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第50話 帰属意識が無ければ国を知らない

 コットッコットッコットッコットッコットッ……




 部屋の中で軽快(けいかい)な音が鳴っていた。


 コットッコットッ……コットッ……コッ……トッ……コッ…………トッ……………


 そして、その音は徐々に軽快さを失い、最後には音が途切れてしまった。


「1753……と、少し……特に変化なし」


 俺は先ほど村長と家の前で別れてから、家の中に入ると、そのまま自分の部屋へと戻った。


 その後、日課の能力の持久力検証を始め、丁度(ちょうど)今終わったところであった。


 そして、能力の向上は、以前に変化した時から、変わっていなかった。






 俺はこの半年間、村長に本を読めるようにしてもらいながら、読み書きについても教えてもらっていた。


 そして、その過程で読み書き以外のことも教えてもらっていた。




「ここってどこ?」


 ある時、俺は村長へと質問した。


「ここ……とは?」


 村長は俺の質問が理解できなかったようで、詳しい説明を求めてきた。


「僕たちが住んでいるここら辺のこと」


 俺はその要求に(こた)え、説明を加えた。


「ああ、そういうことね」


 村長は俺の質問を理解できたようだ。


「ここはね……」


 村長が答えを告げる。


「メイシュウだよ」


 しかし、その答えは納得できるものでは無かった。


「?」


(メイシュウ?どこだよ……)


 俺は、思わず疑問顔を浮かべてしまった。


「メイシュウ……って何?」


 俺は聞き返すことにした。


「メイシュウはね……さっきスイが質問してきた、スイや私、リコ、スゥ達が住んでいるここら辺の場所の名前だよ」


 村長は説明してくれた。


「ちなみに、このメイシュウで一番偉いのが私なんだ」


 村長は冗談(じょうだん)()じりに胸を張る。


「分かった」


 俺は「メイシュウ」が何であるのかを理解した。


(メイシュウがここら辺……否、この村の名前で……この(メイシュウ)統括者(とうかつしゃ)()しくは代表者の地位にいるのが今目の前にいる村長(ハツィ)なのだろう)


 俺は頭の中で村長の言った事を整理した。


(というか……今まで、村長(ハツィ)のことは便宜上(べんぎじょう)、頭の中で"村長"と呼んでいたが、ここが"村"なら、本当にその通りかもしれないな)




 だがしかし……


 俺が真に聞きたいことは、村の名前とかではない。


「メイシュウはどこにあるの?」


 俺は真の答えを求めて、村長へと追加の質問をする。


「ん?…………」


 俺の質問を聞いた村長が、若干(じゃっかん)考える様子を見せる。


「ああっ」


 そして、直ぐに思いついたような顔になると……


「スイの家や私の家にとってのメイシュウみたいな場所が、メイシュウにもあるんじゃないのか?そういうこと?」


「そういうこと」


 どうやら、俺の聞きたいことを理解してくれたようだ。


 メイシュウが村……ここら辺の小規模な地域であることは何となく分かった。


 だが、世界はその村だけで完結しているということは無い。


 メイシュウが村なのだとすれば、その村が属する、県や州がほとんどの場合あるはずである。


 そして、さらにその県や州を抱える"国"があるはずだ。


 俺はそこが知りたいのだ。


「メイシュウはね……アーテスのメイシュウだよ」


 村長は俺の質問に答えると、さらに続ける。


「アーテスはね、メイシュウみたいなところを沢山(かか)えているところだよ。私の家やスイの家にとってのメイシュウが、メイシュウにとってのアーテスだよ、分かった?」


「うん、分かった」


(このアーテスというのが、メイシュウが属する県や州の名前かな)


 俺は村長からの答えに理解を示した。




 だが……


(それだけだと分からない)


「アーテスはどこにあるの?」


 俺が本当に聞きたいのはここである。


 アーテスが県や州なのであれば、基本的にそれを抱える国が存在するはずである。


 そして、その国には必ずと言っていいほど、"国名"が存在するはずだ。


 つまり、俺が知りたいのはその国名である。


 俺は前世の肉体から、今のこの肉体へと(うつ)った。


 では、その移った先はどこなのか?


 俺は、自分が今世界のどこ、どの地域にいるのかを知りたかった。


 それを調べるのに、真っ先に思いつく上、効果的なのが今いる国が分かることだ。


 そのために、俺が国名を聞くのは必至(ひっし)のことである。


「アーテスがどこにあるのか?んん……」


 俺の質問を聞いた村長の顔は疑問顔であった。


 しかし、その顔は先ほどみたいな、質問の意味が分かっていない疑問顔では無かった。


 その顔が(しめ)している村長の考えは……


「……ごめん。私はアーテスがどこにあるのか知らないんだ」


 答えを持っていない、ということであった。


「分からないの?」


 俺は答えを持っていない村長に、確認するように質問する。


「うん、そうなの。ごめんね。……メイシュウやアーテスの外には、色んな場所があるって聞いたことはあるんだけど……私はメイシュウから出たことが無いから……」


「そう……」


 俺の質問は、その目的を果たせずに終わった。




 俺が村長に聞いた話をまとめると……


 村長は自分が住んでいるメイシュウという村と、その村がアーテスという県()しくは州に属していることしか知らなかった。


 ちなみに、村長は「メイシュウは"村"である」とは言っていない。


 それでも、俺がメイシュウを村であると考えているのは、実際に住んでいる感覚と村長や両親の話から考えれば、メイシュウは村と考えても()(つか)えないだろうと思ったからだ。


 話を戻すが、俺は結局、村長からこの村が存在する国の国名を聞きだすことができなかった。


(まさか、自分の住んでいる国が分からないとは……いや、あの文明レベルだ……彼らの政治思想(せいじしそう)や意識も当然それに比例するか……)


 人間の文明と政治は、その全てが連動(れんどう)する訳ではないが、確かに影響し合っている。


 人々が国民としての意識を持ち始めたのは、科学が急激に発達し始めた近代に入ってからであり、それまで人々は国民ではなく自分たちが住む地域や自分たちの民族、部族としての意識を持っているに過ぎなかった。


 その国に住んでいても、その国に属している意識は薄い、()しくは無かったのだ。


 つまり、村長も(メイシュウ)県若しくは州(アーテス)帰属意識(きぞくいしき)はあっても、国には無い、だから国の事については知る機会が無かった……という感じかもしれない。




(村長がどういう理由で知らないにしろ、結局国名は分からなかった……だが)




 ここがどこなのかを推測できるかもしれない、別の情報も手に入っていた。

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