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第48話 この愛、意味が分からない

(たまわ)る愛は退(しりぞ)かれ、(ふく)する愛は(かさ)ねられ、(おご)る愛は(みちび)かれ……そんな愛は朧気(おぼろげ)で」




 部屋の中に、俺の小さな口上が響く。


「なるほど」


 パタンッ


 俺は目の前に広げられていた本を閉じた。


 そして……


「分からん」


 俺が先ほど述べた口上……本に書かれていた文章についての感想を(ひと)り呟いた。




 俺が村長に家に訪れてから、半年ほどが経過していた。






「んん……」


 俺は今閉じた本の革をぼんやりと(なが)めながら、先ほどまで読んでいた一文について考えていた。


(全く分からん……という訳じゃないんだが……)


 俺は、先ほど呟いた一文、その全てが分からないという訳では無かった。


(直接的とか直喩(ちょくゆ)的な意味だったら、分からない……ということは無い)


(たまわ)る愛は退かれ」


(もらう愛は(ないがし)ろにされて)


 (ふく)する愛は重ねられ


(忍ばせる愛は繰り返されて)


 (おご)る愛は導かれ


(主張の強い愛はどこかへと導かれて)


 そんな愛は朧気(おぼろげ)


(これら3つの愛は不安定で不確実なもので)


 といった具合に要約することはできていた。


 ただ……


(一体何を言いたいのか伝えたいのか……それが分からない)


 簡単に言えば、俺はこの一文から隠された意味や何かを例えているとか、そういった直接的には書かないけど書き手が伝えたいもの、みたいなことをイマイチ……否、全然読み取れていなかった。


(んん…………)


 俺はその文章を飲み込むどころか、噛むことすらできていない……そんな気分だった。


(そして……こんなのが…………はぁぁ)


 俺は目の前の本のことを考えて、落胆してしまった。


(これじゃなくて……もっと、他のがあっただろ……)




 俺は産まれてから直ぐに、周りの情報を手に入れることに邁進(まいしん)していた。


 そんな俺にとって、有効な情報収集源は何か?


 そんなの単純明快。


 本かインターネットだ。


 ()しくは、有識者、という情報源も該当するかもしれない。


 俺が欲しい情報をくれる、そんな人物ことだ。


 だが、それは俺にとって都合よく教えてくれる人物がいればの話だがな。


(いや、もしかしたら村長が当てはまるかもな)


 俺はこの3つの情報源の候補から、本を選ぶことにした。


 それはなぜか?


 まず、今の俺や両親、村長が住んでいる場所の文明レベルから、インターネットは無い可能性が高いと考え、除外した。


 有識者は可能性としては残っているが……じゃあ、誰から教えてもらうのか?そうなった時に、その相手を探す必要がある上、それは相当に面倒で、苦労したとしても見つからない可能性が高い。


 ならば、有識者に関しては、(めぐ)り合わせに期待して、自分から探すという選択肢は取らないことにした。


 であれば、残るは本だけだ。


 本はインターネットとは違い、古代から存在する情報媒体(ばいたい)だ。


 それが近くにある可能性は十分にある。


 では何故、そもそも本なのか?


 本があれば、誰かに聞かなくても何かしらの情報を手に入れることができる上、その情報には自分の五感では届かないような遠い場所に存在する代物(しろもの)も含まれている可能性が高い。


 だから、人から聞くこと以外で、情報を集めるのであれば、本は王道の手段であり……情報収集を目標にしている俺が本を欲するのは必然であろう。


 では実際に、本を探すとなった時、俺はどうしたか?


 俺は村長の家に行くことにした。


 なぜ、村長の家に行く必要があったのか?


 そんなの……俺の両親が本を持っているとは思わなかったからだ。


 そう思ったのは、別に昨今(さっこん)の紙離れと電子化を両親が取り組んでいると思ったから、とかではなく……そもそも両親はそんな話をできないどころか、それ以前の文明にいると思ったからこそ……両親は本を持っていないと思ったのだ。


 つまり、両親の文明レベルでは最悪の場合、本を持つことさえできていないのではないかと思ったから、そういうことだ。


 別に、絶対に持っている訳が無い、と思った訳ではなく、持っていない可能性が高い、と考えたのだ。


 だからこそ、村長という外部の人間が来たのは好機であると考えて、あの場で村長に「あなたの家に連れて行って」と言ったのだ。


(まあ、急に、それも初めて外部の人間が来たものだから……あの時は頼むときの言い方が変になってしまったけどな)


 しかし、本来の目的は本を読むことであり、他人の家に行くことではない。


 では何故、村長に対して「あなたの家に連れて行って」などというお願いをしたのか?


 それは、俺が「本を読みたい」と言えないからである。


 まず、そもそもあの時は"読む(Rubt)"という言葉を知らなかった。


 その上、本を"見たい"という表現をしても、本や文字の存在などを知る(よし)も無かった俺が、そんなことを言えるわけが無いのだ。


 だから、「あなたの家に連れて行って」なんていう婉曲(えんきょく)的な頼み方になってしまったのだ。


 だが、結果的には村長の家に行って本を発見し、見ることができた。


 さらに、その後両親から許可をもらったことで……村長から本を読むために必要な読み書きまで教えてもらえることになったのだ。


(はっきり言って……大変、都合がよろしい)


 そして……そこから半年が経った。


 俺は今……




「んん……」




 本に書かれた文を読み、その内容に頭を(めぐ)らせ……否、悩ませていた。

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