第40話 中身有っても理由無し
「なんで来たの?」
女……はややこしいので、便宜上、女のことは村長と呼ぶことにする。
俺は村長へとこの家にやって来た理由を聞いた。
(俺から聞くことにしたけど……こっちの方がいいだろ)
村長がこの家に来たという事は何かしらの要件があるということなのは分かる。
じゃあ、その要件を話し合う時に誰が村長と会話をするのか?
それは、普通俺みたいな幼児ではなく、大人である両親だろう。
しかし、俺はここで村長との会話の主導権を取りに行くことにした。
両親が村長と話している内容を聞いて、情報を手に入れるという方法もあるが、自分から聞きに行けば、俺が欲する情報を手に入れる確率が上がる。
そして、この行動を選べたのは、先ほどまでの会話で俺の早熟さが良い感じに伝わり、俺から積極的に話しかけたとしても不自然では無いだろうと考えたためだ。
(それに、さらなる会話をすることで村長に俺の知性を伝えることが出来れば……)
俺が村長へと話しかけたことについて考えていると……
「なんで来たのか?んん……慣習、いつもやっていること……みたいなものよ」
村長が先ほどの俺の質問に答えてくれた。
「慣習?」
俺はその答えに一旦思考を止め、会話を開始することにした。
「ええ。ここら辺の慣習みたいなもので、誰かの子供が1歳になったら、村長が直接その子に会いに行くことになってるの」
どうやら、今回の来訪の目的は俺であるらしい。
(なるほど、俺が理由なら、俺もこの部屋に連れてこられたのは必然だったな)
俺は自分までこの部屋に連れてこられた理由がようやく繋がった。
「じゃあ、なんで今まで来なかったの?」
俺は村長の答えの中で気になった部分を聞くことにした。
「来なかった……という訳じゃなく、来られなかった、という言い方が正しいかな」
村長は続ける。
「これも慣習なんだけど……その子が1歳になるまでは私も他の人達もその子に会っちゃいけないの……それに、その子の家族にも必要最低限しか会っちゃいけないの」
と、村長は答えをくれた。
「なんで、そんな慣習があるの?」
俺はさらに疑問を上乗せする。
しかし、その疑問には……
「んん……そういう決まりだから?」
気持ちの良い答えはくれなかった。
(慣習……決まり……会えない…………なるほど)
村長の答えを聞いた俺は一つの予想へとたどり着いた。
(……感染予防、かな)
俺は、この慣習の存在理由が感染症を予防するために存在するのではないかと考えた。
子供は感染症や病気に罹ると、大人よりも重症化しやすい傾向にある。
それは、子供が大人よりも免疫力や体力に乏しいことが大きな理由になっているらしい。
そして、おそらくだが、その傾向に気づいた、若しくは気づいていなくても、会わなければ感染症に罹りづらくなると気づいた人物が、この慣習の基を作った、あるいは、一人では無く時代を重ねるごとに徐々に慣習が出来上がっていったとか、まあどちらにしろ、この慣習はそういった伝承によるものだと俺は考える。
「決まりってどういうこと?理由は?」
俺はそんな慣習をもう少し詳しく知るため、村長へと問い質すように聞く。
「理由かあ……なんだろうね?んん…………ごめん、理由はちょっと分かんない」
俺は慣習がなぜ存在するのかをもう一度尋ねてみたが、その答えはあまり変わらなかった。
「分かった」
そんな村長の答えに俺は、理由が不明であることを理解したことを伝えた。
(なるほど……効果はあるかもしれないが形骸化している、ということか)
この慣習は、形としては残っているが、その理由に関しては失伝したのか、元から不明瞭だったのか、どちらなのかは分からないが、どちらにしろ理由が存在しない慣習になっている訳だ。
(しかし、この形骸化……やはり、おかしいのでは……んん……)
俺が慣習の事について考えを深めていると……
「はは!やっぱりスイは賢いな!」
父親が俺のことを褒め出した。
(賢い?今の会話の中で特筆するほど賢い要素あったか……ああ、探求心がある、みたいなことか?それとも親の色眼鏡か?)
「スイが賢いことは嬉しいが……俺も話したいことがあるから、代わってもらってもいいか?」
どうやら、父親は村長と話したいことがあったらしく、村長との会話を交代して欲しいらしい。
「いいよ」
俺は父親の申し出を断ってまでする会話は特に無いので、素直に会話の主導権を譲ることにした。
「ありがとう!」
父親は俺へと感謝を告げて、村長と会話を始めた。
「それで、ここ最近の収穫はどうだ?俺の方は特に変わってないが……そっちの方は?」
「ええ、こっちもあまり変わらないわ」
「上とか、周りはどうだ?」
「変化なし、よ」
「そうか……じゃあ、スイが産まれてからの1年は特に何もなかったか」
「ええ」
「それから……」
俺は父親と村長の会話の内容に耳を立てていたが、その内容を理解できたか、と言われれば首を横に振るだろう。
2人の会話は略語や指示語ばかりで、イマイチ具体的な内容については分からなかった。
しかし、ある程度の情報を掴むことはできた。
まず、この家がある場所は都会などではなく、そういった場所から離れたおそらく田舎にあると思われる。
次に、ここに村長という存在、村長という立場の者がいるということは、何かしらの共同体やコミュニティには両親が属していることが分かる。
そして、全体的な話の内容から、やはりこの家だけではなく、この家が属する共同体やコミュニティの文明レベルも相当に低いことが予想できる。
(なんか鍬がどうとか、鋤がどうとか、言ってるし、今時農業をするにしても機械を一切使わないなんてことあるか?そもそも、電気機械とか化学製品の話なんか一切出てこないし)
俺は、その後も2人の会話から情報を入手することに努めた。
「よし、じゃあ帰るよ」
父親との会話を終えた村長は帰宅を宣言した。
どうやら、無駄話はしないタイプらしい。
カタッ……サッサッ……
村長は立ち上がると、服を手で払いながら直していた。
「……よし」
そう独り言ちると、村長はこの部屋の扉へと向かっていった。
今回村長が来たのは俺に会いに来るためだったらしいが、どうやら会うだけで特に話すことは無いらしい。
そして、村長が扉へと手を掛けようとする時……
「あなたの家に連れて行って」
俺は村長を引き留めた。
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