第05話 短いろうそく
それは、俺が、夜中に母親を呼びつけた時のことだった。
(呼びつけた理由?そんなの、糞が漏れて不快だったからに決まってんだろ)
俺は、この体になってから、一度として、トイレに行っていない。
(なんで行かないのか?そりゃあ、赤ん坊が律儀にトイレへ行くわけないからな。そして、そのことを、父親と母親も当然の摂理だと思ってる)
(だから、仕方なく、全ての糞尿は下半身と服の間に、垂れ流すしかないんだよ)
俺の中にあった垂れ流しに対する抵抗感は、出産から1日で消え失せ、俺は、垂れ流しを受け入れた……否、受け入れさせられた。
閑話休題
それは、俺の泣き声に呼びつけられた母親が持っていた、ろうそく、だった。
その時には、既に、俺は周囲の文明レベルが低いことに、薄々感づいていた。
だから、母親が灯りとして、ろうそくを持ってきたことに思うところはあっても、特段気になることはなかった。
だが、俺が異変に気付いたのは、母親が、お漏らしで汚れた俺の服を取り替え終わり、部屋を出ていく時だった。
母親の持ってきたろうそくが、母親が部屋にやってきた時よりも、短くなり過ぎていた。
あのろうそくの長さと太さであれば、溶けて無くなるまでに、一時間はかかるだろう、と俺は思っていた。
だが、体感で15分も無かった母親の部屋での滞在時間で、あのろうそくは、ほとんど溶けて無くなっていたのだ。
(おそらく……あれは、あのろうそくの品質の問題、だろうな)
ろうそくに何かを混ぜて、燃焼の勢いを上昇させた可能性もあるが、わざわざ火を強める必要も無かっただろう。
なので、この件に関しては、ろうそくの燃焼効率が低劣なものだったから、と俺は考えた。
そして、あのろうそくは、ここの文明レベルが低いことの、一つの裏付けになる、と俺は考えた。
俺の周囲には、電気が無く、灯りにはろうそくが使われている。
それらから推察できるように、俺の周囲では夜を照らさない。
つまり、ここでの夜は、正真正銘の真っ暗闇なのだ。
だからなのか、日が照っている時間に感じる生活の気配は、日没とともになりを潜め、日没から体感で一時間もしないうちに、ほとんど無くなる。
つまり、母親と父親は、日の出とともに起床し、日没とともに眠る、という電気の光が存在していなかった、昔の人間のような生活をしていると考えられる。
(なんで、こんな生活をしてんだ?「自然に帰ろう」みたいな思想家か?それとも、ここは、とんでもないほどの発展途上地域なのか?)
(それと、文明レベルも十分謎だが……一番の謎は…………"俺の体"だ)
「ぶ!……ぶぅ!……ぶぅっ!!」
(ふ!……ふっ!……ふぅぅ!!)
俺は、自分の腕を持ち上げようと試みた。
だが……
(ふんっ!!……はぁ、はぁはぁ)
(はぁぁ…………この体、動かんのだ……マジで異常なほど)
俺の腕は、一切動かなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この作品を応援している!」
と思ったら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!
あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!
ブックマークもいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!