう少し……長期、的な……かんが……えも、必よう……か、な…………)
スゥ……スゥ……スゥ……
突如、俺は、赤ん坊故の、抗いがたい突発的な眠りに負けた。
……パチ
目を覚ます。
(…………夕方……いや、日没か……)
ほとんど動かない体とは対照的に、眠りから覚めた俺の思考は加速する。
(これから夜、か……夜は新しい情報が入ってこないから、現状の考察と妄想くらいしかできないんだよな………………ん?)
頭が眠りから覚める中、俺は、視界の端に、"何か"を捉える。
(ん?なんだ?一体何が……)
視界の中心に、その何かを持ってきた瞬間、俺は眠りから超高速で覚めた。
(あ……)
ゥネ……ウネ……ウネウネ……
黒の仇敵が、そこにはいた。
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