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第37話 食事を片手に

 ブルルッ



 ベビーベッドの上で寒さに身震いする俺がいた。


 そのベビーベッドは以前まで使っていた物よりも大きくなっていた。


(……372)


 俺が黒い奴と再会し、奴を討伐してから半年ほどが経過していた。


(372日目か)


 その経過は、俺がこの体に産まれてから372日が経過しているということでもあった。


(さむ)


 俺はこの体に産まれた時期と同じ寒さを再び感じていた。




 ガチャ……キィィィ……


 部屋の扉が開いた。


 ィィィイ……バタン


 扉が直角まで開いたかと思うと、今までの方向とは別の方へと向かい、扉は閉められた。


 そして、扉の前には……


「スイ~、ご飯の時間よ~」


 母親が立っていた。


「わかった。リコ」


 俺は母親の言葉に、了承の言葉と"リコ"という言葉で返した。




 突然だが、今の俺にとっての父親の名前は「スゥ」と言う。


 これは父親と言語レッスンを始めた最初の時に教えてもらった言葉だ。


 じゃあ、母親の名前は?


 もちろん聞いている……父親ではなく本人から。


 母親はその名前を「リコ」と言う。


 父親から父親の名前を教えてもらった翌日に、母親からこの名前を聞いたのだ。




「リコ。今日は肉入ってる?」


「ごめんね~スイ、今日は入ってないのよ~」


 俺の問いに対して、母親は否定を返してきた。


「そう……」


 俺はその返答に喜びでも悲しみでも無いような微妙な、声音(こわね)で応えた。


 俺は母親を呼ぶ時に「母さん」とか「ママ」みたいな、母親に対する呼び名を使わない。


 それはなぜか?


 そういう言葉が、俺や両親が喋っている言語には存在しないからだ。


「母さん・父さん」、「ママ・パパ」といった前世では普通に使われていた言葉に該当する言葉が無いのだ。


 だから、俺は両親を呼んだり両親と話したりする時に、両親それぞれの名前を使って会話をする。




「今日はお肉入れられなかったけど、お野菜なら"いっぱい"入れられたわよ」


「……嬉しい」


 俺は母親からの新たな情報に喜びを表して応えた。


「じゃあ~はい。どうぞ~」


「ありがとう」


 俺は母親から木製の器を受け取った。


 その器には、穀物と野菜が半液体状になったものが入っていた。


(うん……"いっぱい"では無いな)


 だが、そのほとんどは穀物が占めており、野菜は散見される程度であった。




 俺は先ほどから、母親と普通に会話をしている。


 俺は半年をかけて、ある程度会話ができるまでに仕上げたのだ。


 日常会話が成り立つレベルなら今よりも一か月くらい前には(さま)になっていたと思う。


 ただし、あくまでも"ある程度"なので、会話している時に知らない言葉はちょくちょく出てくる。


(まあ、その時はその言葉について、意味とか使い方を教えてもらうけどな)


 一つ目の言葉を覚えてから、五か月ほどで日常会話ができるレベルというのは遅いのか早いのかイマイチ分からないが……


 一つ言えるのは、


 言葉を覚えにいって良かった、ということだ。






 コッ……コサッ…………ハフゥ、ジュジュ


 俺は自分の左手に置かれた器から、右手に持ったスプーンを使って、器の中の半液体状のものを口へと運び、(すす)るようにして、それを食べた。


(……塩)


 俺は半液体状のもの……離乳食を食べながら、それが塩ばかりの味しかしないことを舌で感じていた。


 すると……


 ガチャッ……キィィィ……


 この部屋の扉が開いた。


 ィィィイ……バタンッ


 扉の開閉音は先ほど母親が開けた時よりも僅かに力強さのようなものを感じた。


 そして、閉まった扉の前には……


「リコ、スイ」


 父親が俺たちの名前を呼びながら立っていた。




 コトッ……コトッ……


 俺は、既に母乳から離乳食へと切り替わった食事を()りながら、父親が入室してきた様子を見ていた。


 俺は食事の手を止めることは無かったが、内心は怪訝(けげん)な気持ちになっていた。


(なんだ?なぜ父親がこの部屋に来た?)


 俺は父親が部屋に来たこと自体に疑問を抱えていた。


「あら、スゥ。どうしたの?何かあった?」


 父親の来訪に疑問を抱いていたのは俺だけでは無かった。


 母親も疑問を感じたようで、父親へと、この部屋に来た理由を問う。


(なんで父親がこの時間に来るんだ?)


 俺が感じていた疑問も、おそらく母親が感じているであろう疑問も、なぜ父親がこの時間にこの部屋へと来たのだろう?という同じ疑問であろう。


 父親がこの部屋へと来るのは正午だけであり、それは俺が産まれてから、ずっと続いてきたことだ。


 実は、この部屋に父親と母親が同時に居たことはほとんど無く、出産の時や俺が初めて喋った時くらいだった。


 そんな父親が、正午でも無い時間に来たことに、何かを思わずにはいられないだろう。




「ああ。リコ、実は……」


 父親は母親の、何かあったのか?という疑問に肯定(こうてい)を返した。


 そして、続く言葉で……




「FULEIが来た」




 意味の分からない単語が来たことを告げた。

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