第55話 分かれた体は生物にあらず?
ストッ、ストッ
奴は真ん中からその体を2つに分断された。
それによって、フォークに捕らわれることは無くなったが、明らかな致命傷であった。
(……っ)
俺は床に落ちた奴の2つの体を確認すると、直ぐにその2つの体へと能力を直接使った。
…………
フワ……
すると、不可思議な現象が起きた。
俺は、奴の2つに分断された体を、両方とも動かそうと能力を使った。
その結果は、頭部を含む体の方は動かせないのに、もう一つの体の方は動かすことが出来たという結果になった。
(ん?なんだこれは……)
俺は、その結果を見ると、それについて思考を深めた。
(後ろの体は動かせるのに、頭の方の体は動かせない……もしや)
……カサ、カサ、カサカサ
俺は、動かすことのできた後ろの方の体を使って、頭部を含む方の体を突いた。
すると……
……チ……チ……ヂチ
頭の方の体から微かにだが、音が発せられた。
それは、奴がまだ生きていることを意味していた。
ヒュンッ
俺はそれを理解すると、もう一度フォークに対して能力を使った。
そして……
ビジュッ、ビジュッ、ビジュッ、ビジュッ、ビジュッ
奴の頭部を含む体の方を滅多刺しにし始めた。
ビジュッ、ビジュッ、ビジュッ、ビジュッ、ビジュ…………
そして、10回ほど頭部や胸部などの急所部分を刺すと、それをやめた。
そして、もう一度、頭部を含む体の方へと能力を使った。
フワ
俺は奴の両方の体を浮かばせることに成功した。
それは、奴が今度はしっかりと死亡したことを意味していた。
(なるほど)
俺は納得と共に、わずかな暖かさと涼しさを感じていた。
ヒュゥゥゥ……
俺は能力を使って、分断された奴の体を2つとも目の前へと持ってきた。
そして、先ほどの不可思議な現象を思い起こしていた。
(さっきのあれ……奴はまだ生きていた、だから頭の方の体は動かせなかった……しかし、後ろの方は動かすことができていた……つまりこれは)
俺は予測を立てる。
(能力で動かす対象が生きていたとしても、その対象から離れた部位なら動かせる……そういうことか)
先ほど、奴は体を切断されたはいたが、息絶えてはいなかった。
しかし、その切断された片方の体は俺の能力によって動かすことができていた。
つまりこれは、生きている生物であったとしても、その生物から分離した部位であれば能力の対象になる、ということではないかと俺は思う。
(さっき見た時は驚いてしまったが、これはなにも今日初めて見たことでは無いな)
俺はベッドに敷かれた布に目を向けると、その中で見つけたものに能力を使った。
それは俺の髪の毛であった。
(これは俺の髪の毛だ。この髪の毛も俺の体の一部だったが、俺という生物から分離した部位、と言えるんじゃないか?)
奴の体の分離は、そのまま体が半分になってしまう、というものだったが、もっとスケールを小さくすれば、俺と俺の髪の毛も同じような関係なのではないか?ということだ。
それなら、別に驚くようなことでも無かったと言える。
(だが、奴の場合だと別の問題があるんだがな……まあ、奴は頭の方が"奴"だと言えるかな)
俺は先ほどの不可思議な現象について考えることをやめると、目の前に持ってきていた奴へと目と意識を向けた。
(というか……マジで、デカいな……)
改めて、間近で見た奴の大きさに、俺はまたもや驚いてしまった。
俺は奴の大きさを見るために、奴の体全体を概観していたが、その視線を奴の背中の部分へと向けた。
ヒュ……ガサササッ
俺が奴の背中の部分へと能力を使うと、その背中が開き、収納されていた翅が出てきた。
どうやら、この大きさで飛行まで熟すらしい。
(……これが飛んでいたら、さすがに取り乱したかもな)
俺は奴が飛んでいたかもしれない可能性に怖気を感じていた。
クルッ
次に、俺は奴の体を半回転させた。
すると、俺の目には奴の腹側の方が見えていた。
それを見た俺は……
(なんか……ごちゃごちゃしていて、キモ)
単純に気持ち悪さを感じていた。
(いやいや、そうじゃなかった……これほどの大きさの個体だ。変異体だったとしても、何かしらこいつから分かることがあるかもしれない。それをしっかり調べなければ……)
俺がこいつを観察し始めたのは、こいつの巨大という異常性が原因である。
こんな個体が俺の前に現れた、という事実は俺は今どこにいるのか?ということを突き止める手がかりになる可能性さえある。
(まあ、俺は昆虫博士じゃないから、黒い奴の生息域とかはほとんど知らないがな)
俺は生物に関する自分の知識が乏しいことに、今だけは悔やむ気持ちがあった。
そして、俺は奴の腹部を観察し始めた。
(…………ん?)
すると、さっそく気になるところを発見した。
(これは確か……尾肢、だったか?)
俺が気になった部位は、尾肢と呼ばれる、風や音などによる空気の振動を感じる機能を持っているとされる部位であった。
奴の尾肢は奴の大きさに見合うほどの巨大さではあったが、それは奴の大きさからすれば、なんら変なことでは無かった。
ではなぜ、俺はその部位が気になったのか?
それは……
(尾肢が……1、2、3……)
タッ……タッ……
(っ!)
俺が奴の尾肢を観察していると、突如廊下から足音が響いてきた。
(そろそろ時間か!)
俺はその足音が母親のものであることに気づいた。
しかも、その足音が自分の部屋へと向かっていることにも気づいた。
俺は奴の観察を即座に止めると……
チ、チチチ、チゥゥゥ……
奴を目の前に持ってくる時に一緒に持ってきたフォークに付いていた奴の体液や肉片を能力で取り除いてから回収し、さらに、この部屋の廻り縁や柱、床などに付いてしまった奴の体液や肉片も回収した。
チゥ、チゥゥゥゥゥゥ……
そして、回収した体液や肉片を奴の体の中へと戻すように入れ込んでいった。
チゥゥゥゥゥゥ……チチゥ
そして、回収した体液や肉片を全て、奴の体へと入れ終わると、俺は奴の真っ二つになってしまった体を、繋ぎ合わせながら、元の1つの体へと戻していく。
グヂュ、ガサガサ……ジュジィユグジジ…………
奇怪で不快な音を立てながら、奴の体が繋ぎ合わされていった。
(…………よし)
そして、傷が目立たないくらいまで、奴の体を修復できたことを確認すると……
ヒュゥゥゥ……ヒュンッ
外へと繋がる隙間から奴を投げ捨てた。
……パキッ、キキキ、キュキッッ
そして、息つく暇もなく、次はフォークに能力を使って、その形を変形させた。
変形したフォークの形は以前討伐に使ったフォークと同じ木の枝型であった。
ヒュゥゥゥ……
俺はその木の枝になったフォークも外へと繋がる隙間へと持っていくと……
ブヒュンッッッ!!!!!
奴を外に投げ捨てた時よりも、力を思い切り込めて外へと投擲した。
投擲の数瞬後……
「スイ~ご飯の時間よ~」
母親が部屋へと入って来た。
「……うん」
(間に合った……)
俺は母親に何ともないような返事をしつつも、内心では後処理が間に合ったことに安堵していた。
「スイ~今日はご飯の後にこの部屋を掃除するからお願いね~」
どうやら、今日は食事の後にこの部屋を掃除する日であるらしい。
(ふぅ……奴を残さないで置いてよかった……)
俺は奴の死体を外へと捨てずに食事の後に奴の観察をする、という選択肢もあった。
しかし、両親は不定期でたまにこの部屋を掃除することがある。
だから俺はそれを危惧して、直ぐに奴を捨てる選択を取ったが、それが結果的に正解であったことに安堵していた。
「今日はお肉入りよ~スイ~」
母親は今日の離乳食のレシピを暢気に教えてくれていた。
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