第42話 感動は予想されていた
カァァァァ……
土間の壁の一つが光に……否、"玄関"の扉が開いた。
村長がこの家の玄関の扉を開けたことで、玄関が光に包まれるだけでなく、続く廊下にも光が差し込んでいた。
「じゃあ、行こうか」
そして、扉を開けた村長は既にこの家には居らず、"外"へと出ていた。
「…………」
村長の言葉を聞いたと同時に、俺の視力は強まっていた光の影響を脱し、光以外のものを捉え始めた。
ササァァァァ……
近くで揺れる草と低木、遠くで揺れる木、それらの葉が擦れる音。
チュゥゥ……チュチュチュンッ
どこかから聞こえる鳥の泣き声。
ヒュゥゥゥゥ……
時候を知らせる冷たい風。
(…………ド、)
そんな景色と雰囲気を感じ取った俺は……
("ド"田舎、だ……)
感動はあまり感じていなかった。
(やっぱり、田舎……予想通りのド田舎だ……)
ジャ……ジャ……
俺は玄関で止まっていた足を、家の外の世界へと進めた。
玄関から家の外に出たことでもう少し詳しい外の情報が入ってきた。
玄関から出た所は、固い土の地面になっており、その土は玄関から半円状に半径5メートルほど続いていた。
そして、半径5メートルの半円の土の先には、柔らかそうな土の地面……畑が広がっていた。
(まあ、驚くことがあっても困るかもしれないし……田舎で良かった、と言うべきかもな)
家の中に居た時から、俺はある程度外の世界がどのようになっているのか予想は付いていた。
そして、その予想は、外の世界は田舎風景だろう、というものであった。
田舎の良し悪しはこの際省くとして、この場合困るのは予想と外れたものであるということだ。
ここが都心にあったり、全く別の場所にあったり……そんなことになったら、一体この家と両親は何なんだ?ということになってしまう。
それが裏切られなくて、俺はある意味ほっとしている。
「さっ、行くわよ」
俺が、外の世界に安堵し、玄関から一歩出たところで突っ立っていると、村長が出発を宣言してきた。
ジャ……ジャ……
そして、村長は玄関から出た所にある固い土の地面のエリアを歩いて抜けると……
ジャ……ザッ……ザッ……
畑の中にか細く存在する、この家とどこかしらを繋いでいる畦道を歩き始めた。
ジャ……ジャ……ジャ……
そんな村長の宣言と出発を見た俺は歩き出し……
ジャ……ザッ……ザッ……
俺も村長の後を付いていくように畦道を歩き始めた。
畦道を歩き始めた俺と村長の後に続くように、後から外に出てきた両親も、俺の後ろから付いて歩き始めた。
ザッ……ザッ……
(どこも植えられてないな……あれは、広葉……か?)
畦道を歩き始め、家から遠のくことで、周囲の情報が更新されて新たな情報が入ってきた。
しかし、その情報も家の前で見たものとあまり変わらなかった。
ただし、新たに分かったこともある。
家の前にいる時も、今歩いている時にも、周囲に漠然と広がる畑には土以外には何も見えなかった。
これは、今の季節が既に農作物を収穫し終わった季節なのか、それとも今の時期が休耕期だからであろう。
そして、延々と広がる畑よりもさらに遠くを見ると、見渡す限りで木が畑を囲うように生い茂っていることが分かった。
おそらく、林か森のような場所であり、ここにある畑や俺の住む家が林や森に囲まれている場所であることが予想できる。
さらに、遠目から見ているだけなので正確には分からないが、生い茂っている木の種類が針葉樹ではなく広葉樹のような姿をしているのが見えることから、ここが亜寒帯とかではなく、ある程度温暖な気候であることも予想できる。
(まあ、暑い時期は適度に暑く、寒い時期は適度に寒い……それはあの部屋にいる時から分かっていたことだから、そこからも温暖な気候区分だという予想はできたがな)
そして、そんな林か森に囲まれている畑には……
(……人がいねえな)
人っ子一人見つからなかった。
(まあ、不思議ではないが)
これは、ここら辺に俺と両親しか住んでない、とかそういう事ではないと思う。
畑には農作物が生えておらず、土ばかりが見えることから、今の時期的に、ここら辺に住む人は畑仕事が無く、家の中で仕事や活動をしているため、どこを見ても、外には人がいないのだと思う。
「面白い?」
歩きながら、外の景色の観察と考察をしていると、村長が俺に話しかけてきた。
「?」
俺は村長の質問に対して、疑問顔になってしまう。
そして、そんな俺の様子を見て、伝わらなかったと感じたのか、村長は再度……
「外の景色を見てて面白いの?ってことだよ」
と、説明を加えて再度問いかけてくる。
「うん、面白い」
俺はその質問に対して、先ほどとは違い、即座に肯定の返事を返した。
(新しい情報が入ってくるけど……面白いか面白くないか、で言われたら面白くは……ないな)
俺は村長に面白い、ということを伝えたが、その実、内心ではそう思ってはいなかった。
「んん~」
俺の返答を聞いた村長が得心のいかないような顔をしていた。
「なんか……そうは見えないけどなぁ……」
(!)
村長の懐疑的な返事を聞いた俺は内心でびくりとしてしまう。
びくついてしまったのは、わざわざ声を荒げるほど楽しさを表現したつもりではなかったが、なるべく楽しそうに聞こえるように答えたつもりだったからだ。
俺が村長の態度に不安を抱えていると……
「んん~……まあ、1歳児が気を使ってくることなんて無いか」
村長はそう独り言ちると、彼女の中で自己完結したようだ。
(…………ほっ)
俺は村長の独り言に、ほっとすると同時に、もう少し自然な1歳児になれるようにしようと思うのだった。
ザッ……ジャジャ
それまで畦道を歩いていた村長が固い土の地面のエリアへと入ると、その歩みを止めた。
ザッ……ジャジャ
そして、俺もそのエリアへと入ると、村長の右斜め後ろの位置で立ち止まった。
今まで、畑ばかりが見えていた景色と打って変わり、俺と村長の目の前には……
「ほら、ここだよ」
一軒の"家"が建っていた。
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