第04話 文明
「ん……ん……んっ…………ぱ」
胸部から、俺の口が離される。
「……ah……afeniubadnirnair、sui」
俺を産んだ女が、俺に対して、何か、声をかけているように聞こえる。
(やっぱり……動かないな)
俺が赤ん坊になってから、7日が経過した。
(……前世……かな)
そして、その7日は、前世説が肯定され、夢説が否定されていく7日だった。
「sui、sui、sui」
(シィ、セイ……いや、"スイ"かな)
俺が赤ん坊になる、という奇妙な状況になってから、7日が経過した。
その間、俺は赤ん坊として生きながら、情報収集に努めた。
そして、いくつかの情報を手に入れることができた。
「sui、sui、sui」
(んー……やっぱり、"スイ"だな)
まず、俺の出産の場にいた、父親、母親、助産師の三人が使っている言語に関して、一つの情報を得た。
その情報とは、先ほどから、母親が繰り返し言っている……
『sui』
……という言葉である。
この言葉を、母親に限らず、父親も頻繁に使っている。
俺は、この言葉を、「はい」や「うん」みたいな、相槌や返事などに使われる言葉……もしくは「俺の名前」なのではないか、と考えた。
まあ、俺の名前なのだとしたら……正確には、"赤ん坊の俺"にとっての名前、ということになるがな。
(この言葉が、情報として使えるかどうかは……んー、微妙かな…………いや、少し使えるかもな)
「sui、asdfoiehoaefoe」
授乳するために、俺を抱きかかえていた母親は、ベビーベッドへ俺を戻そうとする。
チラッ、チラッ、チラッ
(んー………………やはり無いか)
母親が自分の胸から、ベビーベッドへ俺を戻す瞬間に、俺は、自分の視界に映りこんできた場所……俺が今いる部屋の中を、確認する。
……スッ
俺の体が、ベビーベッドへ戻された。
(やはり、俺が今いる場所は……"そんな程度"の場所なのか?)
この7日間で、先ほどの『sui』という言葉以外にも、俺は情報を得ている。
それは……俺が今いる場所の生活レベルが低い、という情報だ。
文明レベルが低い、と言い換えることもできる。
今や、世界中が利用している、電化製品やプラスチック製品、俺はそういった物を、この7日間で、一度も見ていない。
発展途上国の貧困層であっても、普段から、化学繊維の服を着ていたり、プラスチック製品を使っていたりする。
なのに、俺が今いるこの部屋に、そういった物は無い。
母親や父親が、化学繊維の服を着ていたり、プラスチック製品を使っていたりもしない。
(この部屋は木造で出来ている……だが、質感が違う)
さらに、部屋の文明レベルも低い。
(普通は、木造の建物と言っても、その建物に使われている建材の木には、加工前の木材には無い、艶や光沢があるはずだ)
(しかし、この部屋の壁や天井に使われている木材には、全然加工がされていない)
この部屋の壁や天井には、傷と呼ぶには大きすぎる傷や、デザインとは思えない割れ目や裂け目の数々、森から今持ってきたと言わんばかりの自然すぎる質感があった。
この部屋の建材には、大した加工がされていないことを、容易に想像できる。
(母親の服、俺を包んでいる布……麻か?)
そして、母親や父親の服、俺を包んでいる布は、俺が今まで触ったことの無い質感だった。
それらは、粗雑で、手作りのような質感であった。
一言で言えば、ゴワゴワとしている。
以前、麻から作り出された服を見たことがあるが、それに近い質感だ。
(それから……文明と言えば、あの灯りも、だったな)
それは、俺が、夜中に母親を呼びつけた時のことだ。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この作品を応援している!」
と思ったら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!
あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!
ブックマークもいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!