第34話 後を考えて
…………………………
先ほどまでの黒い奴とのいざこざが無かったかのような、そんな静けさが部屋に響いていた。
(終わりっと……)
静寂の中、俺は奴に対する後処理が終わったことを心の中で告げていた。
(……んん…………あれで大丈夫だよな?)
それと同時に、後処理にほんの少しの心配を抱いていた。
奴を討伐した後、俺はその後処理について少し頭を悩ませていた。
主に、二つのことについて。
一つ目は、奴が何かしらの病原菌を持っているかもしれないということと、その対処法についてである。
もし、特に何もせずにこの部屋に奴の死体を放置し、もし奴が病原菌を所持していた場合、俺が真っ先にその病原菌の標的になってしまう。
そう考えれば、まず奴の死体をこの部屋から追い出そうと考えるのは必然であろう。
もし、病原菌を持っていないとしても、奴の死体を餌に他の生物が群がってくる可能性もある、そうなれば何が起こるのか自ずと分かるだろう。
持っていない可能性を考えても、奴を捨てるという対処法を取ることはあまりにも必須事項であると言える。
なので、俺は奴の死体を少し弄った後、
フォークに付いていた奴の体液を奴の体へと戻し入れてから、外へと放り投げた。
外へ投げ捨てる時に込めた能力の力の具合からすれば、多分20,30メートルは飛んでいると思う。
そして、次にフォークに関しても処理する必要性を考えた。
フォークについては、一応奴の体液を除去したが、念には念を入れて、フォークも汚染されていると仮定して、外へと放棄したのだ。
その際、フォークの形をフォークではなく木の枝へと変貌させた。
何故変貌させたのか?
それこそが、二つ目の懸念点である。
それは、俺がこの事態の容疑者として疑われることだ。
(まあ、実際俺だが)
外へと投棄した黒い奴とフォークが他の者に見つかった時に、何を思われるのか?
それは分からない……だが、
俺がそれに関わっていると思われるのは困る。
一歳にも満たない新生児である俺がどのようにして奴とスプーンを外へと投げ捨てたのか?
そして、奴の傷跡とあのフォークの形状を見れば、奴はあのフォークに貫かれたのではないか?と推測してしまう可能性もあり、その当事者が俺だと疑われる可能性もある。
もちろん、そもそも俺がやったなんていう可能性自体が馬鹿馬鹿しいと一蹴されるだけかもしれない。
(しかし……前提が違うとすれば……)
俺は自分が疑われる可能性を念頭に置いて、後処理を慎重に行うことにした。
まず、大事なのはフォークと奴との間に関連性を持たせないこと。
関連性があると分かれば、奴がフォークに刺されて死んだこと、フォークがあった場所で奴が殺されたことが推測されてしまう。
つまり、奴単体が見つかれば、その傷を除いて考えれば、ただの死体だと思われるが、フォークによって殺されたと分かれば、フォークがあった場所で殺されていることが必然であり、そのフォークの元の所在が分かれば、俺へと辿り着くことは可能となる。
俺が今住む家のフォークだと分かれば、両親に心当たりなど無いのだから、必然的に俺か、不法侵入者とかにしかならないだろう。
そのためにはまず、奴とフォークが同じ場所で発見されないように、奴は家の近くに、フォークはなるべく遠くに投げ捨てることにした。
フォークを遠くにしたのは、フォークの方がある程度の重量があって空気抵抗の影響が少ない形だったので遠くへと飛びやすかったからだ。
そして次に、両方発見されたとしても、両者に関連性が無いように思わせるために、両者が関連する要素を変化させた。
奴にはフォークの刺し傷が、フォークには奴の体液が、それぞれ関係する証拠になっていた。
フォークに関しては、奴の体液を取るだけで済んだ。
奴に関しては、その体に出来た傷跡を変化させることで刺し傷ではなく、重いものに上から潰されたかのような圧死に見えるように奴の死体を改造した。
最後に、フォークが見つかった際に、この家のこの部屋に置かれていたものだと分からなくする必要があった。
奴が見つからなかったとしても、フォークが見つかり、その素性が明らかとなれば、それだけで俺が困る事態になりかねない。
なので、フォークを普遍的な見た目の木の枝へと変形させることで自然の産物であると思わせるようにした。
普遍的というのはあくまでも俺の知識に由来するものだがな。
そんな手順を踏んで、俺は後処理を完遂した。
(……だが、奴を討伐したことより……能力の瞬発力検証より……)
俺は後処理について一抹の不安を抱えていたが、別の思考へと直ぐに切り替わった。
(動かせなかったし……動かせたな……なるほど……)
俺は後処理の過程において、黒い奴に対して平然と能力を使えていた。
奴を討伐する前に能力を使った時には微動だにしなかったのに……
それはまるで……
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