第52話 風と角度で知る
俺はこの半年間で、今までの状況を知るための情報を入手していた。
しかし、その情報は真相を究明するほど劇的なものではなかった。
最も知りたいこの村の場所について、予測をしたはずなのに、疑問が残る結果となってしまった。
そんな俺はついさっきまで、能力の持久力検証をやっていた。
「やっぱり、あの時から変わらないな」
俺は持久力検証の結果が、以前1ミリメートルほどの向上というわずかな変化が起きた時の結果と、その日から今さっきまでの全ての持久力検証の結果は同じであった。
「まあ、いつものことだし……次の瞬発力検証をやるとするか」
半年間も変化が無いせいで、それが日常になってしまっていた俺は、さっさと次の検証に移ることにした。
コッ………………
壁に組み込まれていた木の板が空中へと浮遊した。
俺が今からやろうとしているのは、この能力の最大出力を瞬発的な力の方面から調べる、瞬発力検証である。
これは以前、黒い奴が現れたせいで中断させられた検証でもある。
そのやり方は、まずこの部屋の壁から都合よく剥げていたA4サイズほどの木の板を、天井と床の間くらいの高さの空中に持ってくる。
そうしたら、木の板の一辺を天井と床と"垂直"になるように固定する。
次に、俺がいつも使っている掛布団の布をA4サイズほどになるように折り、木の板がある高さと同じくらいの高さで、木の板からは2,3メートルほど離れた空中に持っていく。
そうしたら、布の一辺を天井と床と"平行"になるように固定する。
最後に、垂直に固定した一辺を軸にして木の板を全力で高速回転させる。
すると、木の板の回転で生じた風が、空中で固定された布の元へと届き、布は一辺が平行に固定されていることによって床に向かって垂直に垂れていたが、その風に押されて垂直であった角度を変える。
俺は、発生させた風による、布の垂直の状態からの角度の変化、布の揺れ具合、などを見て、能力の瞬発力を測っている。
検証中は、この部屋の空気も動かして、木の板と布の周囲を万遍なく囲み、その空気を圧縮させ、さらにその圧縮空気を振動させる。
そうすることで、この部屋に入ってくる隙間風が布に影響を与えることを防止できる。
ただし、それよりも重要な目的は、木の板の回転音を圧縮した空気で捕らえて、圧縮空気の振動によってその音を軽減させることにある。
そうしないと、木の板の回転音から発せられる音が大きすぎて、部屋の外に響き渡り……まあ、考えなくても分かると思うが、えらいことになる。
ヒュゥゥゥゥ……
「んん……」
木の板が高速回転したことで発生した風に吹かれて布が揺れている。
俺はその布を観察していた。
「……いつも通り、だな」
その結果はいつもの通りの、変化無しであった。
以前、持久力がわずかに向上した時、瞬発力もその時に変化したかどうかを検証した。
しかし、その結果は変化無し……というより分からなかった。
この瞬発力検証は、回数と壁の目盛りを使える持久力検証と違って、その測定方法が俺の目利きに大きく左右されているせいで正確とは言い難い方法になっている。
なので、変化がある時には、その変化がある程度大きなものでないと、その変化が分からないのだ。
そして、瞬発力検証の結果は今回も変化無しであった。
「んん……はぁぁ……んん……」
この村に関する情報は期待以下。
能力は分からないことだらけ。
どちらとも、足踏みをしているような状況であり、俺は思わず唸りやため息をしていた。
(能力はそもそも、得体の知れないものだから、その情報が全然掴めないのは当たり前のような気がするけど……)
(村の情報……つまり俺の現状を把握できるような情報くらいなら、さくっと手に入ると思ったんだけどなあ)
俺は心の内で、心情を吐露していた。
(まあ、今は村長の家に行けていることが特例だと感じるほど、今の俺の行動はこの体の年齢に応じて制限されているからな……)
(とりあえず……積極的に色々するにはするが、焦燥感には駆られないようにする、というこ…………)
その時……
俺の思考と、眼球はその動きを硬直させられた。
俺が視線と思考を釘付けにされてしまったのは、俺の視界にまた黒い奴が映っていたからだ。
だが、俺が黒い奴と会うのは、これでもう3回目のことだ。
不意に遭遇したとしても、そろそろ慣れても良い頃だろう。
「…………」
しかし、俺のリアクションは1回目と2回目の時と同じ……否、それ以上の反応であった。
それは何故か?
それは、奴があまりにも……
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