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第46話 題名を教えてほしい

 この本を発見した時から、村長によって開かれるまで、俺は何度も本の表紙を見ていた。


 しかし、その本の表紙は何も書かれていない、一点ものの革が見えるだけであった。


(書ける……若しくは()れる技術とか……文化とかか?)


 この本の表紙に何も書かれていない理由は、思いつく限りでも色んな想像ができる……が、今は結論が出そうにないので、これ以上は触れないでおく。


 そして、そんな何も書かれていない表紙の本が……




 ファバッ!




 村長の手によって開かれた。




(……書いてあるな)


 開かれた本の中身……その1ページ目には、表紙と違い、しっかりと何かが書かれていた。


 書かれているものは、とても短かった。


 そして……


(読めない)


 俺はその書かれている物が意味するものが全く分からなかった。


(まあ……仕方なし。話すことと聞くことはできるようになったが、これは……)


 俺が思考を巡らせていると……


「これは、"buxe"というものだよ」


 村長が俺へと話しかけてきた。


「Buxe?」


 俺は思考を中断し、村長の言葉を反芻(はんすう)しながら、聞き返した。


「buxeというのは、私たちが今喋っていることを、見えるようにしたもののことだよ」


「分かった」


 追加の説明を聞いた俺は即座に、理解したことを伝えた。


(なるほど……"文字"のことは"Buxe"と言うわけか)




 この部屋に入って来てからの最初の発見は、木の板であった。


 否、その木の板に書かれているもの……文字であった。


 そして、その文字は今見ている本の1ページ目にも短くではあるが、書かれていた。


 俺は、木の板の文字を見た時と同じく、この文字を見た時にもそれが文字であることを瞬時に悟った。


 しかし、その文字が何を意味するのか?だけではなく、その読み方すら俺には分からなかった。


 それも当然、俺が今話している言語の聞きと話しに関しては両親から学んだが、読み書きに関しては、この体に生まれてこの方文字を一度も見ていないのだから、できるはずがない。


 しかし、それも過去の話……


 今まさに、文字と対面しているのだから。




「スイ……やっぱり、君は天才だねぇ」


 1歳児相手で無ければ……いや、1歳児だとしても、(おだ)てているようにしか聞こえない発言を、村長がしてきた。


 しかし、その様子には、素直な感心と関心しか見られなかった。


 どうやら、俺の理解の早さからの発言だったようだ。


(結構、手放しで()めてくるんだけど……本当は理解してないとか考えないのか…………いや、1歳児が嘘をつくことなんか無いか)


 俺は村長からの称賛を最初は怪訝(けげん)の感情で受け取るが、直ぐに納得して飲み込んだ。


 そして……


「このBuxeはなんて"言う"の?」


 未だに、感心と関心の顔で手を止めている村長に、俺は質問を投げた。


 質問をする俺は、本の1ページ目に書かれた文字を指さしていた。




 文字の"言い"方、なんて表現は普通しない……というか、おかしい。


 なのに、俺が今指さしている文字の"言い"方を教えてほしい、と俺は村長に願った。


 どのように読むのか?とか、なんて書かれているのか?、と聞かなかったのは、今まで文字を見たことない俺が"読む"とか"書く"なんて言葉を知っている訳がないからだ。


 だから、"言う"なんていうイマイチ変な言葉を使ったのだ。


 俺の質問に対して村長は……


「"言う"?…………ああ、なるほど」


 聞いた直後は、疑問顔と思案顔になってしまったが、直ぐに納得した表情を見せると……


「このbuxeはね、"weny"と言うんだよ」


 答えをくれた。


「あと……文字を"言う"時は、"言う"じゃなくて、"Rubt"と言うんだよ」


 さらに、俺の言葉の誤りを訂正してくれた。


「"Rubt"」


 俺は村長が言った言葉を反芻(はんすう)するように真似した。


("Rubt"……"読む"という意味だろうな)


 そして、村長が訂正する時に教えてくれた言葉が、"読む"に該当する言葉であることを察する。


 さらに……


「"Weny"」


 俺は、先ほど村長が教えてくれた言葉も真似て言った。


「そうそう、その発音で合ってるよ。それから……」


 俺が真似た言葉を聞いた村長は、俺の発音が正解の音であることを知らせてくれると……


「buxeはね……こういう、感じ、に……区切って……今区切った一つ一つが、一番小さなbuxeの単位になってて……」


 村長は本の1ページ目に書かれている文字を、指で等間隔(とうかんかく)に区切るような動作をする。


「そして、この一つ一つのbuxeを複数個合わせたものが"ysmhp"というものなんだ」


 村長は本に書かれた文字を指で円を描くように指示(さししめ)した。


「で、ここに書かれているwenyはbuxeで構成されたysmhpなんだ。分かる?」


「分かる」


 村長が説明を終了し、俺に理解しているかの確認をしてきたので、俺は理解できたことを即座に伝える。




(なんか……色々とややこしいように聞こえるが、別に難しいことは言ってないな)


 俺は村長が説明したことを整理する。


(Buxeが文字、ysmhpが単語……そう考えれば、普通に理解できる)


 ・文字は、1文字2文字3文字……という風に数えることができる。

 ・文字が複数集まると、単語になる。


 そういう、読み書きの基本を教えているだけだ。


 何等(なんら)難しいことは無い。


 そして最後に、wenyは単語である、ということを言っただけだ。




「分かった?……本当に?結構ややこしいこと言ったと思うんだけど……」


 俺の即答を聞いた村長は、Buxeが文字であることを理解した時とは違い、俺が理解できたのかどうか、わずかに納得できていないようだ。


文字(Buxe)が集まると単語(Ysmhp)。Wenyは単語(Ysmhp)でしょ?」


 1歳児が嘘をつくことが無いとはいえ、俺が理解できたことを完全には納得できていない村長のために、俺はかみ(くだ)いて簡潔な説明を返した。


「うん。そういうこと…………なんというか……すごいな、スイは」


 俺の説明を聞いた村長は俺が理解しているのを完全に納得するのと同時に、唖然(あぜん)としながらも俺のことを称賛した。


 俺は村長の言葉には返事を返さず、本の1ページ目を見ていた。


(先ほどから何度も聞いた"Weny"……おそらく、これは……)


 俺の意識は、1ページ目に書かれたWenyという文字に集中していた。


「Wenyはどういう意味?」


 俺は新たな質問を村長へと投げた。


「っ……Wenyの意味?んん……なんだろ?」


 俺の問い掛けに少し唖然とした状態を保っていた村長は、その意識を明瞭(めいりょう)とさせたが……


 今までとは違い、歯切れの悪い返答を返してきた。


「んん……wenyの意味は分からないね」


 そして、考えがまとまったのか、俺の質問に対する答えを明確に述べたが、その内容は不明確であった。


「wenyはこの本の名前みたいなものなんだけど、そこに意味があるのかについては、私では分からないんだ」


 俺が(たず)ねた質問に対して……Wenyの意味には答えが明確には存在しない、と村長は答えた。


(やっぱり、Wenyはタイトルだったか。それなら意味が分からないのも納得だ)


 答えの不明確さに相反(あいはん)して、俺の心は納得していた。


("本の名前みたいなもの"というのは、本のタイトルということだろう……タイトルが意味不明の本なんて腐るほどあるからな、まあ作者にとっては何かしらの意味があるのかもしれないがな……)


「分かった」


 不明確な答えをしてしまった村長に対して、俺は溌溂(はつらつ)とした返答を返した。


「え……本当に?なんか気持ち悪くない?」


「別に……だって意味が分からないんでしょ?それならしょうがない」


「しょうがない…………」


 村長は俺の返答によって固まってしまった。




(まあ、気になるか気にならないかで言えば、気になるけどな……なんにせよ、読めば分かることだ)


 俺は1ページ目に書かれたWenyを見ながらそう考えていた。


(ん?)


 しかし、思考が進む俺とは違い、対面に立っている村長はその体を未だに固めていた。


 俺はそんな村長に……


「これだけ?」


 催促(さいそく)した。


「……っ」


 俺の声が届いた村長は固まっていた体を動かし始めた。


「えっ……あっ、ああ。もちろん、他にもあるよ」


 そう告げた村長は、1ページ目の(はし)()まむと……




 ベラッ




 2ページ目を開いた。

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