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第35話 動かせないものども

 それはまるで……




 俺自身に能力を使った時のように。




 俺は自分自身に対して、能力を使うことはできない。


 これは以前から分かっていたことだ。


 そして、それと同じように黒い奴も動かせないことが今回の事で分かった。


 俺は、自分自身を動かせないことが分かった時に、その原因について四つの仮説を立てた。


 1.俺自身にだけは使うことができない説

 2.人間に対しては使うことができない説

 3.生物に対しては使うことができない説

 4.内燃(ないねん)機関を持ち、自発的に動ける存在には使うことができない説


 この四つの説は一つのことについて共通している。


 それは能力にはそもそも動かせない物があり、動かせない物には一定の基準があるのではないか?ということである。


 要するに、この四つの説は俺が動かせないもののグループ分けである。


 一つ目から三つ目はそのままの意味であり、


 俺には使えない、人間には使えない、生物には使えない、というそのままの意味である。


 四つ目は例えるなら、車や飛行機、船などの事である。


 これらはエンジンという内燃機関によってその動力を得て動く。


 つまり、今まで動かすことのできた部屋の中にあるものは全て静止しており、その中に自発的に動ける物が無かった。


 しかし、もし重力や放射能などの今まで動かすことができた物にも与えられていたエネルギー以外のエネルギーを与えられるエンジンのような物を持つ物であれば、それを動かすことは出来ないのではないか?というものが四つ目の説である。




 要するに、この四つは今まで能力で動かせたものと、動かせなかった俺との違いを細かく分けたか大きく分けたかの違いであり、俺と部屋にある物の違いを考察しただけなのだ。


 椅子は俺ではないが、俺は俺である。


 椅子は人間では無いが、俺は人間である。


 椅子は生物ではないが(死亡した植物ではある)、俺は生物である。


 椅子は内燃機関を持っていないが、俺は細胞という内燃機関を持つ。


 俺は、自分自身を大きなグループと小さなグループとに分けて、それを調査し、考察することで、そもそも能力を発動することができない対象を知ることができると考えたのだ。


 ちなみに、内燃機関ではなく慣性(かんせい)によって動いている物が動かせるのは既に検証済みだ。


 能力を使って放り投げた鞠に使っている能力を解除して、床へと落ちる寸前に再度能力をかけて床へと落ちることを防ぐことが出来たので、慣性によってただ動いているだけ、という物は動かせない対象にはならない。




 そして今回、黒い奴を能力によって動かそうと試み、それができなかったことで仮説への検証が大きく進んだ。


 まず、奴が動かせないということは、能力は最低でも生物の段階から動かせないことが分かった。


 奴は俺ではないし、人間でも無い。


 だが、奴は生物ではあるし、奴も細胞という内燃機関を持っている。


 つまり、能力の非有効対象は、三つ目と四つ目の仮説である生物()しくは内燃機関を持った存在である可能性が大きく高まったということだ。


 もしかしたら、能力は黒い奴にだけは使えないとか、先ほど殺害した個体にだけは使えないという可能性もあるにはあるが、それを考えたら法則性なんてあったもんじゃないので、考えるだけ無意義(むいぎ)なことだ。


 また、俺が能力発動に失敗したという可能性について、俺はその可能性が無いと確信している。


 なぜなら、奴に能力を使った時に俺自身に使った時と同じ感覚が明らかにあったからだ。


 これは感覚に頼った理由になっているが「これを否定するのは絶対に無理」と思えるほどの確信を(ともな)った感覚だったのだ。




 そして、もう一つ能力に関して、分かったことがある。


 それは、能力を使うことができない生物であっても、その生物が死亡していれば、能力を使うことが出来るようになるのではないか?ということだ。


 これは、椅子や棚、俺のベビーベッドにも使われている木材……つまり、植物の死体から作られた物を動かすことが出来ていたことから、察していたことでもあった。


 そして、今回奴が存命の時は動かせなかったが、死亡すると動かせるようになったことで、死亡した生物であれば、能力の効果対象になるということに確信を持てるようになった。


 しかし……


(なんで、死んだら急に動かせるようになるんだ?)


 俺は能力の一端(いったん)が判明したことで、また別の疑問が()き上がっていた。


(そもそも、俺が考えた動かせない物のグループ分けの説に関して、一つ目から三つ目までの説は共通点を見つけて区別しているだけの説だから、死亡することで能力が有効になることの説明にはならない)


 俺が挙げた四つの説の内、俺から生物までの三つはあくまでも動かせない物が何であるのかを考察しているだけで、ではなぜそれらを能力によって動かすことができないのか?ということの具体的な説明にはなっていないということだ。


(もし、内燃機関を持つ存在が正解の説だとしても……おかしいんだよな……)


 だが、四つの説の内の内燃機関を持っていて自発的に動くことができるものに関しては、何故動かせないかの直接的な説明に関係している。


 内部のエネルギーが存在している物には能力が発動できないという仕組みとかであれば、それがかなり大雑把な理論とはいえ理由にはなる。


 しかし、俺はこれが死体を動かせたことの理由であるとは思えなかった。


 何故なら……


(奴は死んでいるが、奴の体は死んでいないからだ)


 死というのは一つの状態であると考える人も多いが、そうでは無い。


 死というのは複数の状態が進行している現象なのだ。


 体の全てが散り散りになってしまった人間は死んでいるか?


 その人間は明らかに死んでいるだろう。


 では、心肺停止の状態の人間は死んでいるか?


 その人間はそのまま行けば死ぬだろうが、適切な救命処置をすれば助かる……蘇生(そせい)するかもしれない。


 だが、生き返ったとしても心肺停止状態の人間は一度、死と同義(どうぎ)の状態にいた。


 ではなぜ、この人間が生き返る可能性があったのか?


 それは、心肺が止まっているだけで他の細胞は死んでおらず、その機能を生きている時と同様に保っているからだ。


 そうでなければ、心肺を動かし始めた所で蘇生などするはずも無い。


 であれば、今回の黒い奴も生命活動という体全体の調和によって成り立つ現象をフォークに貫かれたことで停止させられていたが、その体の端々(はしばし)……つまり、細胞はまだ生きていただろう。


 それならば、内燃機関を持っている存在を動かせないことと矛盾してしまう。


 生物とは、エネルギーを生み出す内燃機関を備えた細胞の集合体なのだから。


 その細胞達が内燃機関を維持しているのであれば、死亡直後の死体を動かせることの説明が、四つ目の説ではつかない。


(んん……分からんなぁ……)


 俺は死体に対して突然能力が有効になった理由を考えるが、思いつかないでいた。




(そもそも、死んだから動かせるっておかしくね……)


 俺は死亡した対象を動かせること自体に疑問を(てい)し始めた。


 そもそも、死とは生物の連続性を持った状態の一つに過ぎない。


 生物が寝ている状態、食べている状態、走っている状態、死んでいる状態……


 そんな風に並べることができる、生物の一つの状態でしかないと俺は考えている。


 ただし、死という状態は他の状態と比べて、他の状態へと移る可能性が極端に低い状態でもある。


 食事をした後に寝る、寝た後に起きる、走った後に座る……


 これらの状態は他の状態へと簡単に移ることができるが、


 死んだ後に食べる、死んだ後に寝る、死んだ後に走る……


 こんなことは普通できない。


 だから、死をとても特別で、神聖で、上位の状態だと考えてしまう人がいる。


 だが、死というのは他の状態と違う部分があっても、他のものと同じ、ただの状態の一種なのだ。


 実際、心肺停止という死の状態に移行した人でも蘇生することで、食べることや寝るという状態に移行できる。


 だから、死というただの状態がトリガーとなって、能力が使えること自体が論理的じゃないというか……自然的じゃないというか……


(なんとも不可思議(ふかしぎ)だ……まあ……この能力の存在自体が、ってところもあるかもな)


 俺は能力の不自然さに触れると同時に、そもそも念じるだけで物体を動かせるこの能力の超常的な側面から考えれば納得できる現象なのかもしれないと感じていた。




(両親に試せば……確定するんだけど……)


 俺は能力の有効対象を調査する方法として両親を候補に()げる。


 両親を能力によって動かせないことが分かれば、生物より上のグループから動かせないことが確定的になるからだ。


 そして、この検証方法は前々から考えてきたことである。


 が……


(んん……やっぱ、無理だろ)


 直ぐに諦めることにした。


(面倒になるしな……)




 何かを危惧(きぐ)した俺は両親への検証を断念することにした。

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